アメフト

関西学院大の齋藤陸、最後の甲子園で小さなランニングバックが大きな恩返し

関西学院大学のRB齋藤陸。西日本代表決定戦では前田公昭と2TDずつ挙げた(撮影・全て北川直樹)

アメリカンフットボールの甲子園ボウル(12月19日)で4年連続の学生王者を狙う関西学院大学は今季、齋藤陸(4年、江戸川学園取手)と前田公昭(4年、関西学院)のRB(ランニングバック)2枚看板が、パスが得意な2年生QB(クオーターバック)の鎌田陽大(はると、追手門学院)を助けてきた。ランが出るからパスが効果的でオフェンスの好循環を作っている。

前田公昭と高め合う

前田は関学高で全国高校選手権決勝のクリスマスボウルに出場。高校からトップ選手で鳴らし、関学でも下級生から活躍してきた。対照的に齋藤は、部員が少ない茨城の私立校で孤軍奮闘。関学では前田に比べると昨年まで出場機会は少なく、4年になってから活躍の場面が増えた。ともに身長168cm。背景の異なる2人が最上級生として最後の甲子園を駆け抜ける。

甲子園でかなった関学・前田家の夢、ライスボウルも兄がブロックし、弟が走る
齋藤が前田(右)をカバーし、前田も齋藤をカバーする。相手には脅威だ

齋藤は江戸川学園取手高からアメフトをはじめた。「ベンチプレス20kgだった子が、卒業する頃には90kg挙げられるようになります」。アメフト部顧問の先生の誘い文句にしびれた。フットボールは知らなくても、強くなれると入部を決めた。足が速かったから、さっそくRBになった。

高校2年生冬のオールスター戦2試合でともに優秀選手に選ばれた。SIC(埼玉・茨城・千葉)選抜の大きなラインの後ろを走ると、これまで経験したことがないほど走ることができた。「ラインが違うと、ここまで変わるのかと。それまではボールを持ってもすぐ潰されていたので。あの時、ランプレーの楽しさを初めて知りました」と振り返る。多くの大学から声がかかったが、最初はアメフトを続けるつもりはなかった。いざ、3年の春が終わって引退すると、やっぱりやりたくなった。「やるなら日本一に1番近いところで、自分が通用するのか試したい。日本一を本気で目指す集団の一員になりたい」と指定校推薦で関学を受け、進学が決まった。

前田にはないものを

個人の実績はあったが、決して自信を持っていたわけではない。むしろ逆で、関学に進む前は「本当にビビっていた」という。実際に入部すると心配していた通り、まず練習についていくのが大変だった。「高校のときは、カットの練習とハンドオフと、当たる練習しかしたことがなくて」。関学RBのファンダメンタルに重きをおいた練習は、ほとんど未経験だった。高校のときに何も考えずにしていた動きは、フォームの修正が必要なことも多かったという。

前田は初めからレベルが高く、常に一歩先を行っていた。「1発で倒れないとか(守備の)奥が見えているとかもそうですが、ストイックな面や面倒見の良さとか人間的なところもすごい」。スキルが高い前田とそこで勝負しても難しいと考えた。やれば伸びる筋トレの数値を意識し、得意なスピードを磨いた。オープンのランや緩急の付け方を徹底して練習した。その積み重ねがあって、齋藤の今が出来上がっている。「4回生になってからですが、ワイルドキャット(RBがQBの位置に入るフォーメーション)のブロッカーとして、スピードの緩急はいかせています」。高い次元でのコンビが実現した。

RB齋藤(27)がQBの位置に入るワイルドキャット隊形から攻める

関学に憧れた恩師のためにも

甲子園ボウル出場を決めた12月5日の立命館大戦に1983年に江戸川学園取手にアメフト部を作った武居和彦さん(65)の姿があった。齋藤の高校時代の恩師だ。定年を迎えたが今もまめに連絡が届き、「調子はどうだ?」「困っていることはないか?」など気にかけてくれる。齋藤はトップレベル(東西1部リーグ)でプレーする最後の教え子で、最終学年となった今年は、機会があれば試合を見に来てくれると武居さんから聞いていた。

応援に来た江戸川学園取手高時代の恩師・武居和彦さんと

武居さんは早稲田大学バレー部出身でアメフト経験はないが、ファイターズに対する憧れがあった。「学生のときに関学のキャンパスへ行ったことがあって、たまたま上ケ原フィールドで見たブルーが印象的だったんです。(江戸川学園取手高の)創部時にユニホームの参考にしました。だから陸が関学にいってくれたのはうれしかったですね」。高校の保健体育の教諭になった時、バレー部の顧問がいたため、新たにアメフトを立ち上げた。初期には古くなった防具を早大に譲り受けに行ったりして、息の長い活動を続けてきた。

2018年7月に日本アメフト協会の職員としてU19世界選手権(メキシコ)の日本代表に同行した際には、関学から選ばれた選手に「日本に帰ったら齋藤と仲よくしてやってくれ」と入ったばかりの教え子を気遣った。「陸には、『お前は立派になる、立派になれ』とずっと言ってきました。大学に入って初めて現地で見たんですが、教え子の試合は見ていてハラハラですね」

齋藤は甲子園ボウルのMVP(最優秀選手)を狙っている。「武居先生は4年間ずっと期待してくれていたんですが、ビッグゲームではまだ活躍できてなくて。甲子園ボウルではスタンドが沸くような文句なしの活躍をして、お世話になった人たちに恩返しをしたい」。関西大学リーグの最優秀選手(松葉杯)には前田が選ばれており、最後は譲れない。小さなRBは、ビッグプレーでの恩返しを誓った。

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