アメフト

明治大学のルーキーRB廣長晃太郎、ルーツ校伝統のラン攻撃で目指すもの

明治大学のRB廣長晃太郎は「強く、低く、速く」インサイドで勝負するのが得意(撮影・全て北川直樹)

アメリカンフットボールの明治大学グリフィンズの新人が元気だ。関東大学1部TOP8の東京大学との開幕戦(10月2日)のメンバー表には、3人の1年生が名を連ねた。OL(オフェンスライン)の宮本壮冶(そうや、箕面自由学園)、LB(ラインバッカー)の深尾徹(あきら、啓明学院)、そしてRB(ランニングバック)の廣長晃太郎(箕面自由学園)。廣長は実績豊富な森川竜偉(るい、3年、佼成学園)を差し置いて、スタメン入り。39番のRBがどんな走りをするのか、注目していた。

逆転呼ぶタッチダウン

明大は第1クオーター(Q)開始早々にファンブルとインターセプトを連続で喫し、東大に13点をリードされる苦しい入りだった。8分にQB(クオーターバック)吉田拓郎(3年、日大鶴ケ丘)からWR(ワイドレシーバー)池田健輔(3年、明大中野)へのタッチダウン(TD)パスが決まり7点を返した。

出場2プレー目で47ydの独走、40yd走4.7秒の俊足を見せつけた

廣長は試合前にプランが変更になったためスタメン登場ではなかったが、RBがローテーションだったため、すぐに出番が回ってきた。最初のプレーは2ydゲインに留まったが、第1Q10分53秒、2度目のキャリーでボールを受けると迷わずに加速。抜群の加速で守備をすり抜け、47ydを走り切った。キックも決まって14-13と逆転した。「ボールを受けた時に"いける"と思いました。力みすぎて、最後は足がもつれてしまいましたが」。試合前日は緊張のあまり4時間くらいしか眠れなかったが、様々な状況をイメージしていたため先制されても自分がすべきことに集中できたと振り返った。結局、この試合では12回走って104ydを稼ぎ、ラッシングリーダーとなる活躍だった。明大は1点リードで折り返した後半、東大に隙を与えず21点を追加。35-13で開幕戦を飾った。

父もランニングバック

廣長がアメフトに触れるきっかけは、父の克茂さん(49)が大阪体育大学、社会人のイワタニでRBとして活躍した選手だったことだ。父のOB戦についていく機会があり、小さな頃からアメフトの試合を見たことがあった。「速いスピードで人と人がぶつかり合っていて、その姿が凄(すご)すぎて、自分はやりたくないと思っていました」。当時の思い出を笑いながら話す。小学5年生が終わる頃、父に連れられてチェスナットリーグ(小・中学生の関西アメフトリーグ)に所属する大阪ベンガルズの試合を見に行った。「これなら自分にも出来るかもしれない」と感じ、アメフトをはじめた。

シーズン初タッチダウンで仲間に祝福される

チームの同級に、当時からRBとして鳴らした山嵜大央(やまざき・だいち、大阪産大附→立命館大)がいたこともあって、廣長はRBではなくQBやLBをプレーしていた。「中学までは(自分は)体が小さく、大央は仕上がっていたこともあって、ちょっと遠い存在でしたね」。山嵜は頼りたくなる存在ではあっても、全くもってライバルと思えるような関係ではなかったという。

大阪産大附高のRB山嵜大央、立命館大学へ持ち越した宿敵打倒の夢

ベンガルズは週末のみの練習なので、中学ではバスケットボール部に所属。父のアドバイスで、アメフトに活(い)かせるスキルを鍛える目的が大きかった。「攻守に切り替わるときの速攻などで、瞬発力が養われました」。平日のバスケ練習を土日のアメフトに活かし、スキルを地道に積み上げた。

