ラグビー

東洋大学・神田悠作 2浪経て入部 SHに転向し、快進撃を支えた「心臓」に成長

東洋大の攻撃を支える神田(すべて撮影・斉藤健仁)

「群雄割拠」だった今季の関東大学ラグビーリーグ戦1部。その主役は東洋大学だった。今季、29年ぶりの1部昇格にもかかわらず、開幕戦で4連覇中の王者・東海大学から金星を挙げるなど、快進撃を続けて5勝2敗で3位に入り、史上初めて大学選手権の出場権も手にした。

そんな東洋大の「心臓」と言える選手がスクラムハーフ(SH)神田悠作(4年、東筑)だ。リーグ戦7試合すべてに先発し、攻撃をリードするだけでなく、鋭いランで5トライを挙げてチームの勝利に貢献。見事、リーグ戦の「ベスト15」にも選出された俊才だ。

「人と人の間を走るのが楽しい」

11月27日、リーグ戦の最終戦の相手は、2部時代から競い合ってきたライバルの立正大学で、勝てば大学選手権出場が決まる大一番だった。前半13分、FW陣がモールを押し込んだ後、神田は相手のディフェンスのギャップを突いてインゴールを陥れ、34-21の勝利に貢献した。「前半から自分たちのやりたいように進めて、流れを持ってこられた。自分的にはランが好きなので、人と人の間を走るのが楽しいです! 大学選手権に出場できて、めっちゃうれしいです!」と破顔した。

立正大戦でトライを挙げる神田は「人と人の間を走るのが楽しい」

6歳からプレーし切磋琢磨

福岡・北九州市出身の神田は、父が八幡高校ラグビー部出身だった影響もあり、6歳から鞘ヶ谷ラグビースクールで競技を始めた。

主にスタンドオフ(SO)としてプレーしていた。高校は東筑に進学し、高校2年の春には全国選抜大会にも出場を果たした。その時、12番を付けていたのが日本代表センター(CTB)の中野将伍(東京サンゴリアス)であり、フルバック(FB)は早稲田大学の平田楓太だった。特に一つ上の中野とは小さい頃から同じスクールで一緒に切磋琢磨(せっさたくま)した仲で、いまだに連絡を取り合っている。「東海大に勝った時は『おめでとう』と連絡をもらいました! いい刺激になっています」

東海大戦で挙げた金星にも貢献

進学したらラグビーをやめようとしたが

高校時代に「ラグビーしかやっておらずまったく勉強をしなかった」という神田は、大学受験に失敗。その後は「勉強が楽しくなってきた」と1年、2年と浪人して早稲田大を目指した。だが結局、合格することはかなわず、「問題傾向が自分に合っているかな」という理由だけで東洋大を受験した。当初は「どの大学に進学してもラグビーをやめよう」と思っていた。

何気なく東洋大ラグビー部のHPを見ると、高校時代からの知り合いだったSH高橋太一(三菱重工相模原ダイナボアーズ)、SO杉野幹太ら、高校時代から知り合いだった九州出身選手がいて「やっぱりラグビーを続けようかな」と思い直した。ただ2年間の浪人中はラグビーをしておらず、70kgほどだった体重は85kgまで増えて「ブヨブヨだった」と振り返る。

入部すると、かつて明治大学でコーチを務めていた福永昇三監督は、2018年度に大学王者に輝いた明治大の映像を見せて、「4年生になったら明治大を倒して日本一になろう」と選手に発破をかけた。その言葉に感化された神田も「朝から晩までラグビーとなり、浪人時代とは逆になりましたね」と話すほど、再びラグビー中心の生活に戻った。

三洋電機時代、日本一を経験しているOBの福永監督

現在の4年生は、キャプテンのフランカー(FL)齋藤良明慈縁(らみんじえん、4年、目黒学院)を筆頭に、熱心な選手が多く「努力家ばかり」と神田も舌を巻く。練習前後には、必ず誰かが個人練習をしており、その積み重ねがチームの土台となった。大学2年までSOだった神田も、副将SOの土橋郁矢(4年、黒沢尻工)とキック練習に精を出していた。

3年時に大きな転機 SOからSHへ

大学3年時、神田に大きな転機となる出来事があった。SOからSHへのコンバートだ。当時主将だったSH高橋から「上を目指すのならSHの方がいいのでは?」というアドバイスを受けて、半信半疑だったが9番への転向を決めた。またバックス担当の山内智一コーチも「土橋と神田と能力が高いSOが2人いるのはもったいないので」とそれを歓迎した。

SH専門のコーチがいなかったため、神田は自学でスキルを学んだ。チームメートにアドバイスをもらいつつ、ニュージーランド代表SHアーロン・スミスの動画を何度も、何度も見返し、パスの練習に明け暮れた。

「ボールにたくさん触れられて楽しいですが、長いパスが放れず、まだまだ」と本人は謙遜する。だが攻撃的なプレーと持ち前のアタックセンスで、大学3年時からすぐにSHのレギュラーとなった。SO土橋とのハーフ団はチームの中心となり、東洋大の快進撃を支えた。

神田の活躍に福永監督は「(他の大学に)落ちて入ってくれて良かった! 9番になって道が開けてきた。センスはありますが努力しているだけ」と目を細めた。

日本大学戦では2トライを挙げた

多様性・人間力が強さを支える

今季の東洋大のスローガンは「パラダイス」。日本はもちろんのこと、トンガ、ニュージーランド、フィジー、南アフリカなど、11カ国の出自の選手が在籍し、それが強みの一つともなっている。「いろんな文化の選手がいて話していて楽しいですし、一緒に整理整頓をしたり、掃除をしたりするなどチームカルチャーを教えることからはじめて、今ではグッとまとまってきた」と神田は言う。

また福永監督が選手たちによくいう言葉に、「ラグビーよりもかっこいい男になれ!」がある。

神田もその言葉に感銘を受けており、「外面よりも内面の部分、人間として素晴らしい人になれ、という意味です。日本人も含めて、留学生もその言葉の意味を理解し、いい周波数で集まった人間たちの組織になっている」と実感している。多様性と人間力が、東洋大の強さを支える根源ともなっている。

11カ国出身の選手が集う「ダイバーシティー」が東洋大の強さの一つだ

「ランと味方を活かすパスで頑張る」

12月11日、大学選手権3回戦の相手は出場(56回)、優勝(16回)ともに最多を誇る早稲田大(対抗戦3位)に決まった。神田は「相手がどこであろうとも、日本一を目指す上では倒さないといけない。自分の持ち味であるランと味方を生かすパスで頑張りたい!」と語気を強めた。

趣味は「なかなか遊びにいけないので、ラグビーですね!」という23歳は、人よりもやや遠回りしたかもしれないが、大学卒業後もリーグワンでラグビーを続ける。もし大学でラグビーをしていなかったら「普通の大学生をやっていたと思います」と苦笑する。

1浪で合格した地元の大学に行っていたら、東洋大ラグビー部にたまたま知り合いがいなかったら、アドバイスを受けて9番に転向しなかったら、今の神田はいなかったはずだ。「あらためて東洋大に来て良かった」。運と努力、そして巡り合わせもあり、12月11日に初めて大学選手権のピッチに立つ。

初めての大学選手権で優勝16度を誇る早稲田大に挑む

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