野球

ハンカチ王子も山本省吾も和田毅も 優勝をかけた早慶戦の激闘の数々

和田毅は02年春などで力投、リーグ通算奪三振を最多476まで積み上げた(撮影・朝日新聞社)

 東京六大学野球の秋季リーグは30、31日、優勝をかけた早慶戦が神宮球場で開催される。4勝4引き分け(6ポイント)で首位に立つ慶大は1勝か1引き分けで2季連続優勝が決まる。4勝2敗2引き分け(5ポイント)で4位の早大が逆転優勝するには2連勝しかない。1990年代以降を振り返ると、早慶2校に優勝が絞られて早慶戦を迎えたケースが昨秋など12度ある。

岩本久重と福井章吾 早稲田と慶應の扇の要は、大阪桐蔭出身の特別な関係

■1990年春季リーグ

【早慶戦前】早大が8勝3敗(勝ち点4)、慶大は7勝3敗(勝ち点3)。2勝して勝ち点をあげた方が優勝になる。両校が優勝をかける早慶戦は実に12年ぶり。しかも1960年秋の伝説の「早慶6連戦」を指揮した早大・石井連蔵監督、慶大・前田祐吉監督の再対決とあって大いに盛り上がった。

 ▽1回戦

慶大200000100=3

早大00400000×=4

 早大は四回、斎藤慎太郎(4年、秀明)が逆転3ラン。市島徹(4年、鎌倉)が粘り強い投球で完投した。「代えるつもりは全然なかった。市島で負ければ仕方がない」と石井監督。

 ▽2回戦

早大100000000=1

慶大02000120×=5

 慶大が雪辱。打線が早大の大越基(1年、仙台育英)を攻略し、中山博識(3年、追手前)が好救援した。「うちの方がムードは良くなった。明日もいける」と前田監督。

 ▽3回戦

慶大000102000=3

早大00101121×=6

 早大が七回に逆転し、市島―大越の継投で逃げ切った。水口栄二主将(4年、松山商)を中心に自主性を打ち出してつかんだ15季ぶりの天皇杯。石井監督は「理想のチームに近づきつつあるということでしょう」と語った。慶大・前田監督は「早稲田は強かった。堂々たる優勝です」と好敵手にエールを送り、「秋にもう一度、決戦をやりたい」と雪辱を誓った。

優勝 早大(15季ぶり30度目)

 10勝4敗(勝ち点5)

■1991年秋季リーグ

【早慶戦前】慶大が8勝1敗(勝ち点4)で首位。早慶戦で1勝すれば連覇が決まる。6勝3敗(勝ち点3)の早大は2連勝すれば、優勝決定戦に持ち込める。

 ▽1回戦

早大101001000=3

慶大00031000×=4

 慶大・小桧山雅仁(4年、桐蔭学園)、早大・織田淳哉(1年、日向)の投げ合いに。慶大が四回に逆転し、五回に大久保秀昭(4年、桐蔭学園)の三塁打で加点して逃げ切った。前田祐吉監督は「試合前から決めていたこと」と胴上げはなし。「明日勝たないと本当に強いチームではない」との言葉通り、連勝で完全優勝を決めた。

優勝 慶大(2季連続26度目)

 10勝1敗(勝ち点5)

■1992年秋季リーグ

【早慶戦前】8勝2敗(勝ち点4)の慶大は勝ち点をとれば完全優勝。7勝3敗(勝ち点3)の早大は2連勝すれば逆転優勝、2勝1敗なら優勝決定戦に持ち込める。

 1960年秋の伝説の「早慶6連戦」と同じ展開で、慶大・前田祐吉、早大・石井連蔵の両監督も当時と同じということでも注目を集めた。

 ▽1回戦

早大01101000401=8

慶大00011002302=9

         (延長11回)

 両チーム計10投手をつぎ込む総力戦。慶大は九回、主将・印出順彦(4年、土浦日大)の同点3ランで延長戦に持ち込み、十一回に逆転サヨナラ勝ちした。

 ▽2回戦

慶大000001000=1

早大00211000×=4

 早大は今季初先発の渡辺功児(4年、桐蔭学園)が6安打1失点完投で、逆転優勝に望みをつないだ。

 ▽3回戦

早大000000000=0

慶大00200030×=5

 慶大は古葉隆明(4年、広島城北)が4打点の活躍。早大は仁志敏久(3年、常総学院)らの打線がつながらなかった。

 60年秋、90年春と石井・早大に敗れた前田監督にとって、通算8度目の優勝となった。今季13試合で完投した投手はゼロ。「こんな優勝チームは見たことがない。リーグの歴史でも珍しいと思う」と笑った。

