陸上・駅伝

特集:第53回全日本大学駅伝

全日本大学駅伝3位に順大・長門俊介監督「悔しさもある」、厚みが増したチーム層

順天堂大はアンカーで5位から3位に追い上げ、20大会ぶりにトップ3に食い込んだ(撮影・佐伯航平)

第53回全日本大学駅伝

11月7日@愛知・熱田神宮西門前~三重・伊勢神宮内宮宇治橋前の8区間106.8km
1位 駒澤大   5時間12分58秒
2位 青山学院大 5時間13分06秒
3位 順天堂大  5時間14分20秒
4位 國學院大  5時間14分53秒
5位 東京国際大 5時間15分13秒
6位 早稲田大  5時間16分29秒
7位 明治大   5時間16分46秒
8位 中央大   5時間17分06秒
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9位 法政大   5時間17分39秒
10位 東洋大   5時間17分58秒

「学生駅伝三冠」を目標に掲げていた順天堂大学は、初戦となった10月10日の出雲駅伝で10位だった。全日本大学駅伝ではチーム状況も踏まえ、長門俊介監督は「5位以内」を目標に据えていたが、本音としては「3位以内」だった。3位に入ったことに安堵(あんど)しながらも、「途中、優勝を意識できるレースにもなったので悔しさもあります」と、続く箱根駅伝に向けて確かな手応えを感じていた。

エースの野村が自信を取り戻すために

出雲駅伝では、東京オリンピック以降に調子が上がっていなかった三浦龍司(2年、洛南)をメンバーから外し、エースとしての走りが求められていた野村優作(3年、田辺工)は3区区間16位と苦しんだ。全日本大学駅伝に向けては「三浦と野村の2大エースの復調が絶対条件」と長門監督は考え、三浦は順調に調子を上げていた一方で、野村が自信を失っていることが気がかりだった。

野村はトラックシーズンに自己ベストをたびたび更新。夏合宿で走り込み、自信をもって駅伝シーズンを迎えるはずだった。しかし30度を超える暑さとの戦いともなった出雲駅伝以降、内臓疲労が抜けず、病院で見てもらっても原因が分からなかった。「今シーズンに調子が良かった分、知らず知らずのうちに疲労が溜まっていたのかもしれない」と野村は振り返る。

練習でも本来の力より6~7割のパフォーマンスしか発揮できず、この状態で本当に全日本大学駅伝を走れるのか、野村は不安を拭えなかった。長門監督と何度も話し合い、走るかどうかの決断は野村に委ねられた。「その時も『走って自信を取り戻せばいいんだよ』とだけで、プレッシャーがかからないようにしてくれていました」と長門監督の配慮がうれしかった。また同じく候補選手だった津田将希(4年、福岡大大濠)も、野村の背中を押してくれたという。

三浦が2年連続で区間賞

迎えたレース、1区の平駿介(3年、白石)は首位の駒澤大学と20秒差で2区の三浦に襷(たすき)をつないだ。2区で先行していた選手は早稲田大学の井川龍人(3年、九州学院)を先頭に集団でレースを進め、三浦はその集団に追いついてから、どうレースを展開するかを考えようとしていたという。

2区の三浦(8番)は11位から追い上げて先頭集団の後方につき、レースの流れをうかがった(撮影・西畑志朗)

井川は揺さぶりをしかけ、集団のペースを乱す。三浦は体力の消耗を避け、後方に位置取ってはマイペースを貫いた。ラスト1kmで三浦がぐんと前に出るとそのまま独走し、2位以下に10秒差をつけて逃げ切った。三浦は1区区間賞だった前回大会と同様の勝ち方をし、2年連続で区間賞を獲得。区間記録(31分17秒)への意識はあったかとたずねられても、「自分の31分30秒というタイムにこだわってなくて、走りの中で結果を出せたので、そっちの方を評価している」とさらり。あくまでもチームに貢献することだけを狙っていた。

前回大会でも三浦からトップで襷を受け取った伊豫田達弥(3年、舟入)は、「その展開は去年に経験していたので、落ち着いて入ることができた」という。1kmすぎで11秒差での3位から追い上げてきた早稲田大の中谷雄飛(4年、佐久長聖)に追いつかれたが、「一緒に行こう」という中谷からの声かけに伊豫田も応えた。2人で併走しながらレースを進め、最後は中谷に1秒差で先着された悔しさはあったが、「三浦がつくってくれた勢いを次につなげることはできた」と振り返る。

