筑波大が10年ぶり優勝! 垂水優芽が勝負どころで強さ発揮「全部、俺に持ってこい」
第75回 全日本バレーボール大学男子選手権大会
12月4日@大田区総合体育館(東京)
筑波大学3(16-25.31-29.25-15.25-19)1東海大学
流行りに乗るなら、まさに「ブラボー!」と叫びたい。決勝という大舞台で、筑波大学の垂水優芽(4年、洛南)が放ったジャンプサーブは、圧巻と称えるしかない1本だった。
第2セットの大熱戦を制し、勢い
第1セットは東海大学が先取し、第2セットも序盤は東海大が優勢。13-16と一時は筑波大が3点を追う展開となった。流れが変わり始めたのは終盤、エバデダン・ラリー(4年、松本国際)のサーブからだ。前日の早稲田大学戦で初スタメンながら活躍した牧大晃(1年、高松工芸)に代わって入った砂川裕次郎(3年、埼玉栄)のバックアタック、エバデダンのサービスエースで22-22の同点として、24-24でも決着がつかずデュースに突入した。
垂水のスパイクや中西健裕(2年、土浦日大)のブロックで筑波が抜け出すも、東海大は樋内竜也(4年、崇徳)が気迫のこもったスパイクを決め、再び逆転。一進一退の攻防が繰り返された中、28-28。サーブ順が垂水に巡ってきた。
高く上げたトスを迷わずに最高打点でたたいた打球が、東海大コートに突き刺さった。サービスエースで得た29点目にベンチ、コートが沸き上がる中、垂水は小さくグッと右手を握った。
「第1セットはサーブが走っていなくて、内心は焦っていました。でもラリーが『大丈夫、いつか入るよ』と言ってくれて、気持ちが楽になった。ここでいかないとダメだろ、と思いきり、狙ったコースに打ちました」
互いに1点ずつを加え、筑波はリリーフサーバーに佐藤嘉生(3年、高崎)を送った。佐藤のショートサーブで東海大の攻撃を切り返し、最後は垂水のバックアタックで31-29。大熱戦を逆転で制した筑波大が、一気に勢いづいた。第3セットは西川馨太郎(4年、清風)のサービスエースやブロック、柳田歩輝(3年、松本国際)のサービスエースやスパイクで連続得点を挙げ、25-15で連取。
第4セットも序盤は東海大の猛攻にあったが、中盤、またも西川のサーブから流れを引き寄せ、エバデダンの速攻でマッチポイントを握ると、最後は前衛に上がった垂水が鮮やかに決め25-19。前日の準決勝、劣勢からの大逆転を制した筑波大が、10年ぶりの王者に輝いた。
最高到達点は、大会屈指の350cm
勝負所での垂水の強さが発揮されたのは、決勝だけではない。早稲田大の6連覇を阻んだ準決勝も同様だった。
第1セットを先取したが、早稲田大に2、3セットを連取され、追い込まれてからの第4セット以降。垂水自身も「打てば全部決まると思っていた」と言うほどの無双ぶりだった。2枚、3枚ブロックがついても上から、また別の場面では当てて飛ばす。相手からすれば、わかっていても止められないようなすごみがあった。この試合、勝負所で会心のブロックを見せたエバデダンが思わず笑った。
「準決勝とか決勝とか、勝負がかかったところでの垂水は本当にすごい。バケモンです。高校時代からずっとすごかったですけど、この1年はエースとしての覚悟、特に全カレでは自覚が芽生えてきたのを近くにいても感じました」
準決勝で対戦した早稲田大の大塚達宣、中島明良、決勝で競った東海大の山本龍と、ともに洛南高校時代は全国を制した経験を持つ。筑波大でもエバデダン、西川とともに1年からレギュラーとして活躍してきた。高い攻撃力につながる跳躍力は抜群で、最高到達点350cmは大会屈指の高さを誇る。
「とんでもない偏差値を誇る秀才」
