バレー

特集:全日本バレー大学選手権2021

近畿大・中野倭が高橋幸造コーチと歩んだ4年間、気配りのセッターが上げる強気のトス

中野はこれが自身4度目の全日本インカレ準々決勝となった(撮影・全て松永早弥香)

第74回 全日本大学男子選手権 準々決勝

12月3日
近畿大学1(18-25.26-24.19-25.24-26)3筑波大学

近畿大学のセッター中野倭主将(4年、開智)の強気のトスには、理由があった。筑波大学の男子準々決勝、1、3セットを筑波大に取られ、1-2と劣勢で追う第4セット。23-23と1点を競う緊迫した場面で、中野は3本続けてミドルブロッカーの丸尾翔太(2年、近大付)のCクイックを選択した。

2本上げても決まらず、相手もノーマークになるわけではない。それでもひるまず、かつ迷わず、中野がCクイックを選択した理由は3つ。

「まず攻撃の選択肢として決まる確率が高かったこと。それは大前提ですけど、あそこで追いつけばデュースになって絶対(セットを)取れると信じていたので、ミドルで取りきりたかった。それが丸尾の自信になると思ったのと、アウトサイドの選手がずっとパスを頑張ってくれていたので。それを活(い)かすためにも、『意地でも点を取れ』という思いで託しました」

近大・森愛樹 西の王者として挑んだ早稲田戦、リベロができる最大級の攻めの守りを

高橋コーチから叩き込まれた「セッターの役割」

中野は開智高校(和歌山)時代から相手の裏や意表をつくトスを武器に、全国大会でも活躍してきた。だが、中野は当時を「ただトリッキーなだけで、トスワークのかけらもない。自分の上げたいトスを上げていただけで、スパイカーの能力を殺してしまっていた」と振り返る。

強気で、ハンドリングは柔らかい。セッターとしてはそれだけでも十分面白く、目を引く存在ではあるが、それだけでは上のステージでは戦えない、と基本から叩(たた)き直したのが、元セッターとしてVリーグの豊田合成でも活躍した高橋幸造コーチだった。技術は高くても、そのトスを誰のために上げるのか。自分が目立つためではなく、セッターが打ちやすいトスを上げることこそがセッターの役割、と高橋コーチは繰り返し指導し、ボールの質にもこだわった。

近大に入学して間もない頃はパスが崩れた時点で不機嫌な顔をしていたという中野に、高橋コーチは「パスが崩れてもツー(アタック)でカバーすればいい。クイックを使えるパスを返し続けなければならない、と常にプレッシャーを抱えるパスの選手のことも考えろ」と、自分本位ではなく周囲のことを考える必要性を説き続けた。

技術だけでなく考え方や心構え、セッターとして大事なことを一から教えてくれるコーチの指導を受け続けた4年間。セッターとして自身と向き合い、最終学年の今季は主将に就任。いかに攻撃を展開するかというだけでなく、チームがどうあるべきか、どうなればよくなるか。今までと違う意識を向けることで、プレーの変化にもつながった、と中野は言う。

高いトスを好む江崎など、中野はその選手の持ち味を生かせるトスを心がけている

「高校時代は速いトスを打てる選手がいたので、速いトスで相手を振るのが自分の武器でもありました。でも近大では同期の江崎(闘愛 4年、大阪ビジネスフロンティア)が高いトスを打つのが得意なので、自分も丁寧なトスを上げられるようになった。いろんな選手がいて、時には腹立つこともあるけれど(笑)、でもそれぞれの持ち味を消さず、丁寧さも身につけ、気配りをする。それができるようになったのは、幸造さんのおかげです」

高橋コーチへ、4年間の感謝と詫びを

関西、西日本で近大は圧倒的な強さを発揮し、その力を証明するために何が何でも全日本インカレで勝ちたい。毎年そう願い、挑みながらもベスト4の分厚い壁にはね返され、あと一歩、を超えられない悔しさを何度も何度も味わった。

中野にとって、3度目ならぬ4度目の正直となったベスト4、センターコートへの挑戦。当初のゲームプランでは序盤にミドルの丸尾、ムヤカバング・フランシス(2年、延岡学園)を徹底的に使おうと考えていた。しかしそれがうまく通らず、サイドを中心に組み立て、また別のセットでは終盤の勝負所でミドルを使い、真ん中の意識を相手に植え付けたところでバックライトを選択。セットごとに展開を変える、実に鮮やかなトスワークでチームを盛り立て、第4セットも狙い通りのCクイックからデュースに持ち込んだ。しかし最後は筑波大の垂水優芽(3年、洛南)の連続サービスエースで24-26。最後まで分厚い壁の前に跳ね除けられ、最後の全日本インカレが終わった。

主将としてチームを支えてきたこの1年、充足した気持ちもあるが、それでもやっぱり悔しい

「(ベスト8は)もう飽きたっす」と自虐的に笑いながらも、「やり切ったけれど、もっとやりたかった」と悔しさものぞかせる。

中野は来春卒業し、Vリーグのウルフドッグス名古屋へ。ともに歩んだ高橋コーチも来春近大を去る。セッターとして厳しさの中に新たな楽しさを伝えてくれたコーチに、中野が言った。

「センターコートに連れて行けなくて、ごめんなさい」

近大での4年間に、感謝を込めて。ただ“魅せる”だけではない。叩き込まれた全てを活かし、チームを勝たせるセッターになると誓い、新たなステージへ歩み出す。

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