ラグビー

東海大学・武藤ゆらぎ 初の大学王者へ、カギを握る「宇宙」由来の司令塔

「関東大学オールスターゲーム」で10番を任された(すべて撮影・斉藤健仁)

7月3日、東京・秩父宮ラグビー場で、3年ぶりに関東大学オールスターゲームが行われた。メインとなったリーグ戦選抜―対抗戦選抜は、対抗戦選抜が42-38で逆転勝利を収めた。最後まで果敢に攻める姿勢を貫いたリーグ戦選抜の10番を背負い、トライも挙げたのが東海大学のSO(スタンドオフ)武藤ゆらぎ(3年、東海大大阪仰星)だ。

旧知の選手が集まったオールスター

東海大でも1年から存在感を発揮している攻撃的な司令塔で、端正な顔立ちからファンも多い選手。3年生の武藤にとって初めてのオールスターは「特別な試合」となった。

横浜ラグビースクール出身の武藤は、「小学校時代に岩手の(北上ラグビー)スクールで交流していて仲が良かったSH(スクラムハーフ)前川李蘭(日本大3年、目黒学院)と、初めてハーフ団を組んで、試合ができて楽しかった!」と声を弾ませた。

他にもリーグ戦選抜には中学校時代、神奈川県選抜で一緒だったSO津田貫太(中央大4年、桐蔭学園)がおり、相手の対抗戦選抜には同じスクール出身のHO(フッカー)佐藤健次(早稲田大2年、桐蔭学園)、神奈川のスクール時代に対戦したSO伊藤耕太郎(明治大3年、國學院栃木)、FL(フランカー)青木恵斗(帝京大2年、桐蔭学園)ら、旧知の選手もいた。「オールスターという機会があってよかった。開催されてうれしかった!」

オールスターでは、小学校時代から仲がいい前川李蘭(中央)とハーフ団を形成した

ただ大学1年時は、大学選手権の準々決勝で帝京大学に、昨季は準決勝で明治大学に負けていたため、武藤は「対抗戦に対するライバル意識はあったので、勝ちたかったですね……」と悔しさをにじませた。またPOM(プレイヤー・オブ・ザ・マッチ)に輝いた帝京大のSO高本幹也(4年、大阪桐蔭)に対しても「(スタンドオフの)ライバル。負けたくない」と対抗心を露わにした。

今につながっている「タグラグビーの経験」

小学2年生から競技を始めた武藤は、高校時代からパス、ラン、キックとスキルに長(た)け、相手の隙を確実に突くセンスにあふれる選手だった。スペースを見る力、スキルは「たぶん、タグラグビーの経験が活(い)きている」と話す。

小学6年生のとき、横浜ラグビースクールの仲のいい選手たちで「横浜スーパースターズ」というチームを作った。武藤は主将として、1000チーム以上が出場したタグラグビーの全国大会「サントリーカップ」で優勝。監督は早稲田大学のハンドボール部出身で体育教諭を務めていた父・誠さんで、独学で指導し、親子鷹で全国の頂点に立った。

当時のチームメートは東海大同期のHO 安藤良太(3年、東海大相模)、立命館大学SH北村瞬太郎(3年、國學院栃木)、筑波大学HO平石颯(3年、桐蔭学園)、山梨学院大学CTB(センター)冨川晃大(3年、東海大相模)と各大学で活躍している。なお、仲がよくプライベートでも遊ぶという明治大の池戸将太郎(3年、東海大相模)がいた「七国スピリッツ」に準決勝で勝利している。

オールスターは他の大学に進んだ旧知のメンバーとプレーする貴重な機会にもなった

中学でも神奈川県選抜の一員として活躍した武藤は、高校進学で悩んだ。SO伊藤大祐(現・早稲田大3年)が桐蔭学園に、SO池戸が東海大相模と、それぞれ地元・神奈川の強豪に進学することになっていた。さらに東海大仰星時代、花園で2度の優勝を経験した東海大相模の土井崇校長から、「(東海大)相模に行くなら(東海大大阪)仰星に行った方がいい」という後押しもあり、親元を離れて東海大大阪仰星に進学を決めた。

仰星で学んだ「理論に基づいたラグビー」

高校3年時、中心選手として出場した花園では、準々決勝で御所実(奈良)に0-14で敗れた。それでも武藤は「中学時代までとは違って、湯浅大智監督から理論に基づいたラグビーをしっかり勉強した3年間でした。高校時代からなかったら、今の自分はないと思います」と語気を強めた。

「付属校の仰星にいたこと、そして日本代表、リーグワンを目指したかったので、それに近づける大学に行きたい」と東海大に進学した。すぐに、木村季由監督にその能力の高さを認められ、1年時から10番を付けて試合に出場。「選択としては良かったです!」と振り返る。

東海大大阪仰星でも主力として活躍し、8強まで進んだ

対抗戦のチームに勝つには?

関東リーグ戦で11度の優勝を誇る東海大。最近は4年連続で制している。今季の春季大会でも、昨季王者の帝京大にこそ負けたが、早稲田大、明治大に勝ち、2位となった。攻撃面において武藤は「FWの留学生はフィジカルが強く、前に出ることができているし、BK(バックス)にも足の速い選手がいて、例年に比べていいアタックができている」と自信をのぞかせた。

またディフェンス面では「(最終戦の)帝京大戦は、それまでディフェンスで勝つとやっていたが、反則を重ねてしまい、トライを取られて、ディフェンスが下がってしまい、粘れなかったのが(負けた)要因。ただ春季大会を振り返ると、さほど差はないのでいけると思います」と冷静に分析した。

3度の準優勝を含め、大学選手権では対抗戦のチームになかなか勝つことができていない。どうしたら、大舞台で対抗戦の強豪に勝てるのか。武藤に尋ねると「詰めの甘さだと思います。対抗戦のチームと比べるとミスが目立ち、経験がないので勝ちきれない。ただ春は対抗戦のチームに結構、勝てたので自信を持ってやればいい」と先を見据えた。

対抗戦のチームに勝って自信を深めた春を秋につなげる

スローガン「鎖(チェーン)」の意味

東海大の良いところを聞くと、武藤は「留学生や学年に関係なく、みんな仲の良いところ」。今季のスローガンは「鎖(チェーン)」となった。武藤は「どんな苦しい状況でも明るさとつながりで優勝を目指していきたい」

「ゆらぎ」という名前は「宇宙の始まり」や未知の星を意味する言葉で、「初めての人、一番になってほしい」という願いが込められているという。武藤が「シーゲイルズ」こと東海大ラグビー部で一番輝く星となり、初の大学王者に導くことができるか。

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