明治大・上林豪 転んでも立ち上がり、チームを勝たせるGKに
桜咲く4月、春の訪れとともに花を咲かせたのは、強豪・明治大学のゴールを守る上林豪(2年、セレッソ大阪U-18)だ。2年生ながら相手の決定機を幾度となくシャットアウトし、無失点勝利に大きく貢献している。チームメートからの信頼も厚く、チームに欠かせない存在だ。
1本のシュートにこだわる
上林を正GKとして迎えた第96回関東大学1部リーグ戦(以下、リーグ戦)。シーズン失点20点未満を掲げている明治大学は、第4節終了時点で3試合無失点勝利を収めている。今年度から新しいシステムに挑戦し、徐々に精度が上がっていく守備の中心にいるのは鷲見星河(2年、名古屋グランパスU-18)、岡哲平(3年、FC東京U-18)のCBコンビ。そして最後の砦(とりで)・上林だ。リーグ戦第3節・拓殖大学との一戦では「決定機を3本くらい豪に止めてもらった」(岡)。精度の高いシュートストップで存在感を示している。しかし「試合でいきなりすごいセーブができるわけではないです」。日頃の練習から一つ一つのプレーに対する集中力を意識している上林。その背景には1年時の苦い経験があった。
「何もできなかった」。出場したリーグ戦で2勝1敗した昨年度をこう振り返る。意識が変わるきっかけとなったのは第19節、慶應義塾大学戦。第18節終了時点で明治大学が首位に立ってはいたものの、4校で熾烈(しれつ)な優勝争いが行われていた。次節には2位につけていた法政大学との天王山の戦いも控えており、確実に無失点勝利を収めたい。3-0で試合終了かと思われたが、終了間際に「自分の簡単なミスで失点してしまった」。試合には勝利したものの、次節へいい流れをつくることはできず。それ以降上林がリーグ戦に出場することはなかった。
この経験から得たのは1本のシュートに対するこだわり。キャッチの手の出し方や、手がしっかりとボールにはまっているかといった、プレーの細かい部分を意識するようになった。「当たり前の、自分にできる範囲のことを精いっぱいやることが大事」。常に予測して準備する。いいポジションを取る。そういった積み重ねが現在の活躍につながっているのだ。
プロで活躍するために
近年注目度を上げている大学サッカー。そんな中、プロのクラブが大卒の選手に求めるのは“即戦力”となることだ。「1年目からすぐに活躍できるような体をめざしている」。大学生はプロの選手とは違い、学業にも時間を割く必要がある。限られた時間の中でいかに周りと差をつけられるのか、努力と模索の日々を送っている。セレッソ大阪U-23でJ3の試合にも出場していた上林は、外国人選手の強烈なシュートや、一瞬のスキを見逃さないプロの厳しさを経験してきた。「逆算して何が必要なのかを考え、体づくりや食事管理を行っています」。大学入学前にプロの世界を見てきた上林だからこそできることだ。
セレッソ大阪U-23でともに過ごしたGKの存在も大きい。「茂木秀選手(水戸ホーリーホック)や永石拓海選手(アビスパ福岡)のプレーや練習を間近で見させていただいて、自分は全然だめだなと思っていました」。この経験から自分に何が足りていないのかを知ることができた。Jの舞台で活躍するため、上林のプロ0年目はすでに始まっている。
日頃から自身の思いを発信する場としてSNSを活用している上林。「自分たちだけでは何もできない。支えてくださる方々がいるからこそ明治のサッカー部も活動できている」と常に感謝を忘れない。“プロの養成所ではなく人間形成の場”という明治大学体育会サッカー部にふさわしい人間力も兼ね備えている。
古巣に対しても感謝の念を抱いている。小学5年から高校3年までの8年間、セレッソ大阪のアカデミーに所属してきた。セレッソ大阪には「セレッソ大阪育成サポートクラブ ハナサカクラブ」という個人協賛会が存在している。セレッソ大阪の育成組織のサポートのため、サポーターに支援してもらうことを目的とした組織だ。「サポーターの方のおかげで遠征に行くことができ、貴重な経験ができた。これはセレッソのアカデミーだからこその強みだと思っています」と、サポーターへの思いを語る。
「感謝の思いはピッチで表現するしかない」。夢は「上林豪が全試合に出てセレッソ大阪をJ1リーグ優勝に導く」こと。自分を育ててくれたセレッソ大阪に帰り、セレッソ大阪が今までなし得ていないJ1リーグ優勝を成し遂げる。それが上林の恩返しの形だ。
常に前向きに「つらい時はない」
座右の銘は「七転八起」。失敗しても何度でも起き上がり、奮闘する。まさにこの言葉を体現するサッカー人生を送っている。「サッカーをしていてつらい時はないんですよね。課題が出ても前向きに改善すればいいと思えますし、ネガティブにはなりません」。半年間のケガなど常に挫折続きだったという中高時代を乗り越え、強豪明治のゴールマウスを守る成長を遂げた。
フィールドの最後尾からチームを統べる立場であるGK。「後ろからチームを見ている中で、チームを良くするコーチングや、後ろからボールをつなぐ時の関わりを意識して『チームを勝たせるGK』にこだわっています」。目標とするのは、セレッソ大阪で長年ゴールを守り続ける絶対的守護神、キム・ジンヒョンだ。今年度で在籍14年目を迎え、反射神経を生かしたセービングと精度の高いキックでチームの勝利に貢献し続けている。上林がめざすチームを勝たせるGK像を体現している選手だ。キム・ジンヒョンの人間性も尊敬している。「セレッソのトップのキャンプに参加させていただいた時に、人としてもすごくいい人でした。すべて見習わないといけない選手ですし、目標としている選手です」。技術面でも人間性の面でも向上心を持ち続けている。
2022年は大事な1年となる。3年生の終わりまでにプロ内定をもらうことを一つの大きな目標としている上林にとって、自身のプレーを見てもらうことはとても重要だ。「今年の目標は試合に出続けることと、リーグ戦で失点20未満、最小失点で優勝することです」。憧れの舞台に向け、今できる最大の目標を立て日々練習に励んでいる。
「2年生とかは関係なく、自分がチームを変えていければいいなと思う」。1年時とは違い、スタメンに定着したことで自信もつき、チームへの働きかけもしやすくなっているという。自分の立場や役割を考え、チームに与える影響を考えながらプレーしている。
関西からやってきた桜のつぼみは今、花開き始めた。その花は紫紺を頂点へと導き、満開の夢を咲かせることだろう。