陸上・駅伝

駒澤大・大八木弘明×國學院大・前田康弘×M高史、監督たちの駅伝からオフまで直撃!

現状打破ポーズで!左からM高史さん、大八木監督、前田監督(撮影・増田創至)

1月14日に全日本大学駅伝事務局主催のオンラインイベント「学生三大駅伝2021年シーズンをふりかえって」が開催されました。駒澤大学・大八木弘明監督、國學院大學・前田康弘監督をゲストにお迎えし、21年シーズンの戦いから今後のこと、指導についての考え方などの話題で盛り上がりました。1時間があっという間にすぎた当日の様子をお伝えします。

今シーズンは「悔しい年」に

ゲストMCは駒澤大出身のM高史さん。恩師であり大先輩のお二人を前に緊張した様子ですが、そこはプロ。明るく「現状打破!」からスタートしました。

M高史さん(以下、M高史):まず最初に、今シーズンを振り返ってのチームのお話を伺えればと思います。

大八木弘明監督(以下、大八木監督):なかなかうまくいかなかったですね。出雲は故障者も多くてベストメンバーで臨めなくて、5位で納得できない成績でした。全日本は(鈴木)芽吹(2年、佐久長聖)、山野(力、3年、宇部鴻城)、篠原(倖太朗、1年、富里)と故障者がいた中でも優勝できました。箱根に向けていい流れになったかなと思ってたけど、実際は故障者がなかなか復帰できなくて、箱根の難しさや20kmに対してのスタミナ不足が感じられました。この3大駅伝は良かったところと悪かったところがはっきり見えてきたので、今年は勝ちに行く、リベンジしにいくと思っているので、これからやっていきたいと思ってます。

M高史:大八木監督は駒澤大の監督に就任されて27年。そのうち全日本大学駅伝には26回出場し、なんと14回優勝という実績を持っています。勝率5割以上ですよね!?

大八木監督は26回全日本に出場して実に14回の優勝。圧倒的な相性の良さを誇る(撮影・佐伯航平)

大八木監督:ほんとに相性がいいですね(笑)。全日本になると勝てそうだなという気にはなってます。今回もそのいい流れでいきたかったんですけど、(箱根では)いけなかった。やはり指揮官のミスですね。

M高史:前田監督はいかがでしょうか。

前田康弘監督(以下、前田監督):出雲駅伝は最後青学と東洋に抜かれての4位で、非常に悔しかったですけど、まさか大八木監督に勝てると思ってはいませんでした。嬉しい部分と悔しい部分である程度手応えを感じられて、全日本はその流れのまま6人を中心に戦いました。大八木監督のオーダーも参考にして、7区・8区の重要性を確認しながら配置しました。結果的に平林(清澄、1年、美方)と伊地知(賢造、2年、松山)が走ってくれて(過去最高の)4位を取れたのは歴史上大きいことで、重要な大会になりました。

伊地知は全日本アンカーの8区で区間賞の快走。チームの史上最高順位に貢献(撮影・佐伯航平)

箱根に関しては悔しさが残る大会でした。「勝負の年」と準備してきた中で、最後の最後で故障者がでて万全の体制で迎えられなかった。チームの100を出すと言いながらも100を出せませんでした。箱根がすべての結果を覆してしまうので、「悔しい」という思いが強いシーズンですね。

時代とともにかわるコミュニケーション

M高史:お二人は駒澤大の師弟関係ですが、やっぱり順位が競り合った時は意識するんでしょうか?

大八木監督:やはり教え子に負けられない、勝たなくちゃいけないだろうという気持ちがありますね。

前田監督:なかなか箱根駅伝の運営管理車で駒澤の前を走るって経験がないんですけど(笑)、私としては前に行けたら非常に嬉しいです。目標にしている指導者でもありますし。

大八木監督:國學院が前に行くと、嬉しいなと思いますよ。(19年の95回大会の5区で)浦野(雄平、現・富士通)が前にいて「お前が区間賞を獲るんだ」と声かけましたから。選手たちもわかってて、それでセットでいきましたね(笑)。そういうことができるチーム同士だと思っているので、いいなと思います。

