大宮内定の東洋大・室井彗佑「自分に何が足りないか」、もがき続けた点取り屋の逆襲
「いつもと違う」。関東大学サッカーリーグ戦前期の順位を見て、こんな感想を抱いた人も多いであろう。昨年覇者の流通経済大学は最下位。上位陣の顔ぶれを見ても、1位の明治大学は常連であるものの、東京国際大学や桐蔭横浜大学など新興勢力が目立つ成績となっている。そんな上位3チームに続いて、4位と躍進しているのが東洋大学だ。
昨年は2部2位で、同1位の東京国際大とともに昇格してきた東洋大は、ここまでのリーグ戦でも、過去にリーグ戦15度の優勝を誇る筑波大学や昨年のインカレ覇者である駒澤大学を下すなど、ダークホースとしての力を遺憾なく発揮している。そんな好調のチームで自身の能力を開花させたのが、2023シーズンにJ2大宮アルディージャへの加入が内定し、今シーズンも特別指定選手に認定された室井彗佑(けいすけ、4年、前橋育英)だ。今季の1部リーグ得点ランキングでは6得点で1位タイ。そんな東洋大の点取り屋の、これまでのサッカー人生、そしてその中で培われたサッカー観に着目した。
最も影響を受けた恩師・櫻井さんとの出会い
東京出身の室井は3人兄弟の末っ子だった。2人の兄がサッカーをやっていた影響もあり、6歳頃から兄やその友達とともにボールを蹴り始める。室井が得意とするスピードを生かした裏抜けやDFラインとの駆け引きなどのプレーは、小学生時代に身についたものだという。好きな選手は、興梠慎三(コンサドーレ札幌)や小林悠(川崎フロンターレ)。将来は「彼らのようにJ1、そして海外の舞台でプレーしたい」と目を輝かせる。
中学生時代を過ごした横河武蔵野FCU-15を経て、前橋育英高校(群馬)に進学。2年生で全国高校選手権を制したが、「優勝したうれしさよりも、試合に出られない悔しさの方が大きかった」と振り返る。その後、連覇を目指して挑んだ3年生での選手権は3回戦敗退。さらなる悔しさを味わった。
しかし、高校時代の思い出は苦しいものだけではない。自分のサッカー人生に一番影響を与えた人物との出会いがあった。櫻井勉コーチだ。「あの人がいたから今の自分がある。サッカー面での指導だけでなく、サッカー以外の面、私生活や食習慣などがサッカーにつながる、ということを教えていただいた」と話す室井の顔には、感謝の思いが溢(あふ)れていた。
高校卒業前、前橋育英の山田耕介監督との面談で東洋大を勧められ、練習に参加。ここなら自分のプレースタイルを生かせると確信した室井は、東洋大への進学を決心した。
スタメンになれず、苦しんだ3年間
いざ足を踏み入れた、大学サッカーの世界。1年目に待っていたのは、2部降格という厳しい洗礼だった。室井も当時、チームに負け癖が付いてしまっていることを感じ、「2年目からは俺がチームを1部に上げる」という思いで過ごしていた。
そんな思いを抱きながら迎えた2年目、新型コロナウイルスの影響で試合どころかチームでの練習すらままならない日々が続いた。だが室井は自分の課題を克服する期間と捉え、レベルアップに努めた。「自分に何が足りないか、と考えた時に、強さや体は弱いなと思ったので、中断期間でかなり鍛えた」。この間に養ったフィジカルは今、突破力という室井の武器につながっている。
3年生になった昨年、東洋大は1部昇格、総理大臣杯準優勝と充実した年になった。だが、チームのFWのファーストチョイスは佐々木銀次(4年、青森山田)だったこともあり、室井はリーグ戦全22試合中18試合に出場したが、途中出場が多かった。総理大臣杯では2得点を決めたものの、準決勝と決勝には出場していない。「かなり悔しいシーズンだった」と語る室井。しかし、この3年間で味わった悔しさ、そして積んできた努力は彼を裏切らなかった。
開花した才能、後期リーグやJでも見せられるか
4年生となった今季、室井は11試合の出場で6得点を決め、前述の通り得点ランキング1位タイにつけている。昨年と比べて好調な要因として室井は二つのポイントを挙げる。一つは最上級生としての覚悟、そしてもう一つは練習の前後に行っているシュート練だという。得意な動き出しを伸ばすため、動き出し、そこにパスをしてもらい、シュートを打つ、というものだ。
実際に今季の試合を見ていても、前田泰良(4年、鹿島Y)が動き出している室井にボールを渡し、全力疾走で室井が相手DFを振り切る場面も目立つ。「結構見てくれて、ピッタリのタイミングでパスが来る」と室井も言うように、普段からの反復練習の賜物(たまもの)であり、練習に近い形でパスをくれる相棒の存在も彼の活躍を支えている。
さらに今年の6月下旬、室井は大宮アルディージャへの加入が内定し、特別指定選手に選ばれた。普段から仲のいい高柳郁弥(4年、大宮Y)と同時に選出されたこともあり、「来年も一緒だな」と言葉を交わしたという。加えて、高柳は大宮のユースでプレーいたことから、アルディージャについて教えてもらうこともあるそうだ。「顔見知りの選手がいることでやりやすいところがある」と室井は言い、早いうちにチームになじみ、Jリーグでの活躍を誓う。
7月に行われたアミノバイタルカップでは、1回戦で神奈川県リーグ所属の専修大学に0-3で敗北。「相手の勢いに飲まれた部分もあり、一発勝負の難しさと自分たちの甘さを感じた」と振り返り、目標のリーグ戦優勝やインカレで勝ち進むことへの力の足りなさが露呈した。しかし、これまでのサッカー人生で味わった多くの挫折を大きな力に変えた男は、ここで挫(くじ)けない。「野心が今の自分を作ってきた」と語るストライカーが、後期リーグ戦でも、得点という一番目に見える形で東洋大を優勝に導く。