優勝 慶大(2季ぶり27度目)

 10勝3敗(勝ち点5)

■2000年秋季リーグ

【早慶戦前】第7週を終え、全日程を終えた8勝5敗の法大、立大と、早慶戦を残した慶大(7勝4敗1分)、早大(6勝4敗)の4校が勝ち点3で並んだため、早慶戦で勝ち点をあげた方が優勝という展開になった。2校に優勝が絞られて迎える早慶戦は16季ぶり。

 慶大は山本省吾(4年、星稜)、中村泰広(4年、郡山)の両左腕と右腕の長田秀一郎(2年、鎌倉学園)、早大は右の鎌田祐哉(4年、秋田経法大付)、左の和田毅(2年、浜田)と、ともに強力な投手陣を擁していた。

 ▽1回戦

慶大020000001=3

早大100000000=1

 慶大は3番喜多隆志(3年、智弁和歌山)、4番三木仁(3年、上宮)が2安打ずつ放つなど、早大・鎌田から10安打。投げては山本が完投で通算20勝目をあげた。

 ▽2回戦

早大000000001=1

慶大000000000=0

 早大・和田、慶大・中村の息詰まる投手戦。早大が九回、開田成幸(4年、柳川)のチーム初安打を機に均衡を破った。

 ▽3回戦

慶大002000000=2

早大100000000=1

 慶大は三回に喜多の中前適時打で逆転。山本が8安打されながら1失点で投げ切った。20世紀最後のシーズンを制した慶大・後藤寿彦監督は「良きライバルである早稲田のおかげで素晴らしい舞台で戦うことができたことに心から感謝したい。競り合いを通じて選手が成長した」と涙をこらえた。

優勝 慶大(7季ぶり29度目)

 9勝5敗1分(勝ち点4)

■2002年春季リーグ

【早慶戦前】7勝2敗1引き分け(勝ち点3)の早大は1勝すれば優勝決定。5勝4敗1引き分け(勝ち点2)の慶大が逆転するには、2連勝して優勝決定戦に持ち込むしかない。

 ▽1回戦

慶大000000000=0

早大12000000×=3

 早大は和田毅(4年、浜田)が12三振を奪って完封。自身が入学直後の1999年春以来優勝していないだけに、「このまま卒業したら優勝を知らない選手ばかりになってしまう」という思いで臨んだという。ここから早大は4連覇を達成することになる。

優勝 早大 6季ぶり33度目

 9勝2敗1分(勝ち点4)

■2005年春季リーグ

【早慶戦前】慶大は8勝2敗、早大は8勝3敗1分。ともに勝ち点4で激突する早慶戦は5度目(1回戦制を除く)で、過去はすべて早大が2勝している。

 連覇を狙う慶大・鬼嶋一司監督は決戦を前に「早稲田はいい選手がいてジャイアンツ。挑戦者で戦う」。対慶大4連敗中の早大・応武篤良監督は「もう負けられない。選手は意地を見せて欲しい」と語った。

 ▽1回戦

早大000040000=4

慶大000001001=2

 ほぼ満員の3万5千人が詰めかける中、早大が先勝して優勝に王手をかけた。五回に田中幸長(2年、宇和島東)の満塁本塁打で先制し、宮本賢(3年、関西)が慶大の反撃を2点でしのいだ。

 ▽2回戦

慶大102010200=6

早大000202000=4

 慶大が佐藤翔(2年、秋田)の2試合連続本塁打などで雪辱し、3回戦に持ち込んだ。

 ▽3回戦

早大100201000=4

慶大000100000=1

 早大は1回戦で完投した宮本賢が、8回1失点と好投。武内晋一(4年、智弁和歌山)、上本博紀(1年、広陵)らの打線が本調子でない中、越智大祐(4年、新田)、大谷智久(3年、報徳学園)らを擁する投手力で頂点に立った。

優勝 早大(3季ぶり37度目)

 10勝4敗1分(勝ち点5)