M高史:箱根駅伝は運営管理車から声をかけられますが、出雲や全日本は走る前に電話で声をかけますよね。選手によって変えたりするんでしょうか。

大八木監督:それは当然。俺の声聞くと萎縮しちゃう選手には、「大丈夫だよ」って柔らかく。強気で言わなきゃいけない子には、「やれるんだ!」と強めにいいますね。そうすると、魂が入るという感じがあります。

M高史:全日本は監督バスでついていくんですよね。

大八木監督:応援できるポイントもあるので、その時は目一杯応援しますね。今シーズンも田澤に声をかけました。ああいう一声が響いてギアチェンジできると思います。

全日本大学駅伝、前を追う田澤に声をかける大八木監督(撮影・西畑志朗)

前田監督:僕らの時も大八木監督の声が聞こえると、「頑張らなきゃ」ってスイッチが入るみたいなところはありました。自分が声かけする立場になると、「熱く」とか意識してるわけじゃないけどそうなっちゃうのはありますね。昨年の全日本は予選会からだったので、監督バスが2号車だったんです。そしたら交通事情もあって、1号車は大丈夫だったけど2号車は止まれなくて、区間によっては声をかけられなかったりして……やっぱりシードを獲るのは大事ですね。1号車に乗らないと。

M高史:時代とともに声かけやコミュニケーションも変わってきてますか?

大八木監督:前田監督のときと今の子供達では全然違います! 昔はいきなり「こんなもんじゃダメだ!」って叱咤激励して叱って、そこに対して「なにくそ!」という気持ちが返ってきてた。今の子たちには「丁寧に叱る」という感じですね。なぜこう言われるのか、筋道を通して説明しながら叱る感じです。

前田監督:昔は電話が来ていきなり「バカヤロー!」「何やってんだ!」だったから(笑)。

大八木監督:今は優しいです。それじゃだめ、こういうことしなさい、改善してやろうぜ、と。私自身が優しくなったんだと思います(笑)。全然変わりましたね! と言われますよ。

前田監督:大八木監督がおっしゃったことって、対話の仕方を変えてるってことだと思うんです。でも、信頼関係という点は変わらないと思ってます。キャッチボールで例えるなら、今までは指導者が強めのボールを投げてた。今は選手に考えさせて、ボールを投げさせて、その球を見てどういうボールを投げ返すかという指導スタイルになってきてるのかなと思います。

大八木監督:あとは、本当に強くなるためには多少厳しいトレーニングはやらなきゃいけない。そこに対して、選手と指導者は信頼関係がないとダメだと思います。「この練習をやったらこれだけの記録が出る」と、きちっとした説明が話に組み込まれてるかどうか。そこのキャッチボールをちゃんとしないと、選手は不満を持っちゃう。そのあたりのコミュニケーションの仕方も変わってきましたね。こういうトレーニングしたら27分台出ます、箱根でこれぐらい走れます、と練習の中身も含めて話し合うことですね。

「真のエース」を育ててほしい

M高史:前田監督は駒澤大時代にキャプテンをやっていましたが、指導者になってみてキャプテンに求めるものってなんでしょうか。

前田監督:やっぱり「背中」と「有言実行力」ですかね。ミーティングで強い言葉を発したりするので、そのキャプテンの生活や練習に臨む準備がしっかりしていれば、言葉にも説得力がついてくると思います。大八木監督から学んだのは、エースと、エースを脅かす選手と、まとめ役のトライアングルがその学年にあれば、チームは成熟するというか。上の代だと藤田(敦史)さん、佐藤(裕之)さん、河合(芳隆)さん。そういうトライアングルがあれば上を目指せるんだと現役の時に学ばせてもらって、今でも指導の時に生かしています。

M高史:いま、前田監督の現役の時のお話を聞きましたが、大八木監督からご覧になって現在の前田監督についてはいかがでしょうか。

大八木監督:選手と良いコミュニケーションを取って、こまめに選手を見てるのかなと思います。監督になってもう10年経ってるみたいだから、やはり全日本、箱根で勝っていかないと。やっぱり学生ナンバーワンに近いような、真のエースを常に作っていって、それを中心にまた盛り上げていくチーム作りをやっていければ。そうすると底上げが自然とできてくるので、優勝争いできるチームに到達してくれればと思います。あとは「あそこはそういう(世界に挑戦する)選手を育てられるんだね」と思ってもらわないと、選手が飛び込んでこない。飛び込んでいけるようなチーム作りをしてほしいですね。

