関学2回生RB齋藤陸 アピール、アピール、アピールの春
関西学院大はこの春2試合目となる慶應義塾大との交流戦に、エースQB(クオーターバック)の奥野耕世(3年、関西学院)と2番手QBの平尾渉太(2年、啓明学院)を休ませ、RB(ランニングバック)からQBに転向して間もない安西寛貴(2年、関西大倉)を先発させた。
13-6で迎えた後半からはディフェンスにも控え組を投入。オフェンスが進まず、慶應のパスに苦しめられたが、何とか6点差で逃げ切った。この試合で光った新戦力の一人が、RBの齋藤陸(2年、江戸川学園取手)だ。キックオフのリターナーとして起用され、第3Q(クオーター)に90ydのリターンTD(タッチダウン)を決めた。その次のリターンでも83ydを返した。
右サイド駆け抜け、90ydのリターンTD
第3Q早々、関学は13-13の同点に追いつかれた。嫌な雰囲気の中、慶應のキックオフを受けた齋藤が右サイドへリターン。グンと加速し、味方のナイスブロックにも助けられて大きくゲイン。右のサイドライン際で齋藤も含めて関学3人、慶應2人という絶好の状況になった。齋藤はここで冷静にスローダウン。右に残ったスペースへ回り込むようにして、一番右に残っていた相手選手をかわす。あとはエンドゾーンへまっしぐらだった。
高校2年の練習試合以来のキックオフリターンTD。「努力が報われたというか、『よっしゃー』って思って走りました。久々の気持ちでした」。齋藤が満面の笑みで言った。
齋藤は関学で1、2を争う俊足の持ち主だ。アメフトの世界で基準となる40yd(約37m)走は4.5秒。身長168cm、体重73kgと大きくはないが、このスピードは魅力だ。それでもルーキーイヤーは、秋のシーズンに1試合も出られなかった。
この春ようやくチャンスをもらい、アピールに必死だ。春の初戦(法大戦)の結果を尋ねると「ランは8回53ydで、リターンは1回で23ydです」。自分のパフォーマンスが数字として残るチャンスに飢えていたため、スラスラと数字が出てきた。
齋藤は茨城の江戸川学園取手高校から関学へやってきた。「エドトリ」のアメフト部は部員が少なく、攻守分業などできない。齋藤はRBと守備のLB(ラインバッカー)を兼任。もちろんキッキングゲームにも出るため、試合が始まったら、ハーフタイムまで出ずっぱりだった。「毎試合、第4Qになったら足がつってました。もう限界でした」。進学校でもあり、アメフト中心の生活ではなかった。もちろん勝てない。当初は大学でアメフトを続けるつもりもなかった。
いちどは関学の誘いを断った
それでも小さな俊足男は目立つ。しかも「お祭り男」だった。二つのオールスターゲームに選ばれて出場すると、どちらも最優秀選手に選ばれる活躍。関学を含めた強豪大学から声がかかった。しかし、スポーツ推薦の道を断った。あくまで、アメフトを続けるつもりはなかった。
高3の春で引退し、受験勉強を始めた。夏ごろ、急にアメフトが恋しくなった。「関学みたいに、みんなが本気で日本一を考えてる中でやるのは楽しいだろうな」。いちどは断った関学を指定校推薦で受験し、合格。極めて珍しいパターンで関西へとやってきた。
昨シーズンはライスボウルまで勝ち上がったチームにいて、無力感ばかりを感じた。「悔しかったです。でもJV戦(控え組の試合)で目立つしかないと思って切り替えました」。そこでアピールしたからこそ、いまがある。
高校までの28番から27番に変えたわけ
高校時代の背番号は28だった。いまは27だ。この番号を選んだ理由を聞いて、私は笑った。「左手でボールを持ったときに、関学の番号の字体だと8が6とか3にも見えてしまうんです。だから、間違われないように27にしました」。おもろい男だ。
春のゲームはまだまだ続く。この先の目標を尋ねた。「もっとRBで目立ちたいです。RBとしてもTDをとって、もっともっとアピールしたいです」。慶應戦ではRBとしては4回のランで40ydと、いまいち目立ちきれなかった。
いちどは関学の誘いを断った男がいま、少し関西弁に染まりながら、自己アピールに躍起になっている。ファイターズの27番、齋藤陸にご注目を!!