慶應義塾大・QB相馬大輝 初のTOP8の舞台、投げて走って試合の流れを変える
慶應義塾大学ユニコーンズが、2019年以来3年ぶりにTOP8で勝ち星を挙げた。10月8日にあった一次リーグ第4節で日本大学と対戦。序盤は日大にリードされたが、中盤から追い上げて終盤に勝ち越しのフィールドゴールを決め、24-23の1点差で慶應が競り勝った。
1試合通しでチームを先導、初勝利
慶應にとって待望の今季初勝利だった。3年ぶりにTOP8に復帰した今シーズン、東京ドームで行われた法政大学との開幕戦は、タッチダウン(TD)を奪えず。続く立教大学との接戦を落とすと、明治大学には完敗。トップリーグの洗礼を受けてきた。この試合も開始のキックオフでリターンTDを食らい、幸先は良くなかった。しかし粘り強く攻めて守り、チャンスをモノにした。
勝因は、これまでよりもかみ合った攻撃によるところが大きい。シーズン序盤は水嶋魁(2年、海陽学園)から引き継ぐ形で出場していたQB相馬大輝(ひろき、3年、麻布)が、前節の明治戦からエースとして一本立ち。得意のショートパスを効果的に投げてゲームをマネジメントした。相馬は、「WRが1対1でしっかり勝ってくれて、自分は投げるだけでした」と控えめに話したが、1試合を通しで率いて勝ちをつかんだ表情には、充実感と自信が見えた。
麻布高で攻守兼任、総合力を培う
相馬は麻布高校の出身。高校からアメフトを始めて、QBとDBのリャンメンでプレーしてきた。アメフト部の顧問が、日本体育大学を経てアサヒビールシルバースターでQBとして活躍した中村豪介先生で、QBとしての基礎をきっちりとインストールされた。中村先生は、シルバースター時代に高い運動能力でリターナーなど様々なポジションをしていたため、様々な観点からイロハを教えられ、相馬の総合力の礎をつくってくれた。
進学校なので部活ができるのは丸2年だけ。毎年2学年分の部員で戦っていたので人数もギリギリで、誰かがけがをすると人数が足りない。QBをはじめSFやKを兼任して試合には出ずっぱりだった。引退となる高校3年の春の都大会で2回勝ち上がり、3回戦まで進めたのが思い出だ。
入学後の逆境を逆手に土台づくり
アメフト、とりわけQBの楽しさに夢中だった相馬は、大学でもアメフトを続けるつもりで東京大学ウォリアーズを目指していた。1年の浪人生活を経て慶應大に進学を決め、迷わずユニコーンズに入部。しかし入学した20年、部は前年に発生した不祥事の影響で、一部下位リーグのBIG8にいた。連戦大勝続きだったので、出場機会が早くから回ってきたのは幸運だったという。「2学年上の久保田(大雅)さんの下で、QBとしてのリーダーシップなど多くを学べました」。久保田はメンバーから強く信頼されていて、今でも理想とするQB像だと話す。
新型コロナウイルスの影響を受けて、1、2年時は全体練習が制限されたり、今春も活動が自粛されたりするなど、満足に練習できない時期が続いたが、「体づくりができる」と前向きにトレーニングに取り組んできた。切らさず続けてきた地道な積み重ねが、相馬のファンダメンタルを高いレベルに押し上げた。「パスも得意ですが、いざとなったら自分で走れるというのは気が楽な部分です」。日大戦は、慶應の立てたプランとアジャストがはまり、アウトやフラットゾーンへのショートパスがテンポ良く決まった。パスが決まる中で、走力も高い相馬のランは守備にとって守りにくい。
「やっと戦えるTOP8の舞台で3連敗したときは、みんな落ち込んでて不安な雰囲気もありました。でも、この勝利をきっかけにして、残りの3試合を全勝したいですね」。厳しい接戦をモノにした自信は、チーム全体に良い雰囲気を作っている。
ヘッドコーチ「よくパスを決めてくれた」
今シーズンからヘッドコーチとしてユニコーンズを率いる筒井康裕コーチは、「ミスもあったし、内容的には勝てる試合ではなかった、というのが正直なところです。でも学生が本当にうまく最後まで耐えてくれたなと。苦しい期間があった分、まだまだもっと暴れてほしい。そういう意味でも60点くらいですね」と、選手に更なる奮起を促す。サイドラインでは、「学生に少しでも伝播(でんぱ)すれば良いなと考えていました」という筒井HCの力強いガッツポーズもたびたび見られた。
相馬については、こう評価している。「水嶋の持つマネジメント力に対して、相馬はゲームの流れを自分で打破する力がある。よくパスを決めてくれました。WRが落としてしまうシーンもあったので、ユニットとしてはもっといけますね」
二次リーグの初戦は、10月29日の横浜国立大学戦で、翌々週の11月12日には日大との再戦が決まっている。慶應らしい勢いのあるフットボールを期待したい。