前田監督に期待するところは大きいと大八木監督(撮影・増田創至)

前田監督:大変恐縮すぎて……。私は大八木監督の教え子で、現役の時からコーチも数年やらせてもらって、本当に情熱があって素晴らしい方だと思っています。指導の立場になって考えると、情熱を超えた「愛」がある指導者だなと感じています。なので素晴らしい選手もいっぱい育っているんだと思います。僕もいずれは大学で日本代表になる選手や、日本選手権で実業団選手と戦える選手を育てたい。大八木監督を見習いながら頑張っていきたいです。

選手を伸ばす指導法とは?

今回は事前に、視聴を希望される方からの質問を募りました。その中でも多かったのが、「モチベーションの保ち方」や「モチベーションを上げるための声かけの仕方」でした。

M高史:お二人が意識されている声かけってありますでしょうか。

大八木監督:まず、常にやる気や意欲が出るような声かけですよね。あとは大事な場面、キツイと思った場面で声をかける。練習で離れそうだ、というときに声をかけると一番我慢ができる。そういうのは心がけています。結局は練習をこなすことが自分の自信になる。1日1日、満足して終わっていかないと体に染み込んでこない。練習で離れて終わってしまったら落ち込んでしまうし、体にも染み込まない。練習を満足させられるように導いていく声かけですね。

前田監督:僕も背中を押してあげる、「君はまだやれる、まだ伸びる」と声をかけるようにしています。あとは、自分を知っている子が少ないなと感じます。まず自分の長所、短所を知り、その上で強化をしていく。そして自分を信じて取り組む。そのあたりは指導者やトレーナーからもしっかりと伝えて、背中を押してあげる感じですね。

丁寧な言葉選び、わかりやすいたとえ話が印象的だった前田監督(撮影・増田創至)

M高史:伸びる選手の共通点は何かあったりしますか。

前田監督:素直な子じゃないですか。こちらが言ったことを曲げずに受け入れられる心というか。

大八木監督:「伸びる」というのは、言っていることを理解できるかということ。それから、中学、高校といろんな指導者に教わってきていると思いますが、「本気になって教えてもらえた」という素直な気持ちと、「この人に教わって伸びた」という感謝の気持ち。そういうのを常に持っている、「周りから支えられたんだ」と思っている子ですね。「自分ひとりで強くなったんだ」と思ってると、いつか壁にぶつかって強くならない。素直さ、謙虚さを持っているとすんなりと体に入っていって、伸びていく感じがしますね。

M高史:学生時代のミーティングを思い出しました。その時もそういうお話をされていたなと。それが今僕も日頃お仕事をする上で大事だなと感じています。ありがとうございます。あとは、これも視聴者の方からで、指導とか子育てで悩んでいるという質問が多くて。伸びるというか変化というか、適切なタイミングってあったりしますか?

前田監督:50人いれば50通りのやり方があるので、マニュアルはありませんよね。ノーガードで話せる距離感を作れるというか、その子のことをよく見て、発言や話し方に気をつけていくのがポイントかなと思います。

大八木監督:若いうちは、好きなことをやらせたほうがいいです! 好きなことをやって失敗して、失敗から学ぶこともいっぱいあります。いま子育てしてる人たちは、とにかくやらせることが一番大事。中学校とかの指導者も好きなことを自由にやらせないと、子どもが固まっちゃいます。私は中学の時は野球、卓球、陸上と、冬は距離スキーもやってました。いろんなものをやってるからどういうものが自分にあっているかわかるし、やってて最終的に高校、大学につながっていくから。

M高史:僕も「芸人になります」と大八木監督にお電話した時、最初はびっくりされたんですけど、「やるからにはとにかくやってみろ」「やるからには一番だ」と言われて、チャレンジしようと思いました! ちなみに、お二人は陸上以外の時間は何をされてるんですか?

前田監督:いきなりその質問(笑)?

