アメフト

実力拮抗の3強対決を制した関西学院大学ファイターズ オフェンス陣の奮起はあるか

「次をしっかり勝って、甲子園ボウルは自分が全部出るつもりで準備する」と関学QB鎌田(プレー写真はすべて撮影・北川直樹)

アメリカンフットボールの関西学生リーグ1部は、関西学院大学の全勝優勝で幕を閉じた。ここ数年になく立命館大学(5勝2敗)、関西大学(6勝1敗)との3強の力が拮抗(きっこう)したシーズンは、終わってみれば関学だった。最後までオフェンスに破壊力が出ないままだったが、その分、ディフェンスの破壊力が上がった。大学に入ってからけがを繰り返していたDLトゥロターショーン礼(3年、関西学院)が大暴れし、エースLB海﨑琢(3年、箕面自由学園)の負傷欠場も選手層の厚さでカバーした。ただオフェンス陣の顔は晴れない。関学は12月4日、福岡・博多の森陸上競技場で、7年連続の甲子園ボウル出場をかけて西南学院大学(九州)と戦う。

立命のQB庭山に襲いかかる関学DLトゥロター。久々に1人でオフェンスを破壊する選手が出てきた

後輩と「半々でいく」と通告された立命戦

11月27日のリーグ最終戦、関学のQB鎌田陽大(3年、追手門学院)は時間をつぶして勝利(10-6)を確定させ、サイドラインに戻ってきた。近寄ってきた13番の星野秀太(1年、足立学園)を、強く抱きしめた。

全勝優勝を決めた立命戦は、鎌田にとって素直に喜べないものになった。フル出場した関大戦後、最初の練習の日に「立命戦は星野と半々でいく」と告げられていた。確かに関大戦は、今シーズンのふがいなさを払拭(ふっしょく)する試合にはならなかった。ずっと一緒にやってきた3、4年生のWR5人に、思い切って投げ込めなかった。立命戦での併用通告に関して、「素直に受け入れられない悔しい部分と、どうしてそうなったのかという気持ちがありました。悔しいのが一番大きかった。でも、これは自分のせい。自分の状態がよくないせいなので、星野が崩れたときにフォローしたり、カバーできればいいと思って準備しました」と鎌田は振り返った。

スタートは星野。「立命が序盤にQBにプレッシャーかけてくるのは分かってた。それならプレッシャーをさばくのがうまい星野がいい。調子もよかったし、星野はゲームで力を発揮していくタイプだから」と関学の大村和輝監督。序盤から、ファーストターゲットが空いていなければ走り出すという思い切りのよさでロスをせず、オフェンスにいいリズムをもたらした。早くもRB前島仁(3年、関西学院)のワイルドキャットからのパスも繰り出し、ゴール前になるとQBに鎌田を投入したりしたが、攻めきれない。

関学の1年生QB星野は昨年の甲子園ボウルを現地観戦しながら、「来年は自分がここに出る」と誓った

第2クオーター(Q)に入り、この日6度目のシリーズ。7人のパスプロテクションで星野を守り、WR糸川幹人(4年、箕面自由学園)へのパスをヒット。ゴール前7ydに進むと、糸川のワイルドキャット。前島、糸川ともに高校時代はQBで、いまもワイルドキャットには絶対の自信を持っている。しかも糸川は性格上、「あの隊形になったらほとんど自分のプレーなんで、これほどうれしいことはないです」という男だ。その糸川が左サイドを突いて、あと1yd。

ここでアメリカのカレッジのプレーから導入したパスに出る。左からモーションした糸川が左タックル(OLの左端)にかかったあたりでプレー開始。QB星野は右へ出たRBへトスのフェイク。糸川はくるっとターンして左のアウトパターンに出る。マンツーマンの相手を置き去りにして、フリーになった糸川へ先制のタッチダウン(TD)パスが通った。それぞれ環境は違えど、小学生のころからフットボールに親しんできたコンビで決めた。糸川はこういう動きが抜群にうまい。星野は試合後、「お互いに分かり合ってるんで」と笑顔で振り返った。

