アメフト

東北大学・芝山武志 1人4役の主将、「国立が強豪私立に勝つロマン」の総決算へ

中京大との熱戦に勝ち、芝山主将は泣いた後、安堵の表情に(すべて撮影・篠原大輔)

アメリカンフットボールの全日本大学選手権は12月4日に準決勝2試合があり、決勝である甲子園ボウル(18日)のカードが決まる。東北大学ホーネッツ(東北)は1回戦で北海道大学(北海道)を17-7で下し、2回戦は中京大学(東海)との熱闘を制して準決勝へ勝ち上がった。主将でQB/WR/K/Pの芝山武志(4年、大阪・豊中)は、早稲田大学(関東)との準決勝(岐阜・長良川球技メドウ)を前に、「国立大学でプレーして強い私立に勝ちたかった。この試合でいい結果が出ないと、自分の選んだ道がよかったとは言えない」と、必勝を誓う。

タイブレーク、紙一重で準決勝へ

東北大-中京大の2回戦は、14-14でタイブレーク方式の延長に入った。お互いにゴール前25ydから攻め、点差がついたところで勝負が決まる。「1回表」は東北大。2プレー目に、WR尾崎鉄平(2年、県立浦和)の右オープンを突くランでタッチダウン(TD)。しかし芝山のPAT(ポイントアフタータッチダウン)のキックがまさかの失敗。東北大に暗雲が垂れ込めた。

PATのキックを外して窮地に追い込まれたが、仲間に救われた

「1回裏」の中京大も5プレーでTD。PATのキックが決まれば勝負あり。しかし勢いをつけて飛び込んだ東北大のLB関岡伶(4年、国学院久我山)が、キックされたボールをブロック。東北大は生き延びた。芝山は試合後、「関岡は同じ経済学部で、僕がアメフトに引きずり込んだんです。ほんま、入れといてよかった」と言った。関岡のプレーをまっすぐほめるのではなく、あくまで自分にスポットライトを当てるあたりが大阪人だ。

「2回表」の中京大は、TD目前まで進みながら、トリックプレーに出てインターセプトを喫した。その裏、東北大はQBに入った芝山が、右へのキープでエンドゾーンを陥れた。勝った東北大も負けた中京大も、涙、涙だった。

「すごくはないけど、何でもある程度はできる」と自認する

強豪私立の誘いを断り、仙台へ

「僕の調子が悪くてチームに迷惑をかけました。今日の出来ですか、まあ45点です」。芝山は試合後、顔をしかめて言った。ホーネッツでは数少ない、高校以前のアメフト経験者として、3年生の昨年から副将を務めた。当然のように今年は主将となり、しかも秋のシーズン本番からはQBも兼任してチームを引っ張ってきた。身長173cm、体重82kgと大きくはなく、スピードも特筆すべきものはないが、フットボールのセンスは素晴らしいものがある。

大阪府豊中市出身。中学までサッカーに没頭したが、府立豊中高校に入ってアメフトと出会った。WRとLBでプレーし、高3のときには強豪の私立大から誘われたが、1年の浪人を経て東北大学経済学部に進んだ。「強い私立大学でアメフトをやるより、国立大学のチームを引っ張って勝たせる力になりたかった。そっちにロマンを感じました」

恐竜好き監督のもと、追い続けたロマン

入学してすぐ中心選手となり、ホーネッツを引っ張ってきた。先輩も同期も後輩もほとんどが他競技からの転向組だが、中には前述のWR尾崎(2年)のように高い潜在能力を持つ選手もいる。しかも監督兼ヘッドコーチの萩山竜馬さん(37)は、オービックシーガルズで長く活躍した元日本代表のWRだ。恐竜が大好きで、恐竜を研究するために大阪から東北大へやってきて、その東北大でアメフトに出会った監督は、面白い人で、間違いのないフットボールを教えてくれる。

近くに切磋琢磨(せっさたくま)できる力関係のチームがいないのは痛かったが、高3のときからのロマンを追い続けた。全日本大学選手権の甲子園ボウル東日本代表決定戦では、1年のとき早稲田大学に10-41で敗れ、2年のときは選手権が中止、昨年は法政大学に13-56で負けた。

芝山(右端)の萩山監督(左端)への信頼は厚い

ふるさと大阪を離れてアメフトに打ち込む生活の中で、刺激にしてきたのは2歳下の弟・和輝(21)の存在だ。ずっとサッカーを続け、大阪の名門・興国高校では副将。いま関西大学3年でプロを目指している。兄は言う。「向こうは僕に勉強では勝てへんと思ってて、僕は弟にスポーツでは勝てないと思ってる。いい意味でライバルとして刺激し合ってきました」。名古屋市内であった中京大との試合にも、弟は大阪から「どうしても見たくて」と観戦にやってきた。うらやましくなるような兄弟関係だ。

大けが乗り越え、QBにも挑戦

大学で最上級生になり、主将になったまではよかったが、6月の試合で大けがを負った。「思えば苦しいことばかりでした。けがをして練習に入れない時期は、毎日のように自分に『何やってんねん』と思ってました。うまくいかないときは、焦らずに原因を考えて、突き詰める。理想のキャプテン像と自分を見比べては反省してやってきました」

この秋からQBとしてプレーし始め、中京大戦では同期の富澤風汰(大宮)と交代でQBに入った。萩山監督は芝山にQBも兼任させたことについて、「一番いい選手にボールを渡す。これしかないです」と言って笑った。芝山は、最初にQB兼任案を聞いた瞬間は「責任が重すぎる。キャパオーバーや。自分はWRでマルチに使われる方が合ってる」とも考えたが、「チームを勝たせられるならやります」と返事をした。芝山は自分自身について、「飛び抜けていいものはない。代わりに器用。何をやってもある程度のことはできる」と評する。

「投げるフォームはめちゃくちゃ」と言いつつ、ここぞで決めてきた

お世話になった先輩へ「恩返し」を

来年は仙台で1年留年して、一橋大学に新設されるデータサイエンスを学ぶ大学院を目指すつもりだ。「僕のゼミの植松良公先生が、そこに引き抜かれていったんです。先生についていく形で勉強しようかなと」。その前に、大きな挑戦の舞台が近づいている。

対戦する早稲田大学ビッグベアーズでは、豊中高アメフト部で1年先輩だったDL金子智哉(4年)が副将としてチームを引っ張る。「お世話になった方なんで、甲子園ボウルをかけて戦えるのはうれしいです」と芝山。

東北大の87番はロマンの総決算として、仙台で出会った仲間と早稲田に挑む。

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