大八木監督:うーん、本当にオフのときは温泉に行ったり……。サウナが好きなので常日頃からサウナに入ってますね。朝練前、4時半にはだいたいサウナに入って、5時半に寮をでていく。それでスッキリしてグラウンドに立ってます。

前田監督:僕も家でのんびりしたり買い物に行ったりぐらいですかね。本当に気を抜けるのって、年間そんなにないです。オフがないですし、スカウティングやその先を考えたりとかするので。

盛り上げつつもやはり緊張した様子のM高史さん(撮影・増田創至)

大八木監督:箱根が終わると次(高校2年生)のスカウティングが始まるから大変。ほんとに長距離はオフがなかなかないですね。でも、好きだからできるんだと思います。何十年もこういう生活は、好きじゃないとできない。これが合ってるんだと思ってやるから成績が上がってくるし、本気でやってれば最後には運もついてきます。

「本気さを倍増」して臨む22年シーズン

M高史:いまスカウティングのお話も出ましたが、2022年のシーズンに向けては、いかがでしょうか。

大八木監督:今年は世界陸上の年でもあるから、田澤が(10000mの)標準記録を突破したので、学生のうちに世界陸上に出させてあげたいなという思いです。それから今年入ってくるスーパールーキー(佐藤圭汰、洛南)もいるので、この選手はなんとしても世界陸上に導いていかないといけないし、中堅どころを底上げして3大駅伝やっぱり優勝したいなと思います。世界を見るのと3つの駅伝を勝つのは大変なんですけど、やれないわけではないので。それに向けて今年は本当に集中して、本気さをもっと倍増しながら頑張っていきたいと思いますね。

M高史:田澤くんと佐藤くんの練習とかワクワクしてしまいますね。

大八木監督:彼はまず1500~5000m、それから田澤、芽吹は10000m、あとは唐澤(拓海、2年、花咲徳栄)もいます。世界にチャレンジしようと4人、5人が戦える練習ができるチームになってきてます。世界を目指したいと思って入ってくる子達の思いを叶えてあげないとと思っていて、指導者としてはやりがいがありますね。

前田監督:世界と比べるとこじんまりとした話になってしまいますが(笑)、やはりエースをしっかり作らないといけないと思います。新キャプテンの中西大翔(3年、金沢龍谷)、伊地知、平林、山本(歩夢、1年、自由が丘)などには、突き抜けたものを期待したいですね。4年生中心でやってきたので、来季は変革の年です。スカウトでも高いレベルの選手が入ってくるようになって、ワクワク感を持ちながら練習をやれてるので、戦えるチームをしっかり作っていきたいです。

大八木監督:最近スカウティングで俺とかち合うからね(笑)。だんだん國學院もいい選手取ってきてるから、そういう連中が上といい練習できたら面白いなと思いますよ。今トップが28分10秒ぐらいでしょ? あっという間に27分40秒ぐらいまではいくよ。練習を見させるのも大事だよ。

画面を通してたくさんの方にご視聴いただきました!ありがとうございました!

前田監督:砧公園ではけっこうお会いしますけど、トラックの練習とかはほとんど見させてもらったことがないので。チャレンジさせてもらいたいなって思います。

M高史:2チーム合同の練習とか、ワクワクしかないですね! 最後に、今後の抱負や目標、ファンの方へのメッセージをお願いできますか。

大八木監督:先ほどもいいましたが、やはり今年は世界陸上があるので、標準記録も含めて選考会、試合で結果を出して、世界陸上に出させてあげたいと思います。それと昨年からの駅伝の結果がやはり悔しいので、今年はもう一度気持ちを入れ替えながらリベンジを果たして、3大駅伝勝つつもりで中堅どころを底上げしながら臨んでいきたいですね。

前田監督:國學院としては改革の年だと思うので、「またなにかやるんじゃないか」と思ってもらえるチーム、駒澤と競れるようなチーム作りをやっていきたいです。多くの方々に応援してもらえることで選手もがんばれているところもあるので、また応援の程よろしくお願いいたします。

大八木監督:今年はいろんな中で盛り上げられるようにね。ファンの人に恩返しじゃないけど、楽しい試合を見せてあげたいという思いはありますから。駒澤、國學院ともども一生懸命頑張ってやりますので、応援していただければありがたいと思います。

あっという間の1時間でした。大八木監督、前田監督、M高史さん、ご出演ありがとうございました!

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