「いいRB」から「えげつないRB」への成長が期待される関学RB伊丹翔栄

新バージョンのショベルパスを披露

次のシリーズも立命のパントフェイクパス失敗で、敵陣29ydからというラッキー。しかし攻めきれず、K福井柊羽(4年、関西学院)が32ydのフィールドゴール(FG)に失敗。第1Qに24ydのFGを失敗した際は左ハッシュからのキックで、蹴る方向の右側から立命のDB池田晋輔(4年、奈良大附)が入り込んできていたが、今回は特段のプレッシャーもなかった。慣れない天然芝のフィールドで、踏み込み足が滑ったか。

後半は「パスの練習量はやはり鎌田の方が上だったので」と大村監督が話すように、15番が投入されて投げるシーンが増えた。それでも強力な立命ディフェンスを打開するには至らない。ようやく1点リードで第4Qに入って最初のシリーズで、鎌田がこの日2度目のショベルパスを決めてゴール前20ydに攻め込み、福井が27ydのFGを決めた。

キッカー福井も立命戦でのふがいなさを晴らしたい一人だ

ディフェンスの選手をラッシュさせておいて、入れ違いにRBやTEへポンと渡すショベルパスは関学のお家芸の一つだが、この日また新しいバージョンがお目見えした。先ほどのシーン、鎌田が右の糸川へヒッチパスを投げるふりをしてからショベルに出ている。投げるフェイクのとき、もう右手にはボールを持っていない。左手で隠し持ち、前島に下から投げ渡した。大村監督は「練習でいろいろ実験して、分かりにくいのを考えた。うまくいきましたね」と笑った。持っているプレーを常に進化させていく。これも関学の強さの一つだ。

試合残り3分55秒、自陣29ydからのオフェンス。鎌田はフリーフリッカーからWR梅津一馬(4年、佼成学園)へ19ydのパスを決めてフィールド中央付近へ。第2ダウン残り12ydでWR鈴木崇与(3年、箕面自由学園)に得意のロングパスを投じたが、立命DB西田健人(4年、立命館宇治)に奪われた。右へ走った糸川はフリーになっていた。10-6で残り2分27秒。最後までディフェンスに頼る形になり、逃げ切った。

この一年やってきたことを信じ、鎌田は思いきって投げ込めるか

「オフェンスで勝った」と言われる試合に

試合後、一通りの取材が終わり、着替えるスペースへ戻ってきた主将のOL占部雄軌(4年、関西学院)は副将のDL山本大地(4年、大阪学芸)の顔を見るなり、泣き始めた。「オフェンスが、オフェンスが~」。確かに関大戦は17点、立命戦は10点と、この一年をかけた戦いはディフェンスのおかげで勝てたといえる。

占部はOLとして試合に出ることはほとんどない立場ながら、大村監督の勧めで主将となった。OLのスターター5人で4年生は牛尾海(啓明学院)だけ。占部は終盤の大事な戦いへ向け、試合に出る3年生以下のOLの意識レベルを引き上げようと試行錯誤してきた。最近になって手応えを感じ始めてはいたが、関大戦はラン33回で68yd、立命戦は37回で100ydとRB陣を思うように走らせることができなかった。

立命戦後、大村監督の言葉に唇をかむ占部(79番、撮影・篠原大輔)

QB鎌田は立命戦を振り返って言う。「自分がサックされて、ディフェンスに苦しい状況をもたらしてしまった。インターセプトもありました。あそこは一発狙う場面じゃない。ゲームをつくる、という点で未熟だと思います」。反省の言葉が並んだが、昨シーズンをエースとして戦い抜き、大学日本一になった男だ。「次の試合にしっかり勝って、甲子園ボウルはもちろん、自分が先発で出たい。残り2試合は『オフェンスで勝った』と言われる試合にしたいと思ってます」と、力強く言った。

大村監督はこう言った。「おもんないでしょ、やってる選手も。こんなオフェンスじゃ。あと2試合、ほんまに気持ちのいいゲームがしたいですね」

KGオフェンスの奮起はなるか。ランが進み、キャプテンが心から笑える日は来るのか。鎌田はフィールドで意地を見せられるのか。それとも、最後まで勝ち抜いたとしても「ディフェンスで勝った年」で終わるのか。名門KGファイターズのシーズンは続く。

in Additionあわせて読みたい