バスケ

特集:第73回全日本大学バスケ選手権

明治大・溝口月斗 降格・コロナ・けが、困難を跳ね飛ばして快進撃を続けた大黒柱

プレーに入る前の溝口

明治大学は11月9日のインカレ2回戦、57-74で京都産業大学に敗れた。コート上には涙を流す選手たち。その中に溝口月斗(4年、東海大札幌)の姿もあった。関東2部秋季リーグ戦で全勝優勝、1部昇格、インカレ出場を成し遂げたチームに欠かせなかった溝口という存在。しかし明治大で過ごした4年間の中で、彼にはたくさんの苦難が降りかかった。降格、コロナ、そしてけが。あらゆる困難をはねのけ、4年生の秋にかけた溝口に注目する。

無念の2、3年目を超えて

2年前の11月10日、関東2部への降格が決まった日に、溝口はスタメンとして出場していた。試合はブザービーターで勝利する劇的な展開。しかし勝ち点などの関係から2部へ自動降格となった。喜びからあっという間にどん底へ。先輩たちの悲しみの顔を間近で焼き付け誓う。来年は返り咲き、自分たちの代は1部でプレーを。

しかし、この思いは予想外の方向から裏切られることとなる。新型コロナウイルス蔓延による、2020年のリーグ戦、昇降格制度の中止だ。溝口の代に1部でプレーする可能性は消えた。それでも現状を受け止め、切り替えるしかなかった。「下級生のためにも1部という舞台を残したい」。1部でプレーするという思いは先輩から自分、そして後輩へ。2年越しとなる雪辱を果たすために最終学年での戦いが始まった。

春のつまずきをバネに

後輩に夢を託すと決めた溝口の前に、新たな苦難が立ちはだかった。膝のけがだ。それに伴い、春季トーナメントは欠場。チームは2回戦で1部の神奈川大学に敗北を喫した。「神大は日本人だけ。身長も自分たちの方が大きい」。だからこそ、負けられなかった。「しっかりリハビリをして秋で力を発揮する」

秋季リーグ、対東京成徳大戦で活躍した溝口(左)

秋季リーグ戦に照準を合わせて戻ってきた溝口は、リーグ戦初戦の東京成徳大学戦でスターターではなかったものの、約20分間のプレータイムを獲得。リバウンド数はチーム最多と大黒柱としての活躍を見せた。その後もチームは立て続けに連勝。同期の中村吏(正智深谷)や、ルーキーの伊藤治輝(桐光学園)らとともに2部屈指の守備力を誇る明治大のゴールを守った。結果、明治大は2部リーグ戦全勝優勝。更に得失点差は+222点と抜群の安定感を誇った。

果たされた雪辱

春に敗北した神奈川大に雪辱を果たす、予期せぬチャンスが舞い降りた。インカレチャレンジマッチだ。2部1位の明治大と1部最下位の神奈川大はインカレ出場をかけて戦うことに。この試合、溝口はスターターとして出場。試合は前半こそリードするものの、第4クオーター(Q)で逆転されてしまう。

残り1分で5点差。「正直終わりだなって思った」。しかしそんな溝口の目を覚まさせる奇跡が起きる。田邉太一(2年、福岡大大濠)が2本のフリースローを沈め、3点差で迎えた残り10秒、田邉の値千金の3Pシュートが決まり、勝負の行方は延長戦に。溝口は「最後まで決め切るという形で戦い抜けた」とインサイドから得点を決めるなど、延長戦では明治大がそのまま勢いに乗り、84-75で見事勝利を収めた。

インカレチャレンジマッチ後、塚本舞生(左、4年、明成)と仲良く写真を撮った溝口

「リーグ戦初戦とチャレンジマッチでは全く違うチームになった」。神奈川大に敗北してから始まった雪辱への思いは、勝利とともに達成された。

後輩たちに受け継いだもの

インカレでは1回戦の星槎道都大学戦でこそ勝利したが、2回戦では関西1位の強豪・京産大に敗北。「シンプルに強かった。自分たちのやってきたことが及ばなかったような感じだった」。明治大の快進撃はインカレベスト16で終わってしまった。

京産大戦でシュートを放つ溝口(左)

しかし、来季チームは1部で戦う。このインカレでの敗北は決して無駄にはならない。「来季はもっと厳しい状況になる。大きさやプレッシャーに負けずに、ディフェンスを引き継いで頑張ってほしい」。幾度となく苦難を乗り越えてきた溝口。自身は引退するが、意外にも不安はない。来年は楽しみかという質問にもニヤッと笑い、「まあ見ててくださいよ」と答えていた。

来年、明治大は挑戦者となる。溝口は後輩たちの活躍を確信しつつ、涙交じりの笑顔でコートを後にした。

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