東海大・中川つかさ主将 「四冠」達成で、プレッシャーから解放「やっと寝られます」
第69回 全日本バレーボール大学女子選手権大会
12月4日@大田区総合体育館(東京)
東海大学3(25-23.25-16.25-17)0日本女子体育大学
東海大学が堂々の連覇、そしてシーズン当初から目標に掲げてきた春と秋のリーグ戦、東日本インカレに続く「四冠」を達成した。佐々木遥子(3年、市立船橋)のレフトからのスパイクが決まると、みんなで喜ぼう、とばかりにエースの宮部愛芽世(3年、金蘭会)は両手で大きく手招きし、ベンチから選手たちが一気に駆け寄り、歓喜の輪ができた。
叫んだり、泣いたり、抱き合ったり。駆け寄る選手たちに逆行して、1人、ベンチに走ったのが主将の中川つかさ(4年、金蘭会)だった。藤井壮浩監督と左手でハイタッチ。涙を拭う中川を、藤井監督が包み込むように称えた。
コート上では「完璧」を装った
主将と監督の絆が伝わるシーンについて、試合直後のコートインタビューで尋ねられた中川は「体が勝手に反応したので、覚えていない」と話した。その後の表彰式や写真撮影、控え室の片付け、その次の流れまで全体へ的確に伝えるリーダーシップは歓喜の後も健在で、コートに立つ姿と同様に冷静そのものだった。
崩れ落ちるように両手をひざにつき、安堵(あんど)の表情を浮かべたのは、ほぼすべての取材を終えた後だった。
「やっと(大会が)終わった。本当にしんどかったです。大会が始まってからも、(決勝前夜の)昨日もプレッシャーがすごくて、ほとんど寝られませんでした」
6年ぶりの優勝を遂げた昨シーズンから、レギュラーメンバーで抜けたのは主将を務めた横田紗椰香(デンソー)だけ。「1人抜けただけなのだから、今年も東海が盤石」という見方が多数で、宮部は今年度の日本代表にも選出され、世界選手権にも出場した。
金蘭会でともに春高を連覇した2人だけでなく、レギュラーメンバーでコートに立つのは、高校時代に全国大会を経験した選手ばかり。「勝って当然」という視線が、主将の中川には重くのしかかっていた。
「勝ちたい、と思うのはどんな試合でも同じです。でも勝たなきゃいけない、負けられないと思うと、試合をするのが怖かった。もし負けたらどんな目で見られるんだろう、と思っていたし、もうインカレなんてやらないで、勝ち負けなんてつけないでもええやん、って思うぐらい苦しかったのは、今回が初めてでした」
だからこそ、コートの上では完璧を装った。常に毅然と、冷静に。プレー同様、周囲に対しても不安などを微塵も感じさせず、周囲を引っ張った。
「自分が緊張している姿は出したくなかったんです。完璧は難しいけれど、『完璧な姿でコートに立つことが必要だ』と自分に言い聞かせるプレッシャー、四冠のプレッシャー。本当は怖くて、怖くて、怖くて。関東だけでなく関西や九州、普段対戦することのないチームと戦うのがインカレなので、どういうバレーをしてくるのかわからない、という怖さもありました」
宮部愛芽世がいない間、活躍した村中胡水
実際に試合が始まると、そんな不安を抱えていたことなど誰も気づかないほど、東海大は順調に勝ち進んだ。まさに女王と言うべき安定した戦いぶりで、相手に与えたセットは0。準決勝の神戸親和女子大学戦は、佐々木に代わって入った村中胡水(4年、鎮西)も幅広いコースへ打ち分ける攻撃を随所で発揮、ストレートでの勝利に貢献した。
全日本インカレではリザーブに回った村中だが、宮部を欠いた春、秋リーグではレギュラーとしてコートに立ち、チームを勝利に導く活躍を何度も残してきた。アタッカーとして持つ村中のテクニックや能力を称えるのは、同じポジションに入る宮部だ。
