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特集:2021年 大学球界のドラフト候補たち

中日から2位指名、駒澤大不動の4番・鵜飼航丞 挫折を乗り越えつかんだプロへの切符

中日からドラフト2位指名を受けた直後、安堵の表情でガッツポーズを見せた鵜飼(写真提供:駒澤大学)

プロ野球の新人選手選択会議(ドラフト会議)が10月11日、東京都内のホテルで開かれ、駒大の鵜飼航丞(こうすけ・4年、中京大中京)を中日が2位指名した。会見開始直後は緊張した面持ちだったが、中日ドラゴンズの話題になると頬を緩めた。理想とする選手像として「日本の4番を打てるような信頼される選手になりたい」と語った鵜飼。ドラフトに指名されるまで、鵜飼はどのような野球人生を歩んできたのだろうか。

高校での飛躍

鵜飼がボールを飛ばす力をほかの部員よりも持っていることを知ったのは、中京大中京高入学直後だった。「中学までは軟式だったため気づかなかったが、入学後の練習で気づいた。パワーを意識し始めたのはこの時からだった」と語る鵜飼。そのパワーは高校時代の監督から歴代ナンバー1と評されるほどのものだった。入学後はスイングスピードを上げることと、ウエイトトレーニングを中心に飛距離を伸ばす練習を重ねたことで、高校通算56本塁打を記録。結果を出す中でプロ野球のスカウトからも注目され始めたが、「まだ、プロに行けるようなレベルじゃない」と2年の冬に東都大学野球リーグの名門・駒大への進学を決めた。

17年夏の甲子園、広稜戦で安打を放つ鵜飼(撮影・林敏行)

駒大への進学を決めたのは「2個上の上野翔太郎さん(19年卒、現・三菱重工East)がいたのと、コーチに駒大出身の方がいたこと。加えて駒大のコーチが練習を見に来てくれた時に勧誘を受けたから」だという。高校3年次、最後の夏には激戦区の愛知県大会を勝ち抜き甲子園大会に出場。鵜飼は四番として2安打を放ち強打者の片鱗を示すも、この大会準優勝校の広陵高に6-10でチームは敗れ、初戦で涙をのんだ。

よりよい自分になるために

自慢のパワーを武器に甲子園常連校の4番を任されていた鵜飼は、駒大期待の新入生として入学前の2月に行われた愛媛・松山キャンプのメンバーに選出された。下級生からリーグ戦での活躍が期待され、入学式の当日に行われた東都大学野球春季1部リーグ開幕戦でリーグ戦初出場を果たし、その後も主に代打として出場機会を得た。しかし、木製バットへの対応に苦しみ、初出場を果たした1年春から2年春までリーグ戦16試合無安打。上級生を押しのけながら試合に出ることへのプレッシャーもあっただろう。

本人も「何をやってもうまくいかなった。とても辛かった」と当時の心境を吐露する。しかし、2年次の秋季リーグ開幕戦で待望のリーグ戦初安打を放つと、そこから6試合連続安打を記録。対東洋大2回戦では高校時代からの先輩・上野を援護するリーグ戦初本塁打を放ち、将来の活躍を予感させた。

2年秋、対東洋大2回戦で東都リーグ戦初本塁打を放った鵜飼(撮影・白石芽生)

順調にチームの主軸へと歩みを進めていた鵜飼だったが、3年春に左手有甲骨を骨折してしまう。3カ月以上バットを振ることができず、「プロに入るのは無理なのではないか」という考えが頭をよぎることもあった。しかし鵜飼はそこで立ち止まることはなかった。怪我をする前よりも良い自分になるためにはどうすればよいのか、常に考えながら過ごした。高校時代の同級生で、中日ドラゴンズに所属する伊藤康祐選手から同じ部分の骨折を経験している高橋周平選手の話を聞くなど、様々なアドバイスを受けた。さらには体を大きくする肉体改造を行い、パワーを重点的に強化。自分を見つめなおし、今できることを考えたことで確実に鵜飼は成長を遂げていた。

