大学野球

岩本久重と福井章吾 早稲田と慶應の扇の要は、大阪桐蔭出身の特別な関係

強肩強打の早大・岩本久重(左)と視野が広い慶大の福井章吾(撮影・すべて朝日新聞社)

永遠のライバル、絶対に負けられない相手、宿敵……。早稲田大学は「早慶戦」と呼び、慶應義塾大学は「慶早戦」と呼ぶ。東京六大学野球の伝統の一戦に今年、さらなる注目ポイントが加わった。捕手対決だ。

同じ捕手でも特長はまったく別

慶大は福井章吾、早大は岩本久重が新型コロナウイルスの影響で8月にあった春季リーグ戦で先発マスクをかぶった。2人はともに大阪桐蔭高出身。そして同じ3年生。高校時代に「レギュラー争い」をしていた2人が、早慶に分かれて優勝を争うことになったのだ。

捕手としての特長はまったく違う。福井は視野が広く、投手への声かけのタイミングや野手陣への指示が的確。岩本は4番打者を務める強打と強肩が魅力だ。2人の関係性は「特別」と言ってもいい。

出会いは大阪桐蔭に入学した2015年春。福井はすでに岩本の存在をうわさで聞いていた。「滋賀の大津からとてつもないキャッチャーが入ってくるらしい」と。中学時代に15歳以下の日本代表に入った岩本は有名人。入学直後、そのプレーを目の当たりにし、「かなわないと思った」と福井は振り返る。

福井は中学2年から捕手をやっていたが、大阪桐蔭では指導者の指示もあり、1年生の夏ごろから内野を守ることが多くなった。そのまま2年生となり、新チームでは岩本が正捕手、福井は主に一塁を守った。

岩本記録員が福井主将を支えた選抜V

転機は3年生の春に訪れた。17年の選抜大会直前、練習中に岩本が左手首を骨折したのだ。紅白戦の途中。次のイニングから、「捕手をやってくれ」と言われたのが福井だった。

主将を務めていた福井は「キャプテンとして、選抜で勝つことが最大の役割だった。捕手をやれと言われて驚いたけど、勝つための役割として、なんとかやりきろう」と開き直った。

結果は優勝。記録員としてベンチに入っていた岩本は「そりゃ、複雑な気持ちでしたよ」と打ち明ける。ただ、それ以上に、「捕手・福井」のプレーを見て、自らの実力不足を痛感させられたのだという。

大阪桐蔭高時代の岩本(前列中央)と福井(同右)。前列左は徳山壮磨(早大)、後列左は藤原恭大(ロッテ)、同右は山本ダンテ武蔵(国學院大)=2017年7月

「捕手としてあいつの方が上だと思った。打つとか肩が強いとか、そういうところではなく、投手とのコミュニケーション、野手への指示力とかリーダーシップが自分よりもあるなと」

一方の福井は選抜を機に「このまま野球人生を捕手でいこう」と心に決め、西谷浩一監督に「夏もキャッチャーで勝負させてください」と思いを伝えた。

この時、福井と岩本は寮の部屋が同じだった。主将、副主将としてチームが勝つためにどうすればいいかを話し合う中にも、「言葉では言い表せない、気まずい感じは久重も感じていたと思うし、僕も感じていました」と福井。岩本も「そういう空気はありましたね」と笑って振り返る。

結局、最後の夏は福井が正捕手で、岩本は主に代打や外野手で試合に出場した。悔しさを味わった岩本だが、「あのままけがなくいってたら、自分に足りないものに気づけなかったと思う」と話す。

コミュニケーション能力も高い福井

今、岩本は早大の先輩でプロ注目のエース早川隆久(4年、木更津総合)とバッテリーを組みながら、様々なことを吸収している。「思ったところに投げてくれるので、色んなリードができる。試合が終わった後のミーティングでも『あの場面はこうだった』とか、高いレベルの反省ができています」

互いに今春から正捕手の座をつかんだ。オフには大阪桐蔭時代の仲間と食事に行くことが多い2人は、「ここから2年間はおれたちで捕手のベストナインを独占しよう」と誓い合ったという。

春の立教大戦。同僚の徳山が8回1死から初安打を許し、マウンドで一呼吸置く岩本

春は福井がベストナインを獲得し、岩本も打率3割を記録したが、優勝したのは法政大学。2人とも「捕手としての力不足を感じた」と口をそろえる。

11月の早慶戦は伝説の6連戦から60年

この秋は早大が一足先に開幕し、岩本は初戦で明治大学の好投手、入江大生(4年、作新学院)から2二塁打を放ち存在感をみせた。2人の目標は変わらず、リーグ戦の優勝、そして欲を言えばベストナインということになる。その上で大きなライバルになるのが互いの存在だ。「まして、早稲田との直接対決は絶対に負けられないっていうのはありますからね」と福井。くしくも伝説として語り継がれる「早慶6連戦」から60年の節目のシーズンでもある。両校は1178日に対戦の予定。

春のベストナインは福井(右)。岩本は秋も4番に座る

捕手は試合の行方を左右する「扇の要」。ハイレベルな戦いに注目だ。

 

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