京産大の北山亘基、指名漏れをバネに関西六大学で一回り成長
京都産業大学のエース北山亘基(こうき、4年、京都成章)が関西六大学野球の春季リーグで最優秀投手に輝いた。リーグでダントツの59回3分の1を投げ、69三振を奪った。4勝3敗。昨年までの3年間で8勝だった右腕はこの春、着実に積み上げたものがあった。
京都成章で夏の甲子園へ
京都成章高では3年生の夏に第99回全国高校野球選手権(2017年)に出場した。当時の最速は142km/hだが、そのストレートはスピード以上に伸びがあり、冷静なマウンドさばきも北山のアピールポイントだった。甲子園では初戦、神村学園(鹿児島)にサヨナラ負け。大舞台を踏んだ自信とともに秋にはプロ野球志望届を提出した。ドラフト会議で指名されることはなかったが、「当時の自分はプロに行くにはまだ力不足でした」と冷静に振り返り、京産大へ進むことになった。
大学野球にかける
指名がなかった後、高校卒業までは体作りに徹した。それくらい、北山の大学野球にかける思いは強かった。結果を残して再びプロへ挑戦することは最終目標ではあったが、必要なものは経験と実績だ。そのための土台作りは入学前から時間をかけ、準備をしてきた。本人の思惑通り、1年生の春と秋は、主に救援のマウンドに立つことができた。
上級生になった昨年、コロナ禍の全体練習自粛期間は約3カ月に及んだ。3月末のオープン戦以降、野球部の活動はほとんどできなくなり、実戦練習が再開されたのは8月末だった。各自で練習を行う中、北山は動画サイトを見ながら体作りを日課にした。
「自分は元々足首が硬い方で、足裏、足首などのストレッチに興味を持っていたんです。そうしたら、動画サイトでダンサーの西園美彌さんが監修する“魔女トレ”という足首の神経伝達系のトレーニングがあったんです。その中で正しい体の使い方を勉強して、自分に合うコンディショニング法も試しました」
ボールを使えなくても、出来る範囲の練習法を見つけて試す。体作りの細部にこだわり、ラストイヤーへの準備に時間をかけた。
主将に指名されたエース
練習に対してのひたむきさや実直な性格を見た勝村法彦監督は、最終学年を前に北山を主将に任命した。01年秋に監督に就任して、エースを主将に指名したのは初めてだった。
北山は開幕戦の大阪学院大学、続く大阪経済大学と2戦連続で完封勝利を挙げた。2試合完投負けの後、敗れた龍谷大学にリベンジの白星を飾る。神戸学院大学戦では15奪三振2失点完投と結局、4勝をマークした。そして今春最後の登板は、既にリーグ優勝を決めていた大阪商業大学(5月18日)との対戦。プロ野球9球団のスカウトが見守る中、マウンドへ上った。
試合前から降りしきる雨に左右された。相手も同じ条件だったとはいえ、思った以上にマウンドはぬかるみ、北山を苦しめた。制球力が自慢の右腕は、二回に打球が左足くるぶし付近に直撃するアクシデントもあった。安打と四球で満塁のピンチから2点を失った。それでも五回までに7三振を奪い。ストレートは150km/hをマーク。「相手は自分のカウント球で振らないと徹底していて、研究されているなと思いました。浮いた球や追い込んだ球をしっかり見切られていて、いいチームだなと思いました」
そんな中、特にギアを上げたのは同学年で今秋ドラフト候補と言われている4番の福元悠真(智辯学園)との対決だった。
「福元君は良い打者だと分かっていたけれど、僕がかわすピッチングになってしまっていました。相手のスイングをさせないようにと注意はしていたのですが……。もっと自分のボールに自信を持って投げられれば良かったです」
1打席目では146km/hのストレートを左前にはじき返され2安打を許した。結局七回途中に7安打3失点でマウンドを降りることになったが、北山は大一番のマウンドを冷静に見つめていた。
「(コロナ禍が続き練習環境や試合までの調整など)今年はこういう状況だったからどうのこうのとは思っていないですし、自分のこの内容はもっと詰めていくべき課題が多いとは思っています。ピンチでも踏ん張れるようにならないと自分の目指しているピッチャーにはなれない。まだまだ甘い部分はたくさんあるので、妥協することなく今後に生かしていきたいです。総合的な部分から勝負強くなるために日ごろの過ごし方なども良くしていきたいと思います」
リーグ戦開幕前、勝村監督からは「もっと勝っていてもおかしくない」と言われていた。リーグを、いや関西の学生を代表する右腕は、最後に苦い思いを残して春のリーグ戦を終えた。
「まだまだ物足りない」
「個人的には良かった部分もあったけれど、優勝するにはまだまだ物足りないということだと思います。去年までは投げるだけだったけれど、今年はキャプテンもやらせてもらって、マウンドで安定感が出るようになり、精神的にプラスになったことはたくさんありました。ただ、秋につなげる意味でも、これからの時間はレベルアップしないといけない部分はたくさんあるので、成長した姿で秋のマウンドに立てるようにしたいです」
念願のリーグ優勝は達成できなかったが、エースとしてマウンドに立ち続けたこの春は、北山に確かな自信とステップアップのための課題が与えてくれた。立ち止まっている時間はない。その目線は約3か月後に開幕するラストシーズンへ、すでに向けられていた。