東海大学・伊藤峻祐主将 大学選手権の反省込め、考えた言葉「ブルーウェイブ」
過去15年でリーグ戦11度の優勝を誇る「関東大学リーグ戦の雄」東海大学。春季大会も昨季の大学王者・帝京大学には敗れて2位だったものの、夏合宿では同志社大学、天理大学、慶應義塾大学を退けるなど好調を維持している。今季、シーゲイルズのスキッパーに選ばれたのがセンター(CTB)伊藤峻祐(4年、桐蔭学園)だ。1年からAチームの試合に出場し、強いボールキャリーとタックルが持ち味で、安定感のある堅実なプレーが光るセンターだ。5連覇がかかる関東リーグ戦、そして初の大学日本一への思いに迫った。
先輩たち、監督、コーチ陣の総意で主将就任
東海大学は昨季も、関東リーグ戦を6勝1分で制して大学選手権に出場した。ノックアウトトーナメントでも着実に勝ち上がり、1月2日に新国立競技場で明治大学と激突。だが序盤、一気に3トライを奪われたことが響き、後半、巻き返しを見せたが24-39で敗戦した。
先発で出場していた伊藤は「自分のプレーが出し切れなかったことが悔しかった。 自分たちの代では、絶対に同じような思いをしたくない……」と唇を噛(か)んだ。
直後の1月中旬、オフに入る前に伊藤は今季の主将を任された。春に卒業した4年生のリーダー陣、監督含めてコーチ陣の総意だったという。「3年時は、春シーズンからずっと試合に出ていたので(キャプテンになる)心の準備はありました」と伊藤は振り返る。
「僕はこれといった強みがない」と自ら分析する伊藤は、キャプテンとして「タックルしてすぐに起き上がったり、キックのチェイスにいったり、コミュニケーションをしっかり取ったりと、誰でもできることを徹底しています。自分からプレーで引っ張り、他の選手についてきてもらえるように」と心がけている。
スローガンは「鎖(チェーン)」
昨季の東海大の4年生は、個々にラグビーセンス、スキルが高く、個性の強い選手が多かった。それ故に伊藤は「最後、まとまりきれなかったのかな……」と感じていた。逆に今季の4年生は仲が良く、まとまりがあり、昨季から自分たちの代で集まって、グラウンド内外で「どういう行動をしたらいいか」と自主的にミーティングを行っていたという。
そこで今季、スローガンを「鎖(チェーン)」と定めた。4年生全員で話し合い、「一人ひとりいろんな思いを持って、東海大に来てラグビーをしている中で、その思いを一つまとまりにして、チーム全体も選手、スタッフ含め一つのチェーンになって日本一を目指そう」という思いを込めた。
またラグビー面においても、自主性を大事にしつつ、「ディフェンスを主体としたチームにしたい」「攻める東海大を作りたい 」ということで、そのための一つのキーワードとして、4年生のリーダー陣で「ブルーウェイブ」という言葉を考えた。
昨季から激しく前に出るディフェンスを採用しており、大学選手権準決勝の反省を踏まえて、「耐えるだけでなく、ディフェンスでも攻めたい」という話が出てきた。「ディフェンスでも自分たちから仕掛けて、相手をのみ込みたい。アタックも含めて『ブルーウェイブ』という言葉を(キーワードとして)使っています」
セットプレーだけでなく、展開ラグビーにも注力
また東海大の強みの一つにスクラム、ラインアウトモールとFWの強力なセットプレーがあるが、今季はボールをしっかり展開してトライを取りきることにも注力している。「近年、どうしてもセットプレーに頼り切ってしまっている。レフェリーのジャッジによっても、変わったり崩れたりする場合もあるので、今季はFW、BK一体となってボールを動かして攻めるラグビーも心がけています」と話す。春季大会で帝京大学にこそ敗れたものの、早稲田大学、明治大学、天理大学など強豪には勝利しており、ある程度、順調に強化は進んでいると言っていいだろう。
尊敬しているキャプテンを聞くと「やるからにはとことんやる。一本芯が通っていた」と、昨季の主将だったフランカー(FL)ジョーンズリチャード剛(静岡ブルーレヴズ)の名を挙げた。伊藤は神奈川県茅ヶ崎市出身。4歳上の兄(康祐、東海大学出身)の影響もあり、5歳の頃から藤沢ラグビースクールで競技を始めた。中学時代は神奈川県選抜に選ばれ、全国ジュニア選手権で準優勝を経験した。
高校の進学先は、神奈川の桐蔭学園を選んだ。兄は東海大相模の主将として「花園」こと全国高校ラグビー大会に出場していたが、同じ道には進まなかった。「ラグビーを一番に考えた。強豪校に挑戦してみたかった」。高校3年時はCTBだけでなくFLとしてもプレーし、春の選抜で日本一、花園での準優勝に貢献した。
大学は兄と同じ東海大学体育学部に選んだ。「将来、(社会人で)ラグビーをしないで就職する道と、大学卒業後もラグビーを貫き通すか、という二つの道があった。自分の中では大学を卒業してもラグビーをしたい、リーグワンでもプレーしたいという思いがあった。だから一つにラグビーの強い大学に行きたいという気持ちがあり、それ以外にも栄養のことやラグビーに生かせるものが学びたかった。兄が進学していたので親しみもありましたね」
下でもまれた4年生と、若くてタレント性豊かなBK陣
その思いは現実となり、伊藤は来季からリーグワン・ディビジョン1のチームに内定している。また「ラグビーはそれほど競技人生が長いわけではないので、やり切った後のセカンドキャリアとして一つの道かな」と考え、中学高校の体育の教員免許も取得中。5~6月にかけては、母校に教育実習に赴いた。
昨季は大半が4年生だったこともあり、今季は最上級生になって初めて出場している選手も多い。特に、春からトライを量産している副将のナンバーエイト・井島彰英はその代表格だ。伊藤は「特に今季レベルが下がったとは感じていません。昨季の4年生が強くて、僕たちの代はなかなか公式戦に出られなかった。でも決して弱いわけじゃなく、 下(のチームで)でもまれて頑張ってきた選手が出てきている」と自信をのぞかせた。
またBKは、若くてタレント性も豊かな選手が揃(そろ)う。特に3年生のスタンドオフ(SO)武藤ゆらぎ、フルバック(FB)谷口宜顕(ともに東海大大阪仰星)の2人がBK陣を引っ張る。「ゆらぎや宜顕の2人に関しては1年時からずっと出ているので、非常に信頼しています」(伊藤)
好きな言葉は「すべて自分次第」
負けたくない選手を聞くと「特に意識している選手はいないですが、やっぱり後輩には負けたくないですね!」と語気を強めた。例えば早稲田大学には、桐蔭学園の後輩にあたるSO伊藤大祐(3年)、フッカー(HO)佐藤健次(2年)らがおり、明治大学の司令塔SO伊藤耕太郎(3年)はスクールの後輩、帝京大学のFL青木惠斗(2年)は高校、スクールの後輩にあたる。
伊藤の好きな言葉は「すべて自分次第」である。「自分の成長につなげるのも、さぼってしまい成長を止めるのもすべて自分次第です」
東海大学は9月11日の開幕戦で29シーズンぶりに昇格した東洋大学と相まみえる。ラグビーに真摯(しんし)に向き合い、常に一歩ずつしてきた伊藤が、堅実かつ安定感あるプレーでチームを引っ張り、関東リーグ戦の5連覇だけでなく、大学選手権で東海大を初の日本一へ導くことができるか。