大学アメフト

明治大学のQB西本晟、けがを乗り越えて臨む特別なラストシーズン

昨季はけがで途中離脱、復活をかける明治大学QBの西本晟(提供写真以外、すべて撮影・北川直樹)

アメリカンフットボールの関東大学TOP8は、新型コロナウイルスの影響により、例年より遅い10月の開幕となった。本来の8チームの総当たり戦ではなく、A、Bブロックに分かれて4チームで総当たりを行い、それぞれの1位同士が優勝かけて対戦する予定だ。

11日に初戦を迎えるBブロックの明治大学の攻撃を組み立てるのが、西本晟(じょう、4年、箕面自由学園)だ。関西人のエースQBは、控えめで物腰が柔らかい。私は、彼が大学2年生の頃からフィールド上でのプレーを見てきた。度々話を聞き、顔を合わせるといつも照れ臭そうな笑顔を見せながら話をしてくれる。「自分みたいな人間で、本当に良いんですか?」。今回の取材を打診すると、聞いてきた。いわゆる、調子の良い関西人とは真逆の性格だ。そんな西本のラストイヤーに注目したい。

3年生でぶつかった大きな壁

昨秋の法大戦、2年連続勝利に導いたQB櫻井太智を称える

昨季、前年の主力が多く残る明大は前評判が高く、躍進が期待されていた。しかし、第3節で慶應義塾大学に敗れ、後がない状態で臨んだ第4節、中央大学にも負けた。かみ合わない理由は色々あったが、逆転を狙った攻撃で西本が負傷退場したことも大きな理由だった。西本はそれ以降の試合を欠場、明大は4勝3敗の3位となり、期待された全日本大学選手権、甲子園ボウルには進めなかった。西本にとっては、不完全燃焼のシーズンだった。

初めての大きなけがだった。昨シーズン中はフィールドに戻れず、今年の6月にハンガリーで開催される予定だった大学世界選手権に照準を合わせて調整してきた。これまで高校、大学と日本代表に選ばれたことがなく、代表入りは目標の一つだった。しかし、3月に大会の中止が決まった。残念だったが、その分秋に向けてじっくり調整できると、気持ちを切り替えてトレーニングに励み、「(けがの)逆足よりも太くなるくらい鍛えました」と、やれることを突き詰めた。

緊急事態宣言下は、練習が通常通りにできないために見通しが立たず、チームが一つにまとまらない時期もあったが、4年の幹部を中心に話し合って壁を乗り越えた。秋は試合に向けて順調にチーム作りが進んだ。

小2でタッチフットと出会う

西本がアメフトに出会ったのは、2005年、小学校2年生のとき。父の昭二さんに連れられて、2歳上の兄、嵩(しゅう)さんとともに、立命館大学と関西学院大学の試合を見に行った。「カッコいいスポーツだな、やってみたいな」と思ったそうだ。父から「やってみるか?」と言われ、兄と一緒ににタッチフット(タックルのないアメフト)チーム・大阪ベンガルズの練習を見学にいき、迷わず入部を決めた。

ポジションは、「一番ボールをもてるから」と、司令塔のQBを希望。他にもWRやRBと様々なポジションを経験した。この時から、「同期」にあたる住吉川スコーピオンの林大希(日本大学QB)、池田ワイルドボアーズの奥野耕世(関学大QB)が目立っており、自分は一歩引いた選手という自覚があった。日本一を決める「チェスナットボウル」に出ることもできず、「自分は平凡な選手」と思っていたという。

大阪ベンガルズ時代。兄の嵩さん(右)と(写真は本人提供)

関学に対する憧れがあった。小学生の西本にとってスター選手は、三原雄太(かずた)さん(08年関学大卒)だった。関学中等部への進学を希望したが、叶わずに関西大倉中学に進んだ。高校は箕面自由学園へ、のちに関学大で活躍する2学年上のQB西野航輝(19年関学大卒)の下で色んなことを学んだ。西本が「神様みたいな人」という西野は、リーダーシップがあり、別格の存在感を持っていたという。「恐れ多くて、そんなに自分から色々聞いたりはできなかったんですが、プレーを見ているだけで勉強になりました」。

西野が卒業してからは、QBのスターターとなり箕面自由のオフェンスを率いた。同学年の奥野が関学高にいたこともあり、この頃から西本にとっての関学は、憧れからリスペクトに変わっていったという。

「学生主体」に憧れ明大に進学

高校2年生になると、大学進学を意識し始めた。関西の大学に進むことも考えたが、関学と立命の2強で形成される関西学生リーグではなく、チーム数が多く、実力が拮抗した関東でプレーするのもありかなと思った。

箕面自由学園は、プレーづくりなどをコーチが主導する体制だった。大学では学生主体で取り組んでいるチームに進むことで、これまでとは違った形のアメフトの知識を身につけられるかもしれない。そんな環境でアメフトと向き合える大学を探した。

