桃山学院大学のLB岡田吉城、遅れてきたルーキーのフットボールに支えられた回り道
アメリカンフットボールの関西学生リーグ1部は2組に分かれた総当たり戦最後の3試合目がある。A組で初勝利をかけて近畿大学と対戦する桃山学院大学の守備の中心に、精力的にフィールドで躍動する選手がいる。背番号「10」、1年生のLB(ラインバッカー)岡田吉城(よしき、立教新座)。身長が164cmで体重が82kg。LBとしてはサイズに恵まれている方ではない。
第2節では大柄な神戸大学のOL(オフェンスライン)と渡り合い、走ってくるRB(ランニングバック)を止めるためにタックルにいった。ヘルメット越しに見える目は人一倍の鋭さを持っていて、新入生らしからぬ堂々とした存在感が目を引いた。「今日の試合は、何がなんでも勝たなければいけなかった。一発TD(タッチダウン)を食らったり、一歩の詰めの甘さがそのまま結果になってしまいました」。14-14で折り返しながら、後半攻め込まれて14-35で敗れた試合を振り返り悔しがった。
唯一の関東出身、その訳は
岡田は関西の高校出身者が多い桃山学院の中で、唯一、関東の立教新座高(埼玉)から来た21歳だ。同い年の多くは大学3年生に当たる。聞くと、その経歴について話してくれた。小学校で立教に入学し、同じく立教に通う2歳上の兄、匠城(しょうき)さんが学校のフラッグフットボールクラブに入っていたので、アメフトが身近なところにあった。兄は高校で東京の強豪、駒場学園へ進学し、アメフトを続けた。岡田自身は野球少年だったが、兄の試合を見に行って、「激しくてカッコいいなと思った」ため、自分も立教新座高でアメフトを始めることにした。
高校に上がると、すぐに学校の授業をさぼりがちになった。「勉強もせず部活に逃げていました」と岡田。2年生に進級する成績が足りず、留年が決まった。一方で部活は頑張っていて、1年目はランプレーのブロックを主に担当するFB(フルバック)をプレー。2年目からオフェンスの隊形が変わりFBが無くなって、守備のLBに転向した。同級の人数が少なく、主将の廣瀬灯遥(とうよう、早稲田大学)を中心に全員が幹部のつもりで戦い、関東大会でも勝った。
しかし卒業成績が足りずに、もう1年高校に残ることになって、学生コーチとして後輩を見ることにした。この頃、コーチの体制がかわって、立教大学を卒業後に社会人Xリーグの明治安田パイレーツ(現・ペンタオーシャンパイレーツ)やオービックシーガルズでコーチ経験がある八文字悠さん(32)が守備のコーチに就いた。この1年間で守備の基礎を学び、理解度が上がったことが今につながっていると岡田は話す。
同期や後輩の多くは立教大に進学したが、岡田はアメリカのコミュニティカレッジ(短大)に留学することに一度は決めていた。理由は兄が現在アメリカにいて、環境を変えることで見える世界が大きく変わることを教えてくれたからだ。アメフトにも挑戦するつもりで準備を進め、学校も決まっていた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で渡航できなくなり途方にくれていた。
立教新座の三浦鉄二監督ら指導陣は、岡田のプレーヤーとしてのレベルの高さやアメフトに対する姿勢、人柄をふまえ、なんとかアメフトを続けられる道をつくろうと奔走してくれた。そして、立教大の中村剛喜監督が、桃山学院の加藤佑一ヘッドコーチに掛け合ってくれて、桃山学院に進学できることになった。2020年12月のことだった。当初の計画からは変わったが、関西学院大や立命館大と同じ関西リーグでアメフトができることに興奮した。
1年春の最初から先発勝ち取る
岡田はこの春最初の試合、関学戦からスタメンの座を摑(つか)んだ。がむしゃらにプレーしたが、常勝集団相手にはフットボールIQをはじめ、ブロッキング一つとってもレベルの違いを痛感した。「これが最下位争いをしている現状との差です」。まずは、自分が強くなることでチームを引き上げたいという。
そのために、「自分はサイズがないからこそ、ウェートトレーニング、スカウティンング(敵の分析)、戦術の理解度を高めたい。仲間がミスをしても、カバーできるようになりたいです」と話す。相手にマークされるような選手になることを目指している。
桃山学院は、毎年春に立教大と定期戦を行っている。今年はコロナ禍で中止になったが、来年は高校の同期が4年生になる。立教大で同期がスタメンに名を連ねているのを見ると、大いに刺激を受けるという。「高校のときの自分とは全然違う姿を見せたい」
もちろん、来年も1部で対戦することを楽しみにしている。岡田が目指すのは、「関学や立命相手だからやられても仕方ないではなく、渡り合える選手、チームになる」ことだ。そのために、まず近大戦で1勝を取りにいく。