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特集:2020年 大学球界のドラフト候補たち

天理大・森浦大輔 物静かな左腕エースがドラフト前の最後のリーグ戦で猛アピール

森浦は物静かな性格の持ち主で、藤原忠理監督は「ポーカーフェイス」と表現した(撮影・すべて小中翔太)

ひょうひょうとした性格の持ち主で、マウンド上でもポーカーフェイス。ピンチを三振で切り抜けても、手痛い一打を浴びてもほとんど表情は変わらない。そんな物静かな左腕だが、内に秘める炎はメラメラと燃え上がらせていた。

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3年生の秋までの通算防御率は1点台

下級生のころからリーグ戦のマウンドに立っている天理大学の森浦大輔(4年、天理)が大学最後のリーグ戦で猛アピールを続けている。「(春季リーグ戦が中止になり)アピールする場所がなくなったんで、秋しかなかったんで、しっかり準備して秋やりたいなと思っていました」

まずは9月21日、阪神大学野球開幕戦の追手門学院大学戦で6回3安打7奪三振1失点、チームを11-1の6回コールド勝ちに導いた。26日の甲南大学戦は1安打10奪三振で自身4度目の完封勝利、10月3日の大阪体育大学戦は7回コールドの参考記録ながらノーヒットノーランを達成。6戦全勝同士でぶつかった12日の関西国際大学戦は打線の援護に恵まれず敗戦投手となったが、12個の三振を奪い9回をひとりで投げ抜いた。3年生の秋までの通算防御率が1点台という好左腕は、さらにすごみを増している。

今は亡き高校の恩師・橋本武徳監督の言葉を胸に

和歌山県出身の森浦は中学時代に遠征で投げた試合を天理高校のスタッフが視察していたことがきっかけで、奈良の強豪校へ進学した。当時指揮を執っていたのは、10月9日に亡くなった橋本武徳監督。夏の甲子園で2度の頂点に立った名将からもらったアドバイスを、森浦は今でもはっきり覚えている。

「橋本監督からは『失敗しても成功してもどっちでもいいから思い切って投げろ』ということをずっと言われていました。思い切りの良さが磨かれたかなと思います。大学に行きたいと言った時には、『上のレベルでもしっかり練習して思い切りやってきなさい』と言われました」

天理高校の橋本前監督の訃報を受け、「全力でプレーしよう」とマウンドに上がった

森浦が野球人生のターニングポイントに挙げたのは、上のレベルでやりたいと大学に入ったことだった。高校時代も評判の好投手だったが、大学でスケールも安定感も増し、最速は148kmにまで伸びた。しかも初速と終速の差が少なく、140km前後のストレートであっても打者は押し込まれたファールを打たされ、カウントを悪くする。追い込まれてしまえば、ストレートと同じような腕の振りから繰り出すチェンジアップにバットが止まらない。高い奪三振率の陰に隠れてはいるが、今秋は4試合31イニングを投げて与えた四死球はわずか5個だけと制球力も抜群。肩、肘含め大きな故障歴がないことも大きな特徴だ。

今秋好調の要因は、遠投を多めに取り入れた調整がうまくいったからだと自己分析している。また、遠投によって指のかかりが良くなり「高めにいったら打たれると思うので、必死に指にかけて低めに集めています」と低めの制球力も増した。全球正確にチェックしたわけではないが、森浦の投球は5球投げれば4球は必ず低めに決まっている印象だ。

ストレートにはキレがあり、最速148kmと大台に迫る

1年生の時から起用している藤原忠理監督は、「性格は良く言えばポーカーフェイスで、悪く言えばもうちょっと覇気出せよ、というところはあるんですけど。今シーズン、チェンジアップが良くなってきたのでそれを生かすようになったと思います。しっかりゲームを作れる。特段150kmの球があるわけでもない中で試合作れるところは、彼が勝ち得たところ、うまく成長したところかなと思います」と成長を認めていた。

緊張で迎える運命の日に吉報を待つ

グローブには星マークの刺繍があるだけで、座右の銘などの文字はない。試合前日の験担ぎやルーティーンもとくにない。性格通り、自然体で試合に臨む。普段も緊張することは滅多にないそうだが、いよいよ2週間を切ったドラフトについてはすでに、「めちゃめちゃ緊張しています」とさすがにこの日だけは特別なようだ。

ドラフト前、最後の試合への意気込みと目指す投手像をたずねると、「ラスト1試合しっかりいいアピールができるよう全力で投げたいなと思います。全部の球種使ってアウトを1個1個丁寧に取っていくところを見てもらいたい。必死にアウトを1個1個取るピッチャーになりたいです。その積み重ねで長いイニングを投げられたらいいなと思います」と答えていた。

最終節を残して今秋は4試合で40奪三振、防御率0.58と圧巻の投球を披露している

天理大学からは昨年、石原貴規が広島東洋カープからドラフト5位指名を受けた。森浦は一足先にプロの世界に進んだ先輩の話を聞いて、「すごいバッターしかいない、レベルが全然違う、と言っていたので対戦したいと思いました」と心を躍らせる。

高いレベルでやりたい、という気持ちが原動力となって大学4年間で確かな成長曲線を描いた。身長175cm、体重71kg。野球選手としては小柄な部類に入るが、勝負できるだけの球と術は十分持ち合わせている。10月26日の夕方、極限の緊張から解放されポーカーフェイスを崩したくしゃくしゃの笑顔が見られるはずだ。

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