ちょうどその頃、関西大倉中時代の先輩が明大に進んだという話を聞いた。うわさによると、どうも明大は学生主体の体制らしい。「こっち(関西)から明大って選択肢もあるんか」。箕面自由から明大に進んだ先輩はいなかったが、興味が沸いた。年明けの1月、オールスター戦に大阪代表として出場した際、見に来ていた明大のコーチにも相談した。明大の高橋輝ヘッドコーチも西本のプレーぶりを買ってくれていて、進学することになった。

関東風のうどんのつゆは苦手という

高校を卒業すると、大阪の実家を出て関東での生活が始まった。関東の印象を聞くと「味の濃いうどんは、少し苦手ですね」と西本は笑う。「寮に入ってますが、洗濯などの身の回りのことや自炊なんかをすると、親のありがたみが感じられます」。父の昭二さんは単身赴任の時期が長く、母の圭子さんが部活のサポートをしてくれた。高校までは兄弟2人がアメフト部だったため、苦労もかけたという。「『当たり前』がそうじゃなかったんだなってことが、こっちに来てよくわかりました」。昭二さんは週末の試合を見にきて応援で支えてくれた。試合会場が関東になった現在も、それは変わらない。

学生主体だからこそ生きる自分らしさ

実際に明大に進んで驚いたことがある。高校まで別の競技をしていた未経験の選手がバリバリに主力として活躍している。幼いころからアメフトに取り組んできた西本からすると、少し前までアメフトの「ア」の字も知らなかった人たちが、1部チームの主力として活躍していることが新鮮だった。また、分け隔てのないチームの雰囲気もよく、毎日の練習が楽しかった。

試合に出始めたのは、1年生秋のリーグ第6節の日体大戦から。夏合宿くらいまでは自分が試合に出るイメージはなく、「来年以降出れたら良いな」と考えていたが、シーズンが深まってもオフェンスの調子が上向かず、出番が回ってきた。「最近、1年のときのビデオを見たんですが、思い切りと勢いを感じて新鮮でした」。そのまま定着し、とにかく精一杯、がむしゃらにプレーをした。

明大を35年ぶりの甲子園ボウル出場へ導けるか

エースQBになると、明大の攻撃はガラリとスタイルが変わった。伝統的にラン攻撃が中心だったが、パスの比重が大きくなった。西本は高校で小川道洋先生(帝京大学卒、NFLヨーロッパ、IBMでWR)の指導を受けてきたため、パス攻撃の経験と知識が豊富で得意だった。新しいプレーを考案して、スキルポジションが充実していたこともあって、攻撃力が飛躍的に上がった。同時に、始めは少し遠いと思っていた甲子園が、「もしかしたら手が届くかもしれない」と自分の中で変わってきたという。

一方で、学生主体ゆえの苦労も経験してきた。高校の頃は、戦術面はコーチが見てくれたが、大学では自分たちでチームを転がす必要がある。オフェンスリーダーになってからは、チームメートに自分でプレーのコンセプトを説明し、認識を浸透させるために自分がどうするべきかを考えた。昨年までと比べると、圧倒的に思考の量が増えたという。

加えて、学生という対等な立場である以上、信頼関係を壊さないために一方的なコミュニケーションとならないよう配慮する必要がある。様々な掛け算をしながらチームを作るということを学んできた。西本は言う。「自分は我が強いタイプではないので、周りがいかにやりやすい環境を作れるかを大事にしています」。練習中は後輩にからかわれて談笑する姿も見られ、親しみやすさがうかがえる。西本らしい雰囲気づくりだ。

ライバルQB2人に負けられない

2年生の時の法大戦では32年ぶりの勝利に貢献した

西本には、明大に進むにあたり立てた目標がある。「関東の3強、法政と日大と早稲田に勝つ」。2年生の時には、32年ぶりに法政大学に勝ったが、早稲田大学にはまだ勝っておらず、日大とはまだ対戦したことがない。昔から一緒にプレーしてきた日大のエースQB林と関東の決勝で対戦して勝ち、甲子園で関学大のエースQB奥野に勝つ。常に先をいくライバルを倒すのが目標だ。

「大希は気持ちと肩が強く、耕世は自分にない判断力や上手さを持っています。2人とも甲子園で表彰された凄いQBですが、自分も小さい頃からアメフトで生きてきた人間です。いままで大きな舞台に出たことも、結果を出したこともないですが、学生の集大成として今年こそ結果を残したいと思います」

ライバルには負けたままではいられない。

日大QB林大希 必ず甲子園に戻る
関学QB奥野耕世が迎えたラストイヤー

コロナ禍でアメフトをするのも難しいと思った。目標設定が難しく、チームがまとまらない苦悩も経験した。しかし今は、自身のけがも乗り越え、全てを前向きに捉えられるよう、変わることができた。

「色々ありましたが、今はコロナ対策をしながらしっかりと練習もできていますし、試合も用意してもらえました。あとは自分がどれだけやれるかにかかっています。自分がいない間に後輩も力をつけてますが、チームを勝たせる力は自分が一番だという自信はあります」

西本は力強い目でそう話した。

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