野球

特集:2022年 大学球界のドラフト候補たち

大阪観光大・久保修 高校限りも考えた競技人生、プロ注目に成長した指導者との出会い

大学では1人の指導者との出会いが、久保の人生を変えた(大阪観光大の写真はすべて撮影・沢井史)

大阪観光大学・久保修(4年、石見智翠館)が放った鋭い打球は、右翼前に落ちた。奈良学園大学との3回戦。1点ビハインドで迎えた一回裏、1番の久保が出塁すると、続く2、3番打者にも安打が生まれ、2点を奪って逆転した。その後は五回、八回と四球。秋は警戒され、特にチャンスでは勝負を避けられがちな場面が増えた。

特集「2022年 大学球界のドラフト候補たち」

高校の監督から勧められ、大学でも続けた

久保の名前は昨秋頃から徐々に広まった。昨秋は近畿学生リーグの2部で、リーグ2位の打率4割4分4厘。50m5秒9という快足を生かし、9盗塁もマークした。1部に昇格した今春のリーグ戦では、11試合で3割4分9厘の打率を残し、スポーツ紙などで久保の名前が取り上げられるようになると、プロのスカウトからも注目を浴びるようになった。

秋は警戒され、特にチャンスでは勝負を避けられがちな場面が増えた

高校は出身の大阪を離れて、島根に進んだ。入学時は内野手だったが、1年の秋、外野手に転向した。肩が強く、足も速いという最大の持ち味を生かすためだったが、特に目立った成績を残せたわけではなかった。「野球は高校まででいいかな」と一区切りをつけることも考えていたという。だが、末光章朗監督からは大学で野球を続けることを勧められた。

高校3年の夏の島根大会で本塁打を放った(撮影・朝日新聞社)

伊勢孝夫氏の指導で、つけた自信

地元の大阪府河内長野市から近い大阪観光大に進んだ。野球に関しては無名に近い大学だったが、当時の大阪観光大の監督と末光監督の縁があり、大学でも野球を続けることを決めた。

何より、大学では1人の指導者との出会いが、久保の人生を変えた。ヤクルトスワローズや近鉄バファローズでプレーし、両球団や広島東洋カープで打撃コーチを務めた伊勢孝夫氏が、特別アドバイザーとして打撃指導を行っているのだ。

「伊勢さんから今まで教わったことのない指導を受けて、『自分もやっていけるのではないか』と思えるようになったんです。スイングの軌道や体の使い方を変えていくと、打球がかなり飛ぶようになりました」

伊勢孝夫氏から指導を受け、自信をつけた

けがの影響もあり「状態は80%ぐらい」

今年は度重なるけがに悩まされた。春のリーグ戦終盤に、右のハムストリングを痛めた。6月末には、関西の大学5連盟の選抜選手がトーナメントを戦う「大学野球関西オールスター5リーグ対抗戦」が行われた。久保は近畿学生リーグ代表で選出されたが、スターティングメンバーに名を連ねることはなかった。試合前にキャッチボールしただけで、試合中はベンチから選手たちを見守った。「5リーグ対抗戦」では、久保の姿を追うプロのスカウトが、スタンドに多く駆けつけていたが、久保が出場しないことを知り、肩を落とすスカウトも少なくなかった。

「自分としてもアピールする絶好の機会だったのに、無理はできないということで試合には出られなくて……。それだけに7月はしっかり体をケアして、8月のオープン戦ではフル出場していかなければと思いました」

ところが、8月中旬のオープン戦前のシートノックで右足首を捻挫。まさかの事態に「焦りはありましたが、リーグ戦に向けて何とか調整していくしかなかった」と必死に前を向きながら、リーグ戦を戦っている。

この秋はとにかく1球、1打席を大事にしながら打席に立っている。

「春は厳しいボールを当てにいくようなバッティングをしていましたが、追い込まれてもコースや球種などを冷静に考えて、バットを振れるようになりました。そこは成長できている部分なのかなと思います」

1球、1打席を大事にしながら打席に立つ

右足首の様子を見ながらのプレーは続く。状態は「80%くらい」と本人は苦笑いを浮かべるが、同じようなことはもう繰り返せない。試合後のケアも人一倍気を使いながら、リーグ戦の完走を目指す。もちろん、チームの勝利を最優先として。

「高校で野球人生を終えようとした自身が、プロを目指すほどの選手になるとは想像もしていなかった」。久保は以前、こう口にしていたことがあった。大学で野球を続けることを決め、様々な巡り合わせを経て、いまでは多くの注目を浴びる選手になった。プロ志望届も提出。久保の存在と活躍が、今、大学で野球を続けようか迷っている高校生の希望になっていることは間違いない。この秋は足元もしっかり見つめながら、有終の美を飾るつもりでいる。

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