伊豫田(右)は中谷と併走しながら後続ランナーを引き離した(撮影・藤井みさ)

アンカーの四釜が5位から3位へ

4区の石井一希(2年、八千代松陰)は区間14位と苦しみ、順位を3位から4位に落としてしまった。5区を任された野村の胸にはまだ不安があった。それでも「つなぎ区間であれば十分野村は戦えるよ」と、自分を信じてくれた仲間のためにも、自分の責任を果たしたいと気持ちを引き締めた。

野村は自分のペースで守りながら前を追い、明治大学と東京国際大学を抜いて2位に浮上。5区で2年連続区間賞をとった青山学院大学の佐藤一世(2年、八千代松陰)と8秒差での区間2位だった。「自信を取り戻すことが目標だったので、それは達成できたと思います。『順位は気にしなくていいよ』と送り出してくれた監督やチームメートに感謝しています」と野村は笑顔で言った。

6区で牧瀬圭斗主将(4年、白石)は早稲田大を抜いて首位に立ったが、4位から追い上げてきた東京国際大の丹所健(3年、湘南工大付)が区間新記録の快走を見せ、7km過ぎでトップに立つ。牧瀬は2位を死守し、近藤亮太(4年、島原)に襷リレー。7区では駒澤大の田澤廉(3年、青森山田)や青山学院大の近藤幸太郎(3年、豊川工=現豊川工科)など、各校のエースが激走し、近藤は3位の東京国際大と59秒差、4位の明治大と3秒差での5位でアンカーの四釜峻佑(3年、山形中央)に襷を託した。

野村から襷を託された牧瀬(8番)は、6区で再び先頭に立った(撮影・新井義顕)

四釜は長門監督から「3位は死守しよう」と言われ、四釜にも「箱根駅伝で総合優勝するためにも3位以内には絶対入らないといけない」という思いがあったという。初の学生駅伝となった今年の出雲駅伝でもアンカーを任されたが、その時はほぼ単独走でのレースとなった。順位争いの競り合いに勝てるのか、四釜はかつてないほどのプレッシャーを感じながら、仲間のためにただひたすら前を追った。明治大、更に東京国際大の背中を捉えたが、後ろから國學院大學の伊地知賢造(2年、松山)も迫っていた。持てる力を振り絞り、最後の坂を上り切る。フィニッシュテープを切る瞬間、四釜は笑顔で両手を広げ、ガッツポーズをする仲間の元に飛び込んだ。

長門監督「彼の力はこんなもんじゃない」

長門監督が「三浦と野村と2大エースの復調が絶対条件」と考えていた通り、この2人の活躍がチームに流れをもたらしたことは間違いない。特に三浦に関しては「しっかりと力を出してもらえたかなと思っていますけど、まだまだ彼の力はこんなもんじゃないと思うので、もっと駅伝に自信をもって取り組んでほしいなと感じる部分はあります」と長門監督は言い、来年の箱根駅伝で爆発力のある走りを期待している。箱根駅伝では全日本大学駅伝の距離から2倍になるが、三浦は「ここから1カ月間で準備はできると思います」と言い切る。

ただ今年のチームの強さは他にもある。「これまでのチームはいい流れでないと走れないようなチームでしたけど、今は流れが変わってもちゃんと挽回(ばんかい)できる、立て直せるというチームになっています」と長門監督は評価している。三浦や野村をはじめとしたエースクラスの選手がいる中、例えば四釜のようにタフなレースでも結果を出せる選手がいることは心強く、「長いところだったり、タフなところでの安心感、信頼感はめちゃくちゃ高いところがありますので、これからもそういう区間に起用し、来年の全日本でも同じアンカーで戦ってほしいなと思っています」と期待を寄せる。

ゴールで待ち構えたチームメートの元へ、四釜は目に涙を浮かべながら飛び込んだ(撮影・佐伯航平)

順天堂大の箱根駅伝総合優勝は2007年の83回大会が最後。長門監督は「箱根は特殊性のある区間がありますし、走力では負けるところがあるかもしれませんが、特殊性のところで少しでも埋められるようにしていきたい」と言い、選手層に厚みが増したチームで15年ぶり12回目の総合優勝を目指す。

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