陸上・駅伝

特集:第97回箱根駅伝

前回5位と躍進の東京国際大 箱根駅伝常連校となるため、確実にシード権を

エントリーメンバーは4年生が6人、3年生2人、2年生5人、1年生3人。シード権獲得に向けて確実に進みたい(写真提供・東京国際大学)

創部10年目、前回の箱根駅伝では5位で大学史上初のシード権を獲得した東京国際大学。12月16日にオンライン取材があり、大志田秀次監督と選手たちが箱根駅伝に向けての目標や意気込みを語った。

「大砲」はないが、着実に戦力が整ってきた

昨年は2区を走った伊藤達彦(現・ホンダ)が区間2位で流れを変え、3区イェゴン・ヴィンセント(2年、チェビルベレク)の異次元の区間新記録でさらに勢いをつけて往路3位。そのまま粘り、史上最高の5位でのゴールになった。大志田監督は伊藤の存在の大きさに触れ、その穴はあると認めたものの「伊藤が大砲だとすれば、今年は4年生を中心に5人固まれば遜色ないぐらいの威力だと思っています」とチーム力を強調した。

今回エントリーされた16人のメンバー中、箱根駅伝の経験者は5人。2年生で日本インカレにも出場した山谷昌也(水城)が直前のけがでメンバーを外れるなど少し痛いところもあったが、順調に力をつけてきている選手もいる、とメンバー全体を評価する。

高校時代に目立った実績がなくとも、4年間で強くなれるのが東京国際大の強みだ(写真提供・東京国際大学)

期待している選手をたずねると、経験者はもちろんと前置きし、4年の荒井雄哉(東海大山形)、2年の善田修平(滋賀学園)、1年の林優策(滋賀学園)の名前をあげた。「3人は練習でも積極的になってきています。善田は夏合宿でBグループでしたが、直近の練習では同学年の丹所(健、湘南工大附)、山谷と同じような練習ができてきています。強くなったなと思います」。さらに荒井についてはもともとの力があったが、けがをしたりして大会に出られていなかったとし「こんな選手いたんだ、こんなに走れるんだ、ということもお見せできるかと思います」と今まで駅伝を走った経験のないメンバーにも期待する。

今のチームは留学生のヴィンセント、丹所、ルカ・ムセンビ(仙台育英)と特に2年生に勢いがあるように感じられる。いまのところ、ヴィンセントの2区起用が濃厚だ。「そこが軸になる中で、1区がうまくいけば加速できると思います。徐々にどう戦うかが明確になってきています」とレースプランが固まってきている様子を伺わせた。

「4年生で走れることがすべて」内田光、監督の言葉を胸に

6人エントリーした4年生のうち、内田光(佐久長聖)に話を聞いた。今年の全日本大学駅伝で大学駅伝デビュー。3区15位とほろ苦いデビューに「スタート前は自信があったけど、今まで経験していなかった各校のエースとの勝負で力の差を感じました」。大舞台で緊張し、守りの走りになってしまったという。「駅伝の流れ、スピードに乗れませんでした。スピード自体が足りていなかったと感じたので、今はスピードを磨いています」

佐久長聖高校出身の内田は、高校3年次の都大路で5区区間賞を獲得。持ちタイムも上位で、「浮かれながら入学していた」と振り返る。2年生のときにギリギリで16人のメンバーに入れず、コーチとの衝突もあった。大学4年間の半分を過ぎても大きな大会で走れない自分に嫌気が差し、競技を離れたほうがいいのかとも考えた。両親とも話し合い、「続けてほしい」という思いも聞き、陸上を続けることにした。そして4年目で実力を高め、メンバー入りをはたした。

4年間で挫折も経験した内田。最初で最後の箱根に向けて強い気持ちで臨む(写真提供・東京国際大学)」

大志田監督からは、下級生の頃から「4年生で走ることがすべてだ」と声をかけられていた。「1年生や2年生で箱根駅伝を走れなかったからだめ、ではなく、今は走れなくても4年生でしっかり走れるような選手になれ、と言われていました。しっかり監督の期待に応えるような走りができれば恩返しできると思う」。大志田監督の言葉通りになった今、感謝の気持ちを込めて走る。

そしてもう1人、内田が思いを込める人がいる。メンバーに入れなかったキャプテンの中島哲平(4年、水城)だ。中島とは特に仲が良く、「親友みたいな感じで、常に一緒にいます」と表現する内田。キャプテンとして他のメンバーには見せない弱い部分も見てきた。16人のメンバーが決まった後、中島は内田の部屋に「俺は入らなかったから、ウッチーが俺の分まで頑張ってくれ」と直接言いに来てくれた。「最後、彼のぶんまで走らないと。頑張らなきゃいけないなと思いました」