■2008年秋季リーグ

【早慶戦前】早大は8勝1敗2分(勝ち点4)で1勝すれば優勝決定。6勝3敗(勝ち点3)の慶大が逆転優勝するには、連勝して優勝決定戦に持ち込むしかない。

 ▽1回戦

早大001110000=3

慶大000000100=1

 2万6千人の観衆が詰めかけたが、早大の斎藤祐樹(2年、早稲田実)は「いい緊張感でした」。7回1失点の好投で今季6勝目。八、九回は大石達也(2年、福岡大大濠)が3人ずつで抑え、早大が2季ぶりの優勝を決めた。

優勝 早大(2季ぶり41度目)

 10勝2敗2分(勝ち点5)

2010年春季リーグ

【早慶戦前】早大が6勝2敗、慶大は7勝3敗のともに勝ち点3で早慶戦に。勝ち点をあげた方が優勝という展開になった。

 早大は斎藤祐樹(早稲田実)、大石達也(福岡大大濠)、福井優也(済美)の3本柱が4年生に。対する慶大は竹内大助(2年、中京大中京)、福谷浩司(2年、愛知・横須賀)の二枚看板。

 ▽1回戦

慶大000100001=2

早大000000001=1

 慶大が4番伊藤隼太(3年、中京大中京)の三塁打などで早大・斎藤から2得点。竹内―福谷の継投で優勝に王手をかけた。

 ▽2回戦

早大300000010=4

慶大100001000=2

 早大が福井―大石の継投で4―2と競り勝ち、逆王手をかけた。

 ▽3回戦

慶大020022000=6

早大000020020=4

 慶大が早大自慢の3本柱を攻略して優勝を決めた。

 江藤省三監督は慶大で初めてのプロ野球出身監督。前年11月の就任会見で5年も優勝していない母校に発破をかけるように、「早稲田の斎藤くんを打って優勝できたら最高だね」と語った。その言葉を現実にし、3日間で9万4千人が詰めかけた神宮球場で宙に舞った。

優勝 慶大(11季ぶり32度目)

 9勝4敗(勝ち点4)

■2010年秋季リーグ

【早慶戦前】早大が8勝2敗(勝ち点4)、慶大は6勝4敗(勝ち点3)。早大は1勝すれば優勝決定。慶大は2連勝して優勝決定戦に持ち込むしかない。

 神宮を沸かせた早大・斎藤祐樹(4年、早稲田実)のラストシーズンとしても注目された。すでにリーグ通算31勝をあげ、早慶戦2日前のプロ野球ドラフト会議で大石達也(4年、福岡大大濠)、福井優也(4年、済美)とともに1位指名を受けていた。

 ▽1回戦

慶大100001000=2

早大000000000=0

 慶大の渕上仁(4年、慶応)が一回、早大・斎藤から先頭打者本塁打。六回にも1点を加え、竹内大助(2年、中京大中京)―福谷浩司(2年、愛知・横須賀)の継投で逃げ切った。

 ▽2回戦

早大010000000=1

慶大10320010×=7

 慶大が連勝し、早大と8勝4敗(勝ち点4)で並んで優勝決定戦に持ち込んだ。三回に山崎錬(2年、慶応)が早大・福井から勝ち越し3ラン。四回には早大・大石から福谷が2ランを放った。その福谷が投げても1失点完投。

 早慶による優勝決定戦は、1960年秋の「早慶6連戦」以来で実に50年ぶり。1日空けた11月3日、神宮球場には3万6千人が詰めかけ、同リーグ20年ぶりの満員札止めになった。

 ▽優勝決定戦

早大300012103=10

慶大000000050=5

 早大は斎藤が七回まで無安打無得点の快投を演じた。八回に慶大打線につかまり、大石の救援を仰いだが、10―5で逃げ切って有終の美を飾った。

 早大の第100代主将でもある斎藤は優勝インタビューで、「こういう形で終われてうれしい。本当に仲間に恵まれた。周りから斎藤は何か持っているな、と言われるが、その何かが仲間だということを確信した」と語った。

優勝 早大(4季ぶり42度目)

 8勝4敗 勝ち点4

■2014年春季リーグ

【早慶戦前】早大が8勝2敗(勝ち点4)、慶大が7勝3敗1分(勝ち点3)で、勝ち点をあげた方が優勝という展開になった。

 ▽1回戦

慶大000000200=2

早大000010000=1

 逆転優勝を狙う慶大は七回、竹内惇(4年、慶応)が早大・有原航平(4年、広陵)から逆転2ラン。加藤(現姓・矢崎)拓也(2年、慶応)が1失点完投し、優勝に王手をかけた。

