陸上・駅伝

青山学院大・田中悠登が世田谷ハーフ日本人トップ 「次こそは箱根駅伝を走りたい」

両手を広げ笑顔でゴールする田中(すべて撮影・藤井みさ)

11月13日に開催された世田谷246ハーフマラソンで、青山学院大学の田中悠登(2年、敦賀気比)が日本人トップとなる2位に入った。昨年の優勝に引き続き、2年連続で好結果を残し箱根駅伝メンバー入りへと強くアピールした。

第17回世田谷246ハーフマラソン 

11月13日@駒澤オリンピック公園陸上競技場をスタート・ゴールとする21.0975km
1位 ピーター・カマウ(国士舘大2年) 1時間2分41秒
2位 ⽥中悠登(青山学院大2年)    1時間3分02秒
3位 吉本真啓(駒澤大2年)      1時間3分29秒

2年連続の好結果に笑顔でゴール

世田谷246ハーフマラソンは例年11月の第2日曜日に開催され、箱根駅伝に向けて各大学のランナーが多くエントリーすることでも知られる。青山学院大にとってはこのレースが箱根駅伝メンバーの選考の重要な一つのポイントにもなっており、前週の全日本大学駅伝に出走しなかったメンバーが多数出場した。

例年はこの時期、スタート時の8時半には10度を切るような寒さだが、この日は朝から18度を超え、季節外れの暑さに見舞われた。田中はスタート直後に競技場を出たところから先頭付近に飛び出し、積極的にレースを進めた。2kmすぎで国士舘大学のピーター・カマウ(2年、カギラ)が飛び出して先頭で単独走に。田中は2位集団で走り、15km手前付近では駒澤大学の吉本真啓(まひろ、2年、世羅)との一騎打ちに。多摩川沿いの多摩堤通りから目黒通りに左折して一気にきつい坂を駆け上がる15.7km付近で吉本を引き離し、単独2位となった。そのまま粘り、競技場内に2位で入ってくると、ゴール前から何度も笑顔を見せた。両手を大きく広げ、両手で「2」を作りゴール。先にフィニッシュしたカマウと健闘をたたえあった。

カマウと健闘をたたえあう田中

「去年は気づいたら前にいたって感じなんですが、今回は完全に狙いにいっての日本人トップなので、だいぶ強くなれたかなと思います」。レース後、感想を問われて田中はそう口にした。前半は突っ込み、10kmの通過は29分3秒ほど。思っていたより最初の10kmできつくなってしまい、少し不安もよぎったというが、質の高い練習を積んでこられたという自信も糧にしっかりと後半も粘りきった。

世田谷ハーフといえば、15.7km付近の「心臓破りの坂」ともいわれる急勾配の坂がランナーたちを苦しめる。昨年もこの大会を経験し、坂のきつさを知っていた田中は前日の練習の時、前回の箱根駅伝で5区の山登りを経験した同期の若林宏樹(2年、洛南)に上りのコツを聞いてみたという。若林が教えてくれたのは、「前傾で走ると意識するのではなく、斜め45度に目線を落として走る」。その通りにしてみたら推進力が生まれ、吉本を引き離すこともできたという。「あれがなかったらもうちょっと失速してたと思います。山の神パワーで走れました」と笑う。坂の途中には原晋監督や寮母の美穂さん、コーチなどもおり、その存在も田中の力になった。

1年目は箱根を走れず「本当に悔しかった」

田中は昨年のこの大会で初ハーフマラソンながら優勝し、箱根駅伝のメンバー入りへと大きくアピールした。しかし16人のエントリーメンバーの中には入ったものの、当日は走れず。10区の中倉啓敦(ひろのぶ、4年、愛知)の付き添いにまわった。「中継所の空気とかも感じて、本当に悔しくて……。ゴールした瞬間にも立ち会えたんですけど、その光景を見るのがつらくて。今思えばそういうのも良かったかなと。その悔しさを糧に頑張ってきました」。

今年はトレーナーの中野ジェームズ修一さんとしっかりと筋トレを行い、練習の質も上げた上で離れないなど、着実にパワーアップしてきた。10月の出雲駅伝でメンバー入りし、学生駅伝デビューとなったが、このときは強烈な向かい風に苦しみ5区区間6位だった。「本当に力がないと、悪い流れを変える『ゲームチェンジャー』のような走りは難しいんだなと実感しました」。だが悪いコンディションの中でも踏ん張って力を出すという経験は、今日のレースにも生きた。暑さにもそんなに強くないというが、前日からしっかりと対策をとり、1年間の練習を積み上げてきたという自信を持って今日のレースに臨むことができた。

昨年の優勝もあり、いいイメージでこのレースに臨めた(387番が田中)

今シーズンの青山学院大は出雲駅伝では4位、全日本大学駅伝では3位と、駒澤大学に二冠を譲っている。しかしここ10年の箱根駅伝では6度優勝。直近の年始の大会では2位の順天堂大を10分以上引き離し、大会新記録で優勝するという圧倒的な強さを見せた。駒澤大の大八木弘明監督や選手たちも、箱根駅伝において青山学院大を大いに意識している。そして青山学院大の選手たち自身が、「箱根駅伝での優勝」を強く意識して日々の練習に臨んでいる。田中もそれは同じだ。「やっぱり箱根で勝つためには消極的なレースだと、チームで選考に勝って(箱根駅伝に)出られたとしても、優勝できる走りはできなかったと思うので。今日は本当に箱根を意識して押し切れました」と話す。原晋監督からも「次こそはイケメンランナー箱根デビューだな!」との言葉をもらった。

同期には絶対負けたくない

今のチームではやはり大エースの近藤幸太郎(4年、豊川工)、岸本大紀(4年、三条)などをはじめ、4年生の力が強い。前回10区を走った中倉は10区で区間新記録、9区を走った中村唯翔(4年、流経大柏)も9区区間新記録。その他、箱根は走っていないが主将の宮坂大器(4年、埼玉栄)、目片将大(4年、須磨学園)、横田俊吾(4年、学法石川)らも出雲駅伝、全日本大学駅伝で好結果を残している。「(4年生にも)勝ちたいですけど今は勝てる存在じゃないので、同期の太田(蒼生)、若林、鶴川(正也)、野村(昭夢)、白石(光星)とか、あいつらには絶対負けたくないという気持ちが強いです」

悔しさを糧に強い思いで箱根駅伝に向かう(右が田中)

また、福井で高校時代から切磋琢磨(せっさたくま)してきた國學院大學の平林清澄(2年、美方)について聞いてみると「去年今年とバリバリと活躍されてるので、『黙ってはいられないな』という気持ちです。しっかりあいつと同じ舞台で戦えるように。戦ってしっかり勝ちたいです。本当に刺激になっています」と同郷の同級生にもライバル意識を燃やしている。

層の厚いチームの中で箱根駅伝を走れる10人に入るのは容易ではないが、「今回こそは」の思いは田中から強く伝わってきた。もし走るとしたらどこの区間を走りますか? と問われると「8区とか……」との答え。「往路のほうが目立てるので、往路のほうがいいですけど……今回は(強い4年生もいるし)復路かなと。上級生になったら往路で目立ちたいです」と笑って答えた。熾烈(しれつ)な争いを勝ち抜き、年始に箱根路で田中の走りを見られるだろうか。

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