エースとして持つ才能は言わずもがな、1年時に決勝進出を果たすなど、エリートと呼ぶにふさわしい戦績を残してきた。それは垂水だけに留まらず、今季の筑波大からは垂水を含み、エバデダン、西川、牧の4人が日本代表登録選手に選ばれ、エバデダンは昨年の全日本インカレ後、Vリーグのパナソニックでもプレーした。筑波大の優れた「個」が、最終学年で花開いたと見るのが一般だが、秋山央監督の見方は違った。
「確かに能力はある。自分たちでも『できる』と思う学年でした。学力面でとんでもない偏差値を誇る秀才がいて、なおかつバレーができる選手もいる。でも彼らは、これまでは限界突破を求めずともやってこられたポテンシャルがあるから、やらなかった。だからあえて、今年は選手に煙たがられようと、文句ジジイになろうと思って、口うるさいことをかなり言い続けてきました」
秋山監督が「とんでもない偏差値の秀才」と称したのが、一般入試を経て入部した木田大智(4年、時習館)だ。もともと「競技スポーツと同じぐらい勉強が好きだった」木田は、中学生の頃に見た70回大会準決勝、中央大学を相手にフルセット勝ちを収めた試合を見て、筑波大に憧れた。
「(当時主将の)中根聡太さん(現・星城高校監督)のリーダーシップと、何よりコートだけでなくベンチも一体になった筑波の魂に心揺さぶられました」
入試は最高得点で合格。リリーフサーバーとしてコートに立ち、データ収集やチーム運営なども任され、リーグ戦では1年生とともに試合後、ボールレトリバーも務めた。チームが勝つために主力の垂水やエバデダンをサポートしてきたが、個の力は高くてもチームがうまく回らず、秋山監督からはその都度強く指摘された。
「勝負所で力が発揮しきれない。秋山先生からは『垂水はバレーがうまいかもしれない。でも何となくできる、というところから突き詰めない。練習嫌いで終わらせるなら、それ以上にはなれない』と言われましたが、それは垂水だけでなく、垂水をキャプテンに選んだ僕たち4年生全員の責任でもある。僕自身も心が折れそうな時もありましたが、秋山先生からは『お前や青木(聡二郎 4年、前橋)は将来日本を動かしていく人材なんだから、ここで妥協しちゃダメだ』と。もっと1人1人が本気でぶつかり合って、チームになるために全員がなりふり構わずやろう、とミーティングを重ねた結果、最後の最後で見せてくれたのが、垂水のあの姿だったと思います」
昨年は左足首の負傷で、最終戦に出られず
準決勝と決勝では、劣勢が続く苦しい場面でタイムアウトを取るたび、輪の中で垂水が言葉を発した。
「全部俺に持ってこい。全部決めるから」
ともにコートへ立ち続けた西川は、「優芽が決まらなければ負けても仕方ない。でも優芽なら、絶対決めてくれると信じていた」と言い、リリーフサーバーとしてコートに送り出された木田や佐藤は「自分たちがつなげば垂水が必ず決めてくれる」と1本に渾身(こんしん)の力を込めた。
昨年の準決勝で垂水は左足首を負傷し、3位決定戦に出られなかった。フルセットの末に敗れた直後、自身に代わって出場し、敗れたことを詫びながら号泣する橋本岳人(3年、埼玉栄)を慰めた。あれから1年が過ぎた同じ日、最上級生、キャプテンとなり、ビクトリーポイントを決めた直後に号泣した垂水へ真っ先に駆け寄り、後ろから抱き支えたのが木田で、勝利の瞬間から表彰式まで崩れ落ちそうなほど号泣していたのが橋本だった。
全員の思いを背負うかのように、勝負所で決め抜き、チームを勝利に導いた。たくましい主将へと成長を遂げた垂水が、笑顔で言った。
「試合をするたび、キャプテンの重みを感じたし、うまくいかないこともたくさんありました。でも周りが支えてくれた。今まではずっと『勝ちたい』と思っていたけれど、最後の1年は『勝たせたい』と思いながら試合をしてきたので、最後に勝たせることができて本当にうれしいです」
胸に金メダルが輝く。全員の思いを込めたキャプテンの「1本」と共に。深く、心に刻みつけられる宝物だ。