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オービックシーチア藤本愛祈、東京学芸大スタッフや教師経験生かしNFL挑戦

オービックのチアリーダーチーム「SEA-Cheer」藤本愛祈。この春、NFLに挑戦する(撮影・北川直樹)

アメリカンフットボールの社会人Xリーグ、オービックシーガルズ(千葉県習志野市)のチアリーダーチーム「SEA-Cheer(シーチア)」に所属する藤本愛祈(あき、26)。この春、NFL(米プロフットボール)チアリーダーのオーディションを受けるために渡米する。本場を目指す彼女の取り組みと、これまでの経験、実現したい夢について聞いた。

ミュージカルに魅せられて

千葉県東金市出身の藤本が、チアリーディングを始めたのは社会人になってから。原点はミュージカルだ。小学3年のとき、学校で市民ミュージカル体験会のチラシをもらって参加したことがきっかけで、歌にのせて自分を表現する楽しさを知った。すると母の晴枝さんが劇団を探してきてくれて、週末に通う日々が始まった。当初は姉妹3人で通ったが、姉と妹は他の習い事をはじめるなどしてミュージカルから一足先に卒業。ひとりプロのミュージカルダンサーを目指した。

高校に進学した2011年、劇団生活の中で彼女の生き方を決める出来事があった。東日本大震災で被災した宮城県石巻市に、チャリティー公演に出かけたときのこと。終演後に被災者である年配の女性が藤本の所へやってきてこう言った。

「あなたの笑顔で、明日も生きられます」

自分ができることを一所懸命にする姿が誰かの活力に繋(つな)がるという体験から、自分が進むべき方向性が見えた。プロダンサー以外の道として、人の心が前向きに動く瞬間や成長に関われる教師になる夢を見つけた。

高校1年生の時に、腰を痛めてしまった。「今思うと大したことではないんですが、当時はもう踊れないと思って」と、プロダンサーへの夢はあきらめた。それでも高校卒業までは学校のダンス部と両立し、全力でやり抜いた。

「新しいことに挑戦」とアメフト部へ

大学は教員を多く輩出する東京学芸大学に進学。初めはダンスサークルに入るつもりだったが、アメフト部スネイルズ(SNAILS)の熱烈な勧誘を受けた。ちょうど「最後の学生生活だし、何か新しいことにチャレンジするのもいいかも」と考えていたときで、クラスの友達が入部を決めていたこともありアメフト部を選んだ。

東京学芸大学ではアナライジングスタッフだった(本人提供)

数学科だったことで先輩に「データ分析が向いてるかも」という助言を受け、戦術分析を行うアナライジングスタッフになった。担当はオフェンス。プレーの作戦であるアサイメントからレポートの作成、試合中の相手チームの傾向分析などを行った。「自分が挑むことにはできる限りの準備をすることが大切だと学びました」。勝負なので結果が出るとは限らないが、120%の自分をぶつけることで得られるものがあることを知った。この経験が、今の彼女のベースを作っている。

先生とチアリーダー追う

就職に際し、高校生のときからの夢である教師を目指した。ただ教室にいるだけの先生にはなりたくなかった藤本は、社会や世界に繋がれる教育が実現できる可能性を探った。そんなとき「Teach For JAPAN」というNPO法人に出会った。様々なバックグラウンドをもつ人材を提携している学校に派遣する活動をしており、従来の教育とは違うアプローチを目指している団体だ。「ここなら自分がなりたい教師像を実現できるかもしれない」と直感を得た。2年間、埼玉県の小学校に勤めることになった。

同時に、アメフトの試合で「熱狂的な空間を作り出すところに魅力を感じていた」という、Xリーグのチアリーダーを目指すことに。そして、「チアリーダーになったら3年でNFLに挑戦する」と決めた。

理想の先生像を追って2年間奮闘した(本人提供)

小学校では3年生を受け持ち、最初の1年は苦労もたくさんあったが、子供たちに自分がチャレンジする姿を見せるために妥協はなかった。本格的なダンスやチアが未経験の藤本は、仕事のあとにダンスレッスンに通い、1年後の19年にオービックのトライアウトを受験して合格した。トライアウトではダンスドリルと形式を定めない自己表現のテストがあった。このとき、ただ一人歌った。「私、変わってますよね」と振り返り笑う。

NFLへ3年計画

日本からNFLプレーヤーはまだ誕生していないが、チアリーダーは幾人もの実績がある。今年2月のスーパーボウルでは、シンシナティ・ベンガルズの山口紗貴子と猿田彩がフィールドを舞った。

「NFL挑戦3カ年計画」を立てた藤本は、オービックでの活動に加えてNFLチアリーダーのトライアウトに向けたレッスンにも通った。NFLやNBA(米プロバスケットボール)のチアリーダー経験がある方に連絡をとってアドバイスをもらったり、セミナーやレッスンを受けたりしてオーディションに向けたトレーニングを積んだ。「チアリーダーとして大切なのは、笑顔で人を元気にさせるだけじゃなく、人を感動させるダンススキルを身につけること。両方持っていてはじめて空間自体を前向きにできるということを学びました」

「SEA-Cheer」3年目のシーズンはキャプテンも任せられた(撮影・北川直樹)

教師の任期が終わった20年からは人材会社に勤めながらチアリーディングの活動を続け、オービック所属3年目の21年シーズンは、メンバーの勧めも受けてキャプテンを務めた。「自分がキャプテンとして何ができるかと考えて、衣装を一新したり変化をたくさんつくりました」。ただやるだけではなく、向上するには何が必要なのかを常に考えてきた。シーチアのチームメートの森川茉子は、藤本のリーダーシップについて「上下なく意見を出しやすい環境を、率先して作ってくれている」といい、忙しくても自主練を欠かさず、パフォーマンス面も完璧に仕上げているため信頼が厚いと話す。

「不安よりワクワク」

コロナ禍ということもありビザ取得など困難は多い。ただ、藤本の挑戦には迷いはない。

「物事を選ぶときに大事にしていることが2つあるんです。1つはこれまで自分が大事にしてきた『人を喜ばす』という方向性、軸が太くなる選択か。もう1つは、自分がワクワクする選択かです。時にはそういう"好き"を大事にする。ミュージカルも、アメフト部も、チアも全部これで選んできました。NFLへの挑戦も、不安よりワクワクの方が大きいです」

これまでも、これからも挑戦を続けていく(撮影・北川直樹)

NFLチアリーダーの先に見据えている夢がある。それは自分が何者かになることや特定の職につくことではなく、どんな形であれ人の夢の実現を手助けすることだという。

「私の挑戦を知っていただいて、1歩を踏み出す勇気みたいなことを感じてもらえたら。また、私の出身地でありチアリーダーとして育ててくれた、(オービックのホームタウンである)千葉県を少しでも盛り上げられたら嬉(うれ)しく思います」

これまで直感と信念を大事に生きてきた。「自分の実力や現状はあまり評価しませんが、可能性は誰よりも信じていると思います」。渡米予定は4月末。夢に向き合うことの素晴らしさを体現するため、決意と自信を胸に海を渡る。

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