「我が道を行く」芳賀宏太郎、自分との勝負が第一

1年生から2年連続で箱根駅伝を走っている芳賀宏太郎(3年、学法石川)は、チームの練習とは別で個人として練習を組んでいる。大学に入学したときに、スピード練習がメインだった学法石川高校の練習と比べると、高校のほうがレベルが高いと感じた。その後全体の練習に合流するものの、スタミナ系の練習をしたときに脱水症状や過呼吸になり、2度救急車で運ばれもしたという経緯があり、それ以来ずっと個人で練習メニューを組んで、地道に実力を高めてきた。

大学の駅伝チームに所属していながら、ずっと個人練習をしている選手は珍しいのでは。そうたずねると、この特殊な形でできているのも大志田監督の存在があってこそだという。練習メニューを相談するため、定期的に監督と話をするが、その際にも常に体を気にしてくれたり、いろいろなアドバイスもしてくれる。「全部(自分に)落とし込める言葉が多いです。親身になって聞いてくれる、頼れる人です。(学法石川の監督である)松田先生と話した時にも、そういう練習をさせてくれる大志田監督に感謝しなさい、と言われます」

日本選手権10000mの相澤と伊藤の戦いは、芳賀にとって2人とも先輩で「大いに刺激になった」という(撮影・藤井みさ)

常に個人で練習を組んでいるため、今年前半に新型コロナウイルスの影響で帰省した際も、今までと変わらず練習を積むことができた。「外に行く機会が少なくなった分、自分の体のケアに時間を割けたりとより集中できました」というが、陸上に入りこみすぎたがゆえに練習しすぎ、夏の初め頃に右足を疲労骨折してしまった。もともと芳賀は1、2年目は箱根を走れればいい、3、4年目でいろいろ結果を出していこうと考えてやってきていたため、けがをしてすぐはかなり落ち込んだという。だがそんなときにも大志田監督から「箱根では絶対使いたいから」と声をかけられ、モチベーションを保ってここまでやってきた。

昨年は8区を走り「一番きつかった遊行寺の坂しか覚えてないです」と笑う芳賀。今年はできれば3区を走りたいが、けがからの回復状況も考えたら経験のある7、8区がいいのかなと冷静に考えてもいる。

芳賀が学法石川高校3年の時に都大路をともに走った半澤黎斗(早稲田大3年)、久納碧(法政大3年)、横田俊吾(青山学院大2年)、松山和希(東洋大1年)、櫛田佳希(明治大2年)、小指卓也(早稲田大2年)の6人は、今回全員がエントリーメンバーに名を連ねている。「彼らと戦ってみたいなという気持ちもあるし、勝ちたいと思うけど、あんまり考えると自分本来の走りができなくなってしまうので。前回の自分を超える、自分との勝負を意識していきたいと思います」

日本人エース・丹所健、流れを作る走りを

前回1区で箱根駅伝デビューを果たし、今年は2年生にしてすでに主力の1人となっている丹所。前回の箱根駅伝が終わった後に大志田監督から「主力として考えている」と言われ、自覚が徐々に芽生えてきた。前回は区間1桁順位、トップと1分差以内に襷(たすき)をつなぐことを目標としていたが、区間13位、トップとは1分49秒の差をつけられてしまった。「1区から流れを作れず、2区の達彦さんのところで流れを作ってくれた形になって、悔いしか残らなかったです」と振り返る。

気持ち新たにシーズンを迎えた矢先、1月に膝をけがしてしまい、3月まで走れなかった。4月からは一時神奈川の実家に帰省したが、「大会があったとしても(けがの影響で)出られなかったと思うので、そこまでモチベーションが落ちたということはありませんでした」という。ただ1人で練習する中で追い込みきれないことがあり、チームで練習することの大切さを改めて感じられたと口にする。

前回は1区で流れを作れなかった、悔いしかないという丹所。今年はチームに勢いをつける走りをしたい(撮影・安本夏望)

けがから復帰して7月の東海大記録会では、5000m13分56秒51で自己ベストを更新。10月の東海大記録会でも10000m28分39秒63とこちらも自己ベストを更新し、着々と実力をつけてきた。11月の全日本大学駅伝では目標を区間5番以内と置いていたが、結果的には2区区間8位だった。区間5位まではあと9秒だったので、箱根に比べたら悪くないと言いながらも「最初からオーバーペースで入ってしまい、いい流れを作ることができなかった」と満足していない。

箱根で走りたいのは3区。コースが高校のすぐ近くを通るため、友人もいるしその近くを走りたいと希望している。「3区を走るのであれば2区の留学生がトップで入ってくると思うので、前半は焦らず入って、後半にギアを変えていきたい」とイメージを考えている。

前回大会よりインパクトは小さいかもしれないが、着実に戦力を整えてきている東京国際大。「常連校」となっていくために、確実にシード権獲得に向けてチーム一丸となって臨む。

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