国士舘大学・川村竜也 常に無観客だったこれまで、応援席へのあいさつであふれた涙
最後の大舞台で、国士舘大学がジャイアントキリングを成し遂げた。しかも1度ならず2度もだ。2回戦で関東1部の明治大学に、3回戦では関西大学秋季リーグの覇者近畿大学に勝ち、堂々のベスト8進出を果たした。
機能したトータルディフェンス
勢いそのままに、準々決勝は全日本インカレ5連覇中の早稲田大学と対戦した。どんな相手であろうとやるべきことをやるだけとばかりに、立ち上がりから金澤滉也(4年、前橋商)がジャンプサーブで攻め、4連続得点。会場が一気に盛り上がった。
前日の近大戦はフルセットに及び、試合を終えたのは午後7時近くだった。宿舎に戻ったのは午後9時。十分な休息時間もなく、金澤は「正直に言えば体はしんどかった。でもやるしかないという気持ちしかなかった」
サーブが走れば相手の攻撃も単調になる。何もひるむことはない。身長193cmの齋藤巧海(4年、明星)、197cmの佐藤龍世(3年、伊勢崎)がブロックでコースをふさぎ、抜けたコースはリベロの西宏志朗(2年、鹿児島商)が拾った。トータルディフェンスも機能し、攻守のバランスに長(た)けた早稲田とも、互角の勝負を繰り広げた。
ひょっとするとこのまま、国士舘が3度目のジャイアントキリングを果たすのではないか。そんな期待も高まる中、試合が動く中盤から終盤にかけ、早稲田が強さを見せつけた。金澤のスパイクを連続してブロックで封じ、突き放すと、第1セットを25-19、同様の展開が続いた2、3セットもそれぞれ25-18、25-17。国士舘大はストレートで敗れたが、スタンドからはここまでの戦いぶりを労い、称える大きな拍手が送られた。
「いつか絶対、有観客になるから」のいつかが訪れた
ゲームセットの笛が鳴り、涙を流す国士舘大の選手もいた。応援席の前に並び「ありがとうございました」の声とともに、頭を下げる。その場へ一番最後に加わった川村竜也主将(4年、東京学館新潟)は、下げた頭をなかなか上げず、あふれる涙を拭うように両手で顔を覆った。
「試合中はとにかく楽しくて。相手に点数を取られても、自分が笑っていれば、コートの中も明るくなる、と思いながらプレーしました。でも最後の1点を託してもらったのに、自分が決めきれず、負けてしまった。それなのに応援席からたくさんの拍手が聞こえて、頑張ってきて本当によかったなって。1年の時は有観客が当たり前でしたけど、2年からはずっと無観客が当たり前。最後の最後でたくさんの拍手をもらえて、応援席を見たら、涙が止まりませんでした」
コロナ禍の3年。ようやくさまざまな規制が解除され始めてきたが、大学バレーボール、特に関東2部で戦う選手にとっては、常に多くの「我慢」が強いられた。1部ではリーグ戦や東日本インカレも、会場によって有観客になる中、2部は常に無観客。「いつか絶対、有観客になるから頑張ろう」と選手同士で励ましあってきた「いつか」が訪れたのが、4年生にとって最後の全日本インカレだった。
気遣いだけが正解とは限らない
昨年の全日本インカレは立命館大学にフルセットの末、初戦敗退を喫した。間もなく新チームが始動し、川村が主将に任命された。ただ最初は何をしたらいいのかわからず、坂尾知昭監督から「このチームをどうすべきで、何がしたいんだ」と毎日叱られた。
「どういうカラーにしたいんだ? と聞かれても、自分の中でイメージがないからわからない。どうしたらいいか全くわからなくて、すごく苦しかった。何かに逃げたい、という気持ちが常にありました」
転機になったのは、卒業後も時間をつくって練習に来てくれるOBからのアドバイスだった。
「キャプテンは嫌われる立場なんだから、お前もその勇気を持て」
川村はそれまで、周囲を気遣うことが先行してしまい、自分の意見を抑えてきた。だがチームのリーダーであるキャプテンは、嫌われてもチームのために必要なら言うべきことは言っていい。ただでさえ人数が多いチームを一つにまとめるためには、気遣いだけが正解とは限らない。気持ちを引き締め、キャプテンとしての覚悟を決めた。部内で新型コロナウイルスの陽性者が多く出たり、春季リーグの入れ替え戦で駒澤大学に敗れたりなど、苦しい時期を何度も味わった。
それでもキャプテンとして、折れるわけにはいかない。後輩のために1部昇格を目指した秋季リーグは3位に終わり、入れ替え戦には進めなかった。だがフルセットで勝利した慶應義塾大戦を機に「チームの一体感が高まった」と言い、それが確信となったのが、今回の全日本インカレだ。
組み合わせは「笑うしかなかった」
トーナメント表を見た瞬間は「マジか、と笑うしかなかった」と振り返る。それほど熾烈な組み合わせだったが、練習試合でも対戦成績がよくなかった明治大にストレート勝ちを収めると、「やるべきことをすればどんな相手にも勝てる」と自信が高まった。3回戦の近大戦は2セットを連取され、このまま負けるのか、と弱気になりかけた。タイムアウトの最中、リベロの西が飛ばした檄(げき)が、再びチームを蘇らせた。
「このまま負けたらこれまでの努力が無駄になる。ここで終わっちゃダメだよ」
大逆転勝ちの末、迎えた早稲田大戦。敗れはしたが、近大戦と同様に最後まで悔いなく挑み、攻め続けた。だからこそ、これまで培ってきたことがつながる象徴的なプレーも出た。
第2セット中盤、15-15の場面で、国士舘大のサーバーは金澤。第1セットでもジャンプサーブが効果を発揮し、ここでも早稲田の攻撃を1本で決めさせずに切り返す。しかも早稲田の大塚達宣(4年、洛南)、水町泰杜(3年、鎮西)の両エースが放った強打を立て続けに西がレシーブ。上がったボールを全員でつないだ。
強打ばかりでなくいなしてきた大塚の軟打も落とさず、最後はサーブを放った金澤のバックアタックが早稲田のブロックを弾き飛ばして16-15。ロングラリーを制すると、前日午後7時まで試合をしていた疲れを微塵(みじん)も感じさせず、全員がコートを笑顔で走り回り、ベンチやスタンドからも思わず歓声が沸き起こった。
「自分たちのプレーが心を動かせた」
やっぱり応援って、最高だ。川村は、全身で喜びを感じていた。
「うちだけじゃなく、早稲田を応援しに来た人たちもいいプレーが出たら拍手してくれる。自分たちのプレーが、会場の人の心を動かせたんだと思ったら、最高にうれしかった。最後にこんないい体育館で、たくさんの応援がある中で試合をできて、本当に幸せでした」
試合後、選手だけでなく坂尾監督も目を赤くして、選手たちに語りかけた。
「本当にいいチームだった。よく頑張った」
コロナ禍にも、勝てない苦しさや悔しさにも屈せず、「いつか」のために努力を重ねた。頑張れば、いつか報われる時が来る。心からそう思えた。敗れても最高のフィナーレが待っていた。