「練習から気持ちのこもったプレーをしていて、周りから見れば『何でこの人がリザーブなの?』というぐらいの力がある。だから私も代表から戻ったとはいえ、自分がすぐレギュラーになれるなんて思えませんでした。私を含めて下級生が失敗したり、ミスをしても支えてくれる存在で、だからこそ『勝たせてあげたい』と思った。村中さんや、4年生の存在が大きかったから、決勝でも思いきりプレーすることができました」
試合を重ねるごとに調子を上げ、特に決勝で24点目のマッチポイントをたたき出した宮部のスパイクは圧巻そのもの。
「(セッターの)中川さんとは中学、高校と一緒にやってきたので、言葉にしなくても心で思い合えたし、完璧なタイミングで打ち込むことができた」というバックアタックは、藤井監督も「タイミング、ヒット、スイング、すべてがよかった」と称賛した。
何より、その1本をベンチで大喜びしながら見ていたのが村中だった。優勝の瞬間、そして表彰や写真撮影を終えて、ストレッチが始まる前にも号泣していた4年生に理由を尋ねると、またタオルで涙を拭いながら、振り絞るように言った。
「九州から上京した時は『東海大でユニフォームが着られたらいいな』と思っていたぐらいで、まさか試合に出られるようになるなんて思いませんでした。でも最後の1年は春、秋とスタメンでリーグに出て優勝できた。自分は精一杯やることをやったし、愛芽世が代表から帰ってきて、誰が見てもわかるぐらい変化して帰ってきた。安心して任せられると思ったし、チームの戦力がすごくプラスされた。『四冠』という大きな目標に、自分も少しでも貢献できたのかな、と思うとうれしくて。いろんな思いがこみ上げてきました」
誰が出てもいいように、努力と準備
男女ともに決勝進出を果たし、「名門」と呼ばれる東海大。実際に多くのOB、OGがVリーグや日本代表選手となり、活躍している。ただそこへ集まるのは、高校で実績を残したエリート選手ばかりではない。一般入試を経て入部を希望する選手も多く、約半数はバックアップメンバーに回り、練習中のボール拾いや球出しに回る。1、2年時は村中もその1人だった。
「1年生の頃は何もわからずサポートしているだけだったんですけど、少しずつチーム全体のことがわかってきて、自分の役割にも意味があると思ったので、どんなところでもチームのために貢献したい、と思ってやってきました。出ているメンバーもバックアップメンバーの気持ちをわかっているから、小さなことにも『ありがとう』と言ってくれるのがうれしかったし、一生懸命、ちゃんとやるべきことをやっていれば認めてもらえた。自分が試合に出るようになっても、支えてくれるメンバーの分も戦いたい、自分が嬉しかった『ありがとう』をたくさん伝えよう、と思ってやってきたので、このチームで4年間できたことが本当に幸せでした」
終わってみれば四冠。堂々たる結果を残したが、道のりはすべて順調だったわけではない。5月の黒鷲旗を終え、レギュラーだった長友真由(3年、延岡学園)がけがでの離脱を余儀なくされた。
同じポジションに入った原結実香(4年、東九州龍谷)は、学生コーチも務めながら自らコートに立ち続けてきたように、いつ何時、何があろうと、誰が出ても同じように活躍すべく、努力と準備を重ねる。
強い結束力の中心となったのが、強いリーダーシップを持つ主将の中川であり、支えた4年生の存在が大きかった。藤井監督はそう語る。
「リーダーシップはもちろん、1人1人のフォロワーシップを発揮して、隅々まで目を配りチームを丁寧につくってくれた。四冠という自分たちの目標に向けて工夫を凝らして、コツコツ練習に励んだいいチーム。金メダルに似合う顔つきかな、と思います」
妥協せず、手を差し伸べ合いながら「四冠」という偉業を成し遂げ、159cmの主将は安堵の笑みを浮かべた。
「やっと寝られます」
大きなプレッシャーを見事に跳ね除け、まさに有終の美。「日本一」の笑顔が輝いた。