3年秋、対中大1回戦でシーズン初本塁打を放った鵜飼(撮影・篠原由之)

壁を乗り越え実った努力

自分を見つめなおした期間を過ごし、迎えた3年秋のリーグ戦では成長を印象付ける3本塁打を記録。ここでの活躍がプロへの道を開くことになる。当時駒大には若林楽人(20年卒、現・埼玉西武ライオンズ)が在籍しており、多くのスカウトが視察に来ていた。そのような状況で3本の本塁打を放つことが出来たのはスカウトへの大きなアピールにもなったことだろう。その効果もあったのだろうか、ブライト健太(上武大4年、葛飾野)、正木智也(慶応大4年、慶応)とともに大学BIG3と呼ばれることも増えた。2年ぶりの開催となった春季リーグでは3本塁打10打点を記録し本塁打、打点の部門でリーグ3位の成績を残した。

リーグ記録に並ぶ4試合連続本塁打を放ち、ポーズを決める鵜飼。その手には日頃の練習の賜物である大きなマメ(撮影・篠原由之)

ドラフトに向けて最後のアピールの場となった秋季リーグでは、開幕戦でバックスクリーンへの豪快な本塁打、ドラフト当日にも前祝弾となる本塁打を放ち、運命の瞬間を待った。

中日からドラフト2位指名を受けたあとも、怪物はその力をいかんなく発揮した。ドラフト会議明け最初のリーグ戦となった対青学大2回戦で決勝点となる2点本塁打を放つと、続く対日大1回戦で戦国東都屈指の好投手、巨人ドラフト3位・赤星優志(4年、日大鶴が丘)からレフトスタンドへ豪快なアーチをかけた。リーグ最終戦となった対日大2回戦でも「僕も見えなくなりました」と語るほどの特大弾を放ち、リーグ史上3人目、駒大では史上初めてとなる4試合連続本塁打の金字塔を打ち立てた。大倉監督は「ずっと見てきているだけに、これもできる、あれもできるだろと望んでしまう。アジャストする能力が段々上がってきた。不器用なりに良く頑張ってきたと思う」と鵜飼の成長を評した。

4番へのこだわり

指名挨拶で中日の正津スカウトは「今の中日には無いパワーを持っている。小さくまとまらずに育って、将来はタイトルを争うような選手になってほしい」とその長打力に期待。鵜飼は「高校時代から務めている4番という打順にこだわりがある。やはり4番はチームの顔であり一番かっこいいポジションなので、4番を打ちたい」。また「チャンスでの一本が大事。結果を振り返った時にチャンスの時の成績がいい。勝負強さを持ち味にしたい」と勝負強い主軸になる抱負を語った。

鵜飼は色紙に「4番」の2文字を書き込み、プロでの活躍を誓った(撮影・篠原由之)

大の中日ファンでナゴヤドームに自転車に通っていたという鵜飼。今までに見たプレーで印象に残っているものはブランコ(09~12年所属)とタイロン・ウッズ(05~08年所属)のレフト5階席への特大ホームランだ。しかし、鵜飼の飛ばす力は外国人打者にも負けないものを持っている。それを表すエピソードが駒大野球部祖師谷グラウンドでの出来事だ。グラウンドの広さは両翼90メートル。また高さ約30メートルの防球ネットもそびえ立っている。しかし打撃練習では鵜飼の放つ打球は軽々とネットを越し、その打球の推定飛距離はなんと140m。住宅街の民家に直撃することもしばしばだ。「そのたびに謝罪に行っている。この前はドラフト前ということもあり、自分のことを知ってくれていて応援してもらった」

驚異的な長打力を持つ鵜飼ではあるが本人は「スピードをつけたい」と語る。50メートルは6秒1と足の速さもアピールポイントの一つだ。プロの舞台で走攻守で一流になるポテンシャルを秘めていることは確かだ。そのポテンシャルをどこまで発揮することができるのか、今まで乗り越えてきた様々な困難を経験の糧に鵜飼は成長し続ける。プロ野球での鵜飼の活躍から目を離せない。

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