早稲田大が箱根駅伝で3年ぶりのシード落ち、相楽豊監督「これが今のチームの力」
第98回箱根駅伝
1月2・3日@東京・大手町~箱根・芦ノ湖間往復の217.1km
早稲田大学
総合13位(往路11位、復路12位)
今シーズン、出雲駅伝でも全日本大学駅伝でも6位だった早稲田大学は、最後の箱根駅伝で「総合優勝」だけを目指してきた。しかし往路は10位と1秒差での11位、最後は総合13位でレースを終えた。「体調も含めて選手の足並みがそろわず、全てが後手に回りました。箱根はごまかしが利かないことを改めて知りました」。相楽豊監督は3年ぶりのシード落ちに悔しさをかみしめた。
後手に回った準備
チーム内には10000mで27分台の記録を持つ選手が3人(中谷雄飛、太田直希、井川龍人)おり、トラックシーズンには昨年6月の日本選手権5000mで千明(ちぎら)龍之佑主将(4年、東農大二)が学生トップの8位入賞を果たすなど、学生たちは自信を深めて駅伝シーズンを迎えたはずだった。しかし出雲駅伝の直前に千明が腰の痛みを訴えて出場を回避。その後、仙骨の疲労骨折が判明した。全日本大学駅伝では千明だけでなく太田直希(4年、浜松日体)も不調からレースを回避し、相楽監督は「スタートラインにベストメンバーを準備できなかったこと」を課題に挙げた。
チームが掲げていた目標は「駅伝三冠」。箱根駅伝を前にして、自分たちが何を目指すのかを改めて全員で話し合い、「勝ちたい」という気持ちをぶつけた千明の言葉でチームの気持ちは1つにまとまった。箱根駅伝こそは総合優勝をつかむ。12月19日の箱根駅伝合同取材で相楽監督は「箱根駅伝総合優勝という目標を変えるつもりはありません」と言い切ったが、内情としては不安もあった。
今シーズン力を示してきた菖蒲敦司(2年、西京)が大腿骨を疲労骨折し、前回の箱根駅伝で6区を走った北村光(2年、樹徳)には貧血の症状が出ていた。千明と太田は箱根駅伝に向けて徐々に調子を上げていた一方で、井川龍人(3年、九州学院)の調子がいまいち上がらない。相楽監督はギリギリまで選手の状態を見極めながら、区間配置に頭を悩ませた。
1区で想定外の16位
1区には当日変更で井川を起用した。井川は調整が遅れていたこともあり、相楽監督は前半は力を使わない走りを伝えていた。6km過ぎに中央大学の吉居大和(2年、仙台育英が)が飛び出し、井川は第2集団の前方でレースを進めた。16kmを過ぎ、関東学生連合チームの中山雄太(日本薬科大3年、花咲徳栄)がペースを上げると2位集団は縦長になったが、井川はそのペースについていけない。最後は苦しさに顔をゆがめながら、2区の中谷雄飛(4年、佐久長聖)に16位で襷(たすき)をつないだ。
上位で来てくれるだろうと想定していた中谷にとって、16位は「自分が何位でスタートしたのかも分からない」状況ではあったが、1人でも多く抜いて順位を上げるため、自分の力を出し切ることに集中した。ほぼ単独走で順位を3つ上げ、3区の太田に襷リレー。想定外のレース展開ではあったが、今のコンディションで持てる力を出し切ることはできた。ただ、区間14位の結果に「申し訳ない気持ちでいっぱいです」と苦しい胸の内を明かした。
3区の太田と4区の石塚陽士(1年、早稲田実)が区間6位の走りでつなぎ、10位で5区の伊藤大志(1年、佐久長聖)へ。1分1秒差の12位から5区区間記録保持者の宮下隼人(東洋大4年、富士河口湖)が追い上げ、函嶺洞門(3.5km地点)で並ばれた。しかし伊藤も意地を見せ、宮下の前に出る。一時は宮下を引き離したが、ペースを上げて前に出た宮下に後れをとり、更に後ろからは神奈川大学と東海大学が迫っていた。元箱根(18.7km地点)を3校が並んで通過。最後は神奈川大に1秒差での11位でゴールとなったが、最後まで食らいついた伊藤の走りを見て、復路の選手たちは「ここから絶対追い上げよう!」という気持ちを強く持ったという。
千明、箱根路を走れなかった4年生を思い
6区は相楽監督にとって一番悩んだ区間だった。候補だった北村が走れなくなったことで、急きょ、栁本匡哉(2年、豊川)が選ばれた。「急ピッチで仕上げたので苦しくなるのは分かっていましたし、7~10区で盛り返そうと考えていました」と相楽監督。10位の東海大とは1分21秒差の14位で栁本は襷を7区の鈴木創士(3年、浜松日体)へ。鈴木は12位に追い上げて8区の千明に襷をつないだ。
千明は前回大会でも8区を走り、区間5位で順位を10位から9位に押し上げている。「8区は復路で差がつく区間で、そこでアドバンテージを取るのは自分の役割」と千明は考えていた。また往路には自分以外にも同期の室伏祐吾(4年、早稲田実)が10区に配置されていたが、当日変更で山口賢助(4年、鶴丸)に変わった。大学で競技を終える半澤黎斗副将(れいと、4年、学法石川)は箱根駅伝にかけ、誰よりも距離を踏んできたが、補欠でメンバーから漏れた。千明はともに戦ってきた同期の思いを背負い、21.4km、同期のことをずっと考えながら走っていたという。千明は法政大を抜いて11位に順位を上げ、9区の佐藤航希(2年、宮崎日大)に襷をつないだ。
佐藤は区間14位に沈み、法政大に抜かれての12位でアンカーの山口に襷リレー。10位の帝京大学との差は1分46秒。山口は室伏からの給水に励まされ、ひたすら前を追った。12秒差の13位から追い上げてきた神奈川大と馬場先門(20.1km地点)を並んで通過。ラストスパートは山口が得意とするところだったが、最後は力負けし、3秒差での13位でゴールテープを切った。
相楽監督「チーム一丸で戦うところから見直し」
近年、早稲田大にとって山区間である5区と6区が“鬼門”となっていた。ただ今大会は「2人(伊藤と栁本)がやってきた準備から考えれば合格点」と相楽監督は言い、山区間以外でどれだけ稼げるを考えてきたが、「それができなかったことで、こうなることは決まっていたのかな」ともらす。力のある選手がそろっていただけに、区間編成ではいくつかの選択肢があるはずだった。しかし準備が後手に回り、ふたを開けてみれば「この手しかなかった」と相楽監督。「これが今のチームの力。やはりチーム一丸で戦うところから見直してやっていかないといけない」と力なく言った。
総合13位の結果に選手たちはショックを隠しきれなかった。この悔しさも胸に一からチームを立て直し、再起を誓う。