立命館・榮枝裕貴 名捕手・古田敦也先輩を追い、「プロ野球の中でも1番」を
関西学生野球秋季リーグ戦 第4節
9月26、27日@ほっともっとフィールド神戸
第1試合 立命館大学 5-1 関西大学
第3試合 立命館大学 2-5 関西大学
背番号27。立命館大学の正捕手は代々、この数字のユニフォームを身にまとい戦ってきた。イメージされるのはもちろん、卒業生の古田敦也さん(元・ヤクルト)だ。今年の立命館大のスタメンマスクは、攻守に優れた総合力の高い好捕手、榮枝(さかえだ)裕貴(4年、高知)がかぶっている。
大学ジャパン候補の好捕手
榮枝の3年秋までのリーグ戦出場は代打が中心で33試合。1学年上の同じポジションにキャプテンを務めていた大本拓海(現・ヤマハ)がいたため、出場機会はドラフト候補の野手としてはかなり少ない。それでも昨秋、侍ジャパン大学日本代表候補に選ばれ、選考合宿に参加した。2塁送球1.8秒台の強肩とシャープなスイングが売り。1カ月後に迫ったドラフトでは、上位指名が有力視されている。
しかし意外にもプロを意識し始めたのは最近だと言う。「全日本のキャッチャーと比べるんじゃなくて、プロのキャッチャーと比べていたので。全日本の中ではそんなに負ける気はしなかったですけど、プロと比べたらどうなんって感じでした」
自己を過大評価することなく謙虚で冷静。打席でも「5番バッターなんですけど長打が打てると思っていなくて、つないでいこうと思っています。自分のスイングをしっかりして大振りにならないように意識しています」と役割に徹する。この冷静さと小学校低学年からという長い捕手歴でチームの勝利に貢献したのが、 9月26日にあった第4節の関西大学戦だ。
好リードで粘りのピッチングを引き出し、昨秋王者に先勝
昨秋王者との一戦は4戦全勝同士で迎えた直接対決。1戦目の先発マウンドにはもちろん、立命館のエース・有村大誠(4年、秀岳館)が上がった。有村は最速151kmのプロ注目右腕だが、この日の調子は今ひとつ。その状況で女房役の榮枝は粘りのピッチングを引き出した。
「関大の試合は事前に見たんですけど、バッターによって打てないコースはあるんで。それと、有村が何の球がキレていて何の球が甘く入るのか。ブルペンで受けた時に頭にインプットして、左の内のカットボールやスライダーがよかったので、それを軸に最初投球していました。逆にまっすぐが高く浮いて捉えられるシーンがあったので、最初はまっすぐを見せ球にしようと配球していました。相手が打てないところ攻めれば、今日みたいに内ばっかり攻めれば相手も必然的に狙ってくるじゃないですか。そこで逆に外にまっすぐとか、両方使い分けるバランスは大事だと思います」
榮枝の好リードにより、有村は9安打を浴びながらも7回1失点。先発として試合を作り、優勝の行方を大きく左右する試合をものにした。
実戦向きの堅実なプレーでチームを引き締める
大一番は制したものの、翌27日の2回戦は前半で背負ったビハインドを跳ね返せず、今季初黒星を喫した。この敗戦により第4節終了時の成績は近畿大学、立命館大学、関西大学が5勝1敗で並ぶ混戦となった。今季は従来の勝ち点制ではなく、2試合総当たりの勝率制のため、1敗の重みが例年以上に大きい。今年の立命館投手陣は1戦目に有村が先発し、2戦目は短いイニングで次々と投手を繰り出すという、プルペンデーのような小刻みな継投でつないでいる。優勝のためにはもうひとつも負けられない戦いが続く中で、捕手の榮枝が背負う役割は重大だ。
榮枝のスタイルは派手なプレーで魅了するというよりは非常に実戦向き。2塁送球はストップウォッチと勝負するのではなく、走者のスタートによって正確さを求めるのか速さを求めるのかを瞬時に判断する。内野ゴロ時の1塁ベースカバーも怠らない。
打撃では下級生のころ、左脇が開いてしまう癖があったため、脇を締めて上から叩くイメージを徹底。ティー打撃では低めはもちろん、高めのまっすぐでも叩けるようスイング軌道を意識した。こういう選手が扇の要を務めるとチームは自然と引き締まる。
大学最後のリーグ戦の目標は、最低でも打率3割以上を打ち、捕手のベストナインに選ばれること。そして将来的には「打って守れて、安定感のあるキャッチャーになりたい。プロ野球に入るならば、プロでキャッチャーと言えば誰、となった時に僕の名前が挙がるような、プロ野球の中でも1番を目指したいです」
あこがれの選手に挙げたのは古田。球史に残る名捕手の背中を追う。