明治大学の児玉樹、身長192cmの大型CTBは勝負所でチームに勢い与える
ラグビーの第58回全国大学選手権で明治大学(関東対抗戦3位)は準々決勝(26日)で早稲田大学(関東対抗戦2位)へのリベンジを期する。関東対抗戦の早明定期戦(5日)では7-17で敗れたが、3大会ぶりの大学日本一には負けられない戦い。1年生から紫紺のジャージーをまとってきた身長192cmの大型CTB(センター)児玉樹(いつき、4年、秋田工)は背番号「22」のインパクトプレーヤーとして出番を待つ。
3週間前のリベンジを
3週間前の伝統の一戦について児玉は「(相手のトライは)2本とも自分たちのミスから取り切られてしまった。アタックではチャンスゾーンに入る時間が多かったのですが、攻め手を瞬時に判断できなかったことが課題です。(相手)ゴール前に入ったときに、もっと積極的に攻めても良かった。得点しようという気持ちが強すぎて、逆に守りに入ってしまった……」と唇を噛んだ。
夏場にケガを重ねてしまい、現在はベンチスタートに回っている児玉は、後半24分、7-10と劣勢の中、廣瀬雄也(2年、東福岡)に代わり登場した。「チャレンジすることも大事です。そうしたら相手(ディフェンス)も前に出づらくなる。ゴール前に入ったら積極的にキャリーしようと意識して試合に入った」。メンタル的に目の前の試合に集中することができ、児玉は何度か持ち味である力強いランを見せた。
練習からも力強いボールキャリーを重ねている。今季からハイパフォーマンスマネージャーに就任した里大輔氏の存在が大きい。「高校時代からお世話になっていて、当時は3カ月に1回くらいでしたが、里さんには今年になって週2回くらいで指導してもらっています。僕の癖をわかっているので、ステップとか加速する場所とか入念に教えてもらったのが良かった」(児玉)
チームとしては帝京大、早大戦と関東対抗戦終盤に連敗し、特にアタック時の決定力が課題となった。児玉は「疑心暗鬼みたいになっているところもあると思うので、もう1回、今年、やってきたことを信じることを浸透させないといけない。特別に新しいことをやることもない。やってきたことの精度を1つ1つ上げることが大事」と言っていた。
児玉は欠場したが、大学選手権初戦となった4回戦(12月18日)で前年度王者の天理大学を27-17で振り切った。前回大会準決勝で完敗した相手にゴール前のスクラムからペナルティートライも奪うなど力強さを取り戻している。「早大は僕らとの対戦が初戦となり、1試合経験しているほうが絶対有利になる」(児玉)
2試合ぶりの復帰となる児玉について神鳥裕之監督は「早明戦でもいいラインブレイクを見せてくれた。わかっていても止められないプレーができるのは(児玉)樹だけなので、大学選手権でも強みを生かして、チームを前に出すプレーをしてほしい」と期待を寄せていた。
4年生の児玉にとっては最後の大学選手権になる。1年生の時は自身初の日本一を経験したが、ロスタイムから数分の出場に終わり、2年生の時は決勝で早大に敗れた。児玉は「(1年時は優勝して)うれしかったですが、自信を持って日本一になったと言えるわけでもなく、やはり『もやもや』が自分の中に残っています。一つひとつ練習、ミーティングを大事にして、最後は自分が貢献して、このチームで優勝したい。最高の未来になるように頑張らないといけない」と意気込んでいる。
長田、河瀬がいた東海大仰星高と引き分け
秋田県出身の児玉は、幼稚園の友人に誘われて5歳から秋田市エコー少年ラグビークラブで競技を始めた。小学校6年生の時からCTBとしてプレーし、将軍野中3年の時は東日本中学生大会で3位に入った。大型バックスとして期待されてきた逸材で、高校は実家から秋田中央高の方が近かったが、「花園の優勝回数、出場回数も最多で伝統があり日本一を目指せる」秋田工高に進学した。
高校2、3年時は「花園」こと全国高校ラグビー大会に出場し、キャプテンとして臨んだ3年生の時は元日の3回戦で、優勝することになる東海大仰星(大阪)と対戦。相手には大学で何度も対戦している早大のCTB長田智希、FB(フルバック)河瀬諒介(ともに4年)らがいた。最後はゴール前に攻め込んだものの27-27でノーサイド。トライ数差で準々決勝に進出することはかなわなかった。
