バレー

特集:駆け抜けた4years.2022

筑波大・阿部大樹主将、消化できない悔しさ チームを勝たせられる選手になりたい

阿部は筑波大の主将としてセッターとして、ラストイヤーを戦った(撮影・松永早弥香)

あれからまだ、2カ月しか経っていない。今も色濃く残る悔しさを語る一方、大学ではなく春から進むVリーグのJTサンダーズ広島での練習に参加し、課題に直面する。新たな挑戦はスタートしているのだと思い知らされる度、「もう2カ月が過ぎたのか」と実感する。

筑波大学で主将を務めた阿部大樹(4年、埼玉栄)は、大学ラストゲームとなった昨年12月の全日本インカレ3位決定戦を終えた後の、サブアリーナでの最後のミーティングを今も忘れられずにいる。

「みんな、崩れ落ちるぐらい泣いていて。その姿を見たら、本当に一生懸命、全員が本気で戦ってくれていたんだ、と思ったし、だからこそ余計に勝ちたかった。勝たせてあげたかった、と思ったらもう止まらなくて。一瞬で、いろんなことを思い出しました」

ラストイヤーは「リベンジ」を胸に

遡(さかのぼ)ること1年、3年生でチームのセッターとして迎えたインカレは、悔しさしか残らない大会だった。新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)で春から公式戦が開催されず、公式戦がないまま迎えた大会。3連覇を成し遂げてきた早稲田大学をターゲットに、「打倒早稲田」を果たして日本一になる。そのために一つひとつ勝ち上がると強い意志を抱きながらも、準々決勝の日本体育大学戦で敗れた。2セット目までは完璧に近い展開だったにもかかわらず、ひるまず攻めてくる相手の攻撃力を防ぎきれず、最後は自分が崩れた。

阿部(2番)は「どこにも真似できないバレーボール」を目指してきた(撮影・松永早弥香)

大学生活最後の1年は、阿部にとって「リベンジ」を誓った1年でもあった。しかし前年と変わらず、公式戦は軒並み中止になり、練習試合すらままならない状況は続く。それでも筑波大が武器とするスピードと機動力を活(い)かした、どこにも真似(まね)できないバレーボールを完成させればどんな相手にも負けない。早稲田大ばかりを意識しすぎた前年の反省を活かし、トーナメントの初戦から相手を意識することなく自分たちがやるべきことをやろう、と結束して迎えたのが最後のインカレだった。

エース垂水のけがにもチームは崩れなかった

まさに有言実行とばかりに勝ち上がり、準決勝は順天堂大学と対戦。前日の準々決勝で日体大をフルセットの末に倒した順天堂大が、秋季リーグとは見違えるほどの完成度を見せていた。堅守から切り返し、一本で決めようとするのではなく、リバウンドを織り交ぜながらチャンスがきたら一気に攻める。試合映像を繰り返し見て、前衛、後衛がシンクロした攻撃に対する警戒を高めていた。

阿部は順天堂大の戦い方を頭にたたき込み、準決勝の舞台に立った(撮影・松永早弥香)

第1セットは先取したが、第2、3セットを連取された。後がない状況でエースの垂水優芽(3年、洛南)の攻撃が立て続けに決まり、中盤から筑波大が抜け出す。このままフルセットの攻防を筑波大が制するのか。それとも準々決勝に続いて順天堂大が勝利するのか。準決勝以降は観客も入ったスタンドからの期待が高まる中、アクシデントが発生。着地時に足をひねり、垂水が交代を余儀なくされた。

急きょ出番が回ってきた橋本岳人(2年、埼玉栄)がコートに入る。例え誰だったとしても、この場面で急きょコートに入れば絶対に緊張する。高校の後輩でもある橋本が過度なプレッシャーを感じることなくプレーできるように、チームを落ち着かせるように。自身も少なからぬ動揺があったが表情は変えず、1本1本をアタッカーに託し続けた。特に覚醒した柳田歩輝(2年、松本国際)の攻撃は頼もしく、劣勢から放った1本に阿部も「鳥肌が立ったし、今でもハッキリ覚えているぐらいすごかった」という活躍で追い上げたが、最終セットは13対15。フルセットの末に決勝進出を決めたのは順天堂大だった。

