野球

連載:4years.のつづき

引退時に言われた、應武篤良さんの教え「活躍は、これからだぞ」 斎藤佑樹・4

現役の学生アスリートに向けたメッセージももらった(撮影・浅野有美)

大学生アスリートは4年間でさまざまな経験をする。競技に強く打ち込み、深くのめり込むほど、得られるものも多いだろう。大学時代を経て活躍した先輩たちは、4年間でどんな経験をして、社会でどう生かしているのか。「4years.のつづき」を聞いてみよう。今回は、早稲田大学野球部で最後は主将を務め、北海道日本ハムファイターズで11年間プレーし、2021年シーズン限りで現役を引退した斎藤佑樹さん(34)です。最終4回目は今年9月に亡くなった当時の應武篤良監督への思いと、現役の学生アスリートに向けたメッセージです。

早稲田大で一番印象に残っている試合は? 「2個あるんですけど……」斎藤佑樹・3

「新庄ビッグボス」のようなアイデアマン

斎藤さんは應武元監督のことを「色々なアイデアを持っていて、今の新庄ビッグボス(現・北海道日本ハムファイターズ監督)のように、ファンを楽しませることをすごく考えている方でした」と振り返る。それが「本気なのか、冗談なのか分からなかった」というのが、1年春のときに斎藤さんの開幕投手をにおわせた時期だった。

練習は、特に走り込みが厳しかった。どれぐらい走ったのかも「分からないです」。スパイクを履き、50mダッシュを90~150本ほど走った後、終わりかと思いきや、レフトとライトのポール間走を20本走った。「もう走ってるのか、歩いてるのか、僕らは分からないぐらいの感覚でした。ヘロヘロで」。走り込みの後、ブルペンで投げ込むこともあった。

苦しい練習の日々でも、應武監督は「色んな手を使って、練習させようとしてくれていた」と振り返る。ミーティングのとき、「みんながオッサンになって、飲み会をするときに『あの練習きつかったよな』って言って、それが酒の肴(さかな)になればいいんだ」と言われた。当時はピンと来なかったが、いま仲間と集まったときは、本当に話題に上るという。

應武監督(左から2番目)が指示する走り込みのメニューは厳しかった(撮影・朝日新聞社)

しんどいと思うときも、あの練習に比べたら

この練習は無駄なんじゃないか――。斎藤さんは、そう直感することもあった。應武さんは、それも見透かしていた。「斎藤、これは無駄な練習かもしれない。たぶん無駄だと思う。けど、この無駄な練習を今やっておくことで、この先の斎藤の野球人生において、絶対にプラスになるし、この時間は無駄じゃないから。歯を食いしばって頑張れ」。プロ入り後、そして引退後の現在、斎藤さんを支えているのは当時の経験だ。「プロでなかなか結果が出せず、体力的にも苦しい場面がたくさんあったんですけど、あのときの早稲田の練習に比べれば、全然たいしたことがないと思いましたし、今でもそう思っています」

引退後は野球漬けの日々を離れ、「ちょっとしんどいな、つらいなと思っても、あのときに比べれば、何でもないでしょうと思えるんです」。あのとき苦しい練習に食らいついた経験は、野球だけでなく、その後の人生においても役に立っている。

プロの世界で11年間戦い、昨秋、札幌ドームで現役最終登板を果たした(撮影・朝日新聞社)
引退セレモニーはチームメートが背番号「1」のシャツを着て行われた(撮影・朝日新聞社)

應武さんは今年9月、64歳の若さで亡くなった。斎藤さんは昨年、應武さんに「なかなか活躍できず、監督、引退します」と伝えた際、こう言われたという。「そうか、お疲れ様。でも斎藤が活躍するのは、これからだぞ。お前がジジイになったとき、同世代で一番野球界に貢献していれば、それでいいんだ」

手を抜かないで良かったと思える日が来る

プロ野球を引退後は、朝日新聞社と朝日放送テレビが共同で運営する「バーチャル高校野球」のフィールドディレクターに就任し、野球界の未来につながるヒントを求め、全国の野球の現場を訪ね歩いている。自らの発信方法も模索し、カメラへの関心が高い。取材のときは、撮影している編集部員のレンズに、興味津々だった。

最後に、現役アスリート、特に大学4年間で競技生活にピリオドを打つ予定の選手たちに向けたメッセージをお願いし、大学部活動での経験が、社会に出た後、どのような形で生きる可能性があるのか、尋ねた。

高校野球の現場を尋ねる仕事でカメラを構える斎藤佑樹さん(撮影・新井義顕)

「4年間、短いようで長いので、競技と向き合って、仲間と切磋琢磨(せっさたくま)して、それは社会に出てからも経験として大きいことだと思います。4年生の秋から冬にかけて、最後は有終の美で終われるように、結果だけじゃなくて、自分が本当にやりきったと思えるように。最後まで全力で駆け抜けてほしいと思います」

「社会に出たとき、どんな役に立つかは、人それぞれの価値観ですが、確実に『あのとき、手を抜かないで最後までやり切って良かった』と思える日が、絶対に来るんで。僕にとっては楽しい4年間だったし、皆さんにもそれを経験してほしいと思います」

学生アスリート共通に言える「持ってるのは仲間」

斎藤さん自身、引退した後のこの1年間は、仲間のありがたさを感じている。「早稲田の仲間たちからオファーをいただくこともあります。それは4年間、続けてきたからこそです」

インタビューでこの言葉を聞いたとき、2021年10月の引退セレモニーで語っていた言葉を思い出した。「持ってるのは、最高の仲間」だという言葉だ。それは決して斎藤さんだけではなく、多くの学生アスリートに共通して言えることなのではないか。

4years.のつづき

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