引き分けに終わった試合を児玉は「初めて花園で年を越せたといううれしさもありましたが、僕がPGを1本外してしまったし、負けずに終わったので余計、悔しい気持ちもあります。(勝って)第1グランドでやりたかった気持ちも強かった。今でも試合を全て見られていません」と振り返った。
高校日本代表にも選出された児玉は、大学は梶村祐介(明大→横浜イーグルス)への憧れ、そして「当時、全盛期だった帝京大を倒して日本一になりたい」という強い気持ちで明大に進学する。体重はほとんど変わっていないというが、ウェートトレーニングを重ねて100kgだったベンチプレスも150kg挙がるようになるなど順調に成長を重ねていった。 ただ3年生になるとコロナ禍で春季大会がなくなり、3カ月ほどのステイホーム期間を経て、実家から戻った後はモチベーションも上がらず、「ルビコン(C、Dチーム)」で調整したときもあった。
アウトプット意識し成長
そんな時、「怒られっ放しだった」という5月まで指揮を執っていた田中澄憲前監督に「発言が少なかったので、インプットしたものを、かみ砕いて(周りの選手や後輩に)アウトプットできるようになったら伸びる」と言われた。それを意識して続けた結果、パフォーンスが上がり、安定してきたと感じている。
児玉は、「リーグワン」でもラグビーを続ける予定で、「13番」、アウトサイドCTBに「こだわっていきたい」と話す。「今の日本のリーグは外国人選手が多いポジションですが、フィジカルと日本人特有のスキル、丁寧さで、外国人に負けない姿を見せていきたい。それがセンターとして使ってくれた高校時代の伊東真吾監督やキヨさん(田中前監督)への恩返しになる」(児玉)
好きな言葉は「出し切る」という意味の「オールアウト」。趣味は同期のCTB江藤良(報徳学園)と自転車で映画に行ったり、音楽を聴いたりすることだ。特に音楽はK-POPの「BLACKPINK」が好きでジスのファンだという。
今季の明大のスローガンは「MEIJI PRIDE」である。4年生の間で、「MEIJI」という言葉を入れるかどうかで議論になったというが、「明大には『前へ』という受け継がれてきた言葉があります。『MEIJI』という言葉を入れることによって、『前へ』のプライドがさらに際立つスローガンになると思ったので『MEIJI PRIDE』にしました」(児玉)
多くても残り3試合。児玉は「明大はただ勝つだけでなく、貪欲に前に出続けるアタックや刺さり続けるタックルをした上で、勝つことができれば自分たちもファンも一番うれしいと思います。大学選手権では4年間の集大成で『前へ』という明治のスタイルを一番に体現してチームの勝利に貢献したい」と語気を強めた。
江藤、廣瀬とのライバル争いも児玉は「いい競争ができている。今後、練習からアピールしてプレータイムを伸ばしていきたい!」と話す。将来を嘱望されてきた大型CTBが、大学生活最後の大会でフィジカルの強さ、ボールキャリーで3年ぶりの王座奪還を狙う明大に勢いを与える。
「明早戦」で敗れた明大が大学選手権で早大に雪辱したシーズン
年度 明早戦 大学選手権
1972 ●14-19○ 決勝○13-12●
1981 ●15-21○ 決勝○21-12●
1982 ●6-23○ 準決○13-9●
1995 ●15-20○ 決勝○43-9●
2018 ●27-31○ 準決○31-27●
全国大学選手権での「早明戦」は第9回大会(1972年度)から5年連続決勝で対戦するなど過去14回。明大は定期戦では40勝55敗2分けと負け越しているが、選手権では8勝6敗と分がある。このうち初優勝した9回大会決勝や22季ぶりに復活優勝した55回(2018年度)準決勝など5回は定期戦で負けた明大がリベンジした。早大が定期戦、選手権と連勝したケースも同じく5回。残りは明大○→○1回、△→○2回、早大●→○1回。早明の大学選手権での対戦は全て準決勝以降で、準々決勝での顔合わせも年を越さずに再戦するのも今回が初めてになる。