秋山監督の涙

目指した日本一にはまた手が届かなかった。落胆する気持ちも強くあったが、翌日には3位決定戦がある。しかも対する中央大学は秋季リーグで敗れているだけでなく、前年の大会直前に新型コロナウイルスの流行で出場が叶(かな)わなかった悔しさも持っている。ただの最終戦ではなく、互いにとって絶対に負けられない試合であり、筑波大にとってはエースを欠いた戦いでもある。

頭に相手や自チームのデータを叩き込み、戦略を練り、戦術を遂行する。冷静さを保つ一方、勝っても負けてもこれで終わり。最後は気持ちだ、とばかりに得点が入れば全員が吠(ほ)え、コートを走り回る。試合に出る選手だけでなく、ベンチやスタンドにいる選手も枯れるほど声を出し、1つになって戦う。その姿こそが、4年間、高い目標を掲げ続け、必死で毎日を過ごしてきた証。

ラストゲームの終わりを、阿部(右端)はうつむきながら受け止めた(撮影・松永早弥香)

準決勝に続いて3位決定戦もフルセットの末に敗れ、「勝って終わる」ことはできなかった。それでも素早くボールやジャージ、タオルを集め、その場にいる全員が自分のすべきことを全うする。「これが筑波だよな」と感じ、最後の大会が終わったことも実感し、胸には感謝や悔しさ。言葉にできない様々な思いが込み上げる中、涙が溢(あふ)れたのは、秋山央監督の涙を見た時だった、と振り返る。

「一言『ごめん』と。それ以外、言葉が詰まって何も言えなかった。4年間で秋山先生の涙を見たのは初めてでした。先生が抱いた感情は僕には分かりません。でもその涙を見たら、終わったんだ、勝てなかったんだ、といろんな思いが爆発した。僕だけじゃなくみんな、周りも全員崩れ落ちるように泣いていました」

主将としてセッターとして、何ができただろう。自分がもっとチームをまとめることができていたら。もっと徹底してチームの課題に向き合い、克服する努力をしていれば結果は違ったかもしれない。4年間同期としてともに戦ってきた仲間はもちろん、後輩やスタッフ、家族、応援してくれた全ての人たちに対して期待に応えられなかった悔しさ、申し訳なさが込み上げ、後輩には同じ思いをさせたくない、と阿部は言う。

「正直、今でも完全に吹っ切ることができたか、と言えばできていない。今でも悔しいし、ダメージもデカいです。でも、だからこそ同じ思いをしないためにも、次のチームは能力が高い選手も揃(そろ)っているから、更に個の力を高めて、考える力や熱さ、全部を結集すれば絶対どこにも負けないチームになれる。みんなの思いがぶつかり合って、燃えるようなチームを作ってほしいです」

筑波大での4年間は「すごく勉強になる時間だった」

4月からはJTサンダーズ広島に入団する。すでにチームへ合流しているが、まだ試合への出場機会はなく、「練習でも自分の未熟さや課題ばかり実感する」と笑う。毎日刺激だらけで、筑波大とのスタイルの違いに戸惑うことも多いと言うが、その中でいかに自分の強みを発揮できるか。勝負の世界に、表情を引き締める。

大学での学び、悔しさを胸に勝負の世界へ(写真提供・JTサンダーズ広島)

「Vリーグは高さやパワーは確かにすごい。でも1本1本の質やこだわりは、大学生も負けていなかったと思うんです。今の自分ではまだVリーグで勝負できるレベルではないので、1日1日やることだらけですが“お客さん”ではないので、今から勝負する気持ちでやらないといけない。大学でやってきたバレースタイルや、そこでのテンポ、感覚がまだ抜けないですが、少しずつJTのバレーに対応できるようにしながらも、自分の武器、スタイルは活かせるように。筑波大での4年間で大切なものを学び、すごく勉強になる時間だったので、それも活かして、これから1人の選手として成長したい。勝つためにやるべきことを理解して、研究して、チームを勝たせられる選手になりたいです」

苦しいことも、悔しいことも多かった4年間。その全てを糧にして、新たなステージで更なる進化と成長を誓う。

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