 ▽2回戦

早大400110000=6

慶大06000110×=8

 慶大が谷田成吾(3年、慶応)の本塁打などで8―6で打ち勝った。

 慶大は助監督から昇格した竹内秀夫・新監督が体調を崩して入院したため、江藤省三・前監督が監督代行として指揮を執ったシーズンだった。佐藤旭主将(4年、慶応)は「監督にいい報告をしたいとチームが一つになった」。江藤監督代行は「すごい選手たちだなあ」と目を細めた。竹内氏は翌年8月、60歳の若さで他界した。

優勝 慶大(6季ぶり34度目)

 9勝2敗1分 勝ち点4

■2015年春季リーグ

【早慶戦前】早大が8勝1敗1分(勝ち点4)、慶大は6勝3敗(勝ち点3)。早大は1勝すれば優勝が決定、慶大は連勝すれば優勝決定戦に持ち込める。

 ▽1回戦

慶大000000000=0

早大00010012×=4

 早大が1回戦で4―0と快勝して優勝を決めた。この試合で3安打完封した大竹耕太郎(2年、済々黌)は試合後、「(エースの)重圧が大きくて。肩の荷が下りました」と涙を流した。有原航平が卒業して迎えたシーズンで4勝をマークして優勝の原動力となった。

 早大の攻撃陣には1番・重信慎之介(4年、早稲田実)、3番・茂木栄五郎(4年、桐蔭学園)、5番・石井一成(3年、作新学院)らが名を連ねた。慶大の4番は横尾俊建(4年、日大三)。

 早慶とも新監督だった点でも注目された。早大の高橋広監督は徳島・鳴門工(現・鳴門渦潮)高を34年間指揮し、甲子園に春夏計8回出場。高校日本代表監督も務め、母校に戻った。慶大の大久保秀昭監督は捕手として1996年アトランタ五輪で銀メダルを獲得。プロ野球近鉄などで選手、コーチを経て、JX―ENEOSの監督として都市対抗で3度日本一に輝いた実績を持っていた。

優勝 早大(6季ぶり44度目)

 10勝1敗1分 勝ち点5

■2020年秋季リーグ

【早慶戦前】新型コロナウイルス感染拡大の影響で、従来の勝ち点制ではなく、2回戦総当たりの10試合制で開催された。6勝2分(7ポイント)の慶大は、1勝すれば優勝決定。5勝3分(6・5ポイント)の早大は1勝1引き分け以上で逆転できる。

 ▽1回戦

慶大000000100=1

早大00000120×=3

 約2週間前のプロ野球ドラフト会議で4球団から1位指名を受けて楽天が引き当てた早大の早川隆久(4年、木更津総合)と、ヤクルト1位の慶大・木沢尚文(4年、慶応)が先発。ドラフト1位同士の投手戦となったが、七回に早大の8番蛭間拓哉(2年、浦和学院)が2点本塁打を放って先勝した。

 ▽2回戦

早大001000002=3

慶大001100000=2

 慶大が四回、瀬戸西純(4年、慶応)の適時打で勝ち越し。八回から連投のエース・木沢を7人目として投入する執念の継投に出た。一方の早大も八回から連投のエース・早川を6人目としてマウンドへ。総力戦となった。

 九回表、早大の攻撃も簡単に2死をとられたが、7番の熊田任洋(1年、東邦)が安打で出塁。1回戦で決勝本塁打を打った蛭間が左打席に向かった。ここで慶大・堀井哲也監督は、8人目の左腕・生井惇己(2年、慶応)をマウンドに送る。交代直後の初球、蛭間がバックスクリーンに飛び込む逆転2ランを放ち、早大が劇的な逆転優勝を飾った。

 1960年秋の早慶6連戦から60年。両校を率いた早大・石井連蔵、慶大・前田祐吉両監督が同年、そろって野球殿堂入りを果たした。早大の小宮山悟監督は試合直後の優勝インタビューで、「石井さんの墓前にいい報告ができます」と声を震わせた。

=朝日新聞デジタル2021年10月28日掲載

in Additionあわせて読みたい