野球

追手門学院大・加藤正樹監督 元甲子園優勝メンバー、今は同い年の背中を追う

就任1シーズン目で1部昇格まで近づいた追手門学院大学の加藤正樹監督(試合の写真はすべて撮影・稲崎航一)

入場無料の閑散とした球場で、56歳の新監督は選手と一緒に笑い、ガッツポーズをしていた。今春、阪神大学野球2部西リーグの追手門学院大学(大阪府茨木市)の監督に就任した加藤正樹さん。初采配となった春の西リーグで1位となった。

粒ぞろいの同学年が集う中、立った頂点

5月28~30日、大阪・南港中央野球場。追手門学院大は、東リーグ1位の大阪電気通信大との「1部入れ替え戦出場決定戦」に臨んだ。1戦目を落とし、後がない2戦目。3-1で接戦をものにして、タイに持ち込んだ。しかし、第3戦は0-11で大敗。春季での1部昇格の望みは絶たれた。

ただ、加藤監督は第2戦の勝利の後、言っていた。「選手がよく頑張ってくれています。こんな言い方はおかしいかもしれませんが(野球が)楽しいです」

加藤監督の経歴は「野球のエリート」そのものだ。

PL学園高校(大阪)時代、1983年夏の第65回全国高校野球選手権大会で優勝。1年生の桑田真澄、清原和博の「KKコンビ」がデビューした大会で、加藤監督は3年生の「3番・センター」として優勝に貢献した。決勝の横浜商業(神奈川)戦では、だめ押しとなる本塁打を放った。

1983年夏の甲子園決勝で本塁打を放った(撮影・朝日新聞社)

この年に高校3年生だった、1965年度生まれの選手たちは粒ぞろいだった。

水野雄仁(巨人)、武田一浩(日本ハムなど)、星野伸之(オリックスなど)、山本昌(中日)、与田剛(中日など)、渡辺久信(西武)、吉井理人(近鉄など)、小宮山悟(ロッテなど)、古田敦也、池山隆寛(ヤクルト)――。

高3の夏、加藤監督はその頂点に立った。

伝説のダブルヘッダー「10.19」に出場

進学先の早稲田大学でも、中心打者として活躍した。持ち味のシャープな打撃で、3年時には日米大学野球選手権のメンバーにも選ばれた。

1987年秋、ドラフト外で近鉄に入団。1年目にプロ初本塁打も放った。最終戦でリーグ優勝を逃し、伝説の試合となったロッテとのダブルヘッダー「10.19」にも出場した。

近鉄バファローズ時代の加藤監督(撮影・朝日新聞社)

95年に現役を引退後は、球団職員になり、広報を務めた。

2004年の球界再編で近鉄が消滅した後は、元監督の梨田昌孝さんのマネジメントなどをした。19~21年は社会人野球のバイタルネット(新潟)の監督を務めた。

縁あって追手門学院大の監督に。大学生を指導するのは初めてだが、息子のような年の選手を相手に、どんな思いで教えているのか。

「野球の技術で上達することも大切だけど、社会に出てから役立つような人間に育ってほしい」

選手たちは、ネット検索で監督の経歴を知った

甲子園優勝、元プロ野球選手など、自身の輝かしい経歴についても、何も語っていない。「そんな昔の話、今の選手は全然知らんでしょう。親御さん世代で、少しはあるかもしらんけど」

もちろん、選手たちも監督の現役時代は知らない。それでも、今どきの学生らしく、ネットで検索して調べたという。

5月29日の試合で完投した市川佳樹(4年、兵庫・川西北陵)は、「監督さんは自分のことは言わないけど、みんな知っていました。『PLで優勝しているんだ』とか『大学日本代表にも選ばれたんだ』とか。すごい人ですよね」。市川によると、加藤監督は「選手に寄り添ってくれる」指導者だという。いつも「楽しめよ」と声をかけてくれる。

マウンドで投手の市川佳樹にアドバイスを送る

野手出身とあって、市川ら投手には配球などの野手心理を説いてくれた。

例えば、カウント2ボールなど打者有利のカウントでは、打者はほぼ必ず振ってくる。だから、そこで真ん中付近から少し球を動かせば、凡打に打ち取れる確率が高い。あえてボール先行のカウントにしてみるのもありだよ……などと。

いずれは小宮山監督率いる早大と

PL学園、早大と、練習も上下関係も厳しい環境で育った加藤監督だが、「追手門学院大は高校時代、実績のあった選手もほとんどいない。選手と友達みたいに楽しくやっていますわ」と笑う。

ただ、こうも言った。「うまくなれば、もっと楽しくなる。勝てばもっと楽しい。その手助けをしてあげたい」

「楽しめよ」という声かけ通り、ベンチの雰囲気は明るい

そのためには、練習で体力を底上げし、技術も伸ばしていきたいと考えている。

早大の小宮山悟監督は同い年だが、2年後輩だ。ともに神宮でプレーした。練習方法や学生との接し方など「LINEでよく教わっている」という。

また、同じ阪神大学野球の1部には、巨人の大勢(翁田大勢)らが輩出した関西国際大も所属する。監督は、くしくもPL学園で1年後輩のセンターだった鈴木英之氏だ。「もちろん、1部に上がって鈴木君と対戦したいと思っていますよ。小宮山ともいつかはね」。加藤監督と学生たちの挑戦は、始まったばかりだ。

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