箕面自由学園から関東へ

高校は大阪の箕面自由学園に進学。いまと同じRBに転向し、2年になるとスタメンを任された。秋の関西大会は準決勝まで勝ち上がり、関西学院と対戦した。試合は3-3で延長に突入、ラストのスペシャルプレーで廣長が投げたパスが失敗して負けた。責任感と悔しさを忘れないために、3年生では幹部としてチームを引っ張りたいと考え、副キャプテンになった。廣長は、このときの心持ちを「自分が引退させてしまった先輩への思いを込めてプレーしていました」と話す。秋の関西大会で勝ち上がり、元チームメートの山嵜がいる大阪産大附と対戦した。16-20で敗れたが、自分ができることをやりきったから後悔はなかった。「向こうはどう思っているかわからないですが、大央は僕が常にライバル視して、目指してきた相手でした」。最後に山嵜と対戦できたことが嬉(うれ)しかった。

積極的に仲間を鼓舞する。1年生ながら「自分がチームを引っ張る」

大学進学を意識しはじめたのは、先輩が引退して3年生になった頃。新チームをつくっているときに、大変さの中にあるやりがいが大きかったことだ。自分たちでチームをつくり上げて日本一を目指したいという思いが強くなった。

「最初は関学に対する憧れもありました。日本一になったことがないので、日本一の景色を見てみたいと思ったからです。ただ、3年になったばかりの頃が楽しくて、充実していて。関学は整った環境があると思いますが、学生主体の難しい環境の中で目指す日本一も良いなって考えるようになりました」

ベンガルズと箕面自由の先輩でもあり、明治でQBとして活躍した西本晟(じょう)の影響もあった。西本とは学年が4つ違うので入れ替わりだったが、実家が50mほどしか離れておらす、家にも遊びに行くほど親しい仲。学生主体で日本一を目指している、明治の話を聞かせてくれた。

明治大QB西本晟、チームのオフェンスをけん引し続けた4年間の終幕は笑顔で

「高校生はなんだかんだでコーチありきの面がありますが、大学生は自分の時間が多くて、練習するもサボって遊ぶもできてしまう部分があります。その中で、どれだけ自分自身でつめられるかで、周りとの差が付くと思うんです」。1年生とは思えない、確固たる意思と考えを持っている。明治ではそんな挑戦ができると思ったという。

先輩や父から学び、生かす

この春からは、生まれ育った大阪を出て寮生活を送っている。高校2年の時からRBの先輩がいない中でプレーしてきたが、いまは森川をはじめとした先輩にも恵まれ、充実した環境で練習ができている。今年のRBユニットで掲げている目標は「強く、低く、速く」。試合に出るにあたり、上級生からはこれだけ迷わずにやれと言われた。失敗しても取り返してやるから、思い切ってやってこいと後押しされ、目の前に集中できた。

高校3連覇の走り屋が大学デビュー 明治大RB森川竜偉

「インサイドに勝負しにいくのが得意で、高校までは一発で倒されない自信がありました。大学になると相手のサイズも上がるので、まだまだです。もっとオープンに出て勝負したいですね」。反省点が見えて、「やりがいとともに楽しさがめちゃくちゃ増している」と嬉しそうに話す。

秋シーズンの本番、1試合目でいい経験を積めたと振り返った

試合後には、父からフィードバックを受けるのが恒例。父は元選手としての視点で、心構えから判断などまで事細かく指摘してくれる。「高校のときは鬱陶(うっとう)しく感じたこともありましたが、今は少しでもうまくなるためにどんどん指摘がほしいですね」と、連絡を心待ちにしている。親元を離れた今だからこそわかる、ありがたみも大きいという。

廣長のひたむきな取り組みは、コーチ陣からの評価も高い。高校生のリクルートを担当する櫻井亮コーチは、廣長の決して手を抜かない真面目な性格が、他の1年生にも良い影響を与えていると話す。

ゲーム中のサイドラインでは「中から、中から!」と仲間を鼓舞する姿も印象的だった。「チームで一番元気なのはRB。グラウンドでは学年は関係ないと思ってるので、すこしでも周りを助けられたら」と話す、新人らしからぬ頼もしいリーダーシップも魅力だ。目標は「常に、絶対に1本目(エース)になる」こと。ルーツ校の一つ明治伝統のランを背負う、ルーキーの活躍に期待したい。

in Additionあわせて読みたい