陸上・駅伝

特集:第99回箱根駅伝

「適材適所」で箱根駅伝総合優勝を狙う順天堂大 西澤侑真主将「任された区間を全う」

16年ぶりの総合優勝をめざす順天堂大(写真提供・順天堂大学陸上競技部)

今年1月の箱根駅伝で総合準優勝を果たし、15年ぶりのトップ3になった順天堂大学。第99回大会では、07年以来12回目の優勝を狙う。強みは「出雲」「全日本」も経験した変わらぬ陣容が持つ経験値の高さ。カギとなるのは区間に配置できる適材の存在だ。

チーム1の経験をもつ主将が引っ張る

順当な顔ぶれ――。順天堂大の長門俊介監督は、箱根駅伝の登録16選手についてこう表現する。

「出雲」を走った6人、「全日本」で出走した8人は漏れなくエントリーされた。

サプライズはないが、この「順当」というところに、長門監督の自信が垣間見える。

故障者や調子を落とす者を出すことなく、箱根もメンバーが変わらないのは大きなアドバンテージだろう。うち7人は前回の箱根を知る。

経験値の高さは、箱根駅伝で間違いなく武器になるはずだ。

長門監督は順天堂大の選手時代、4年連続で箱根駅伝に出場した。

4年時の83回大会では区間賞を獲得し、総合優勝に貢献している。力になったのが、毎年箱根の同一区間(9区)を走った経験だ。

「順天堂大は私がそうだったように、特殊区間以外も、そこが適所であれば、同じ選手が担うことが多いのが伝統です。(箱根を走った経験に)区間の適材という要素がかみ合った選手がいる時は、勝率もいいですね」

誰がどこを走るか、明言は避けたものの、構想している選手が「全日本」の前から箱根の準備に入っており、ここまで順調に来ているという。

チームの中で一番、経験値が高いのは、主将の西澤侑真(ゆうま、4年、浜松日体)だ。

同学年では唯一、1年時から3大会連続で箱根を走っている。2年時までは8区を、前回大会では7区と、いずれも復路を担った。全日本では6区で区間新となる37秒09を記録(区間2位)。4回目の箱根に向けていいはずみをつけた。以降も状態は良好のようだ。

1年時から3大会連続で箱根路を走っている順天堂大の西澤(右、撮影・古沢孝樹)

主将は走る姿だけでなく、精神的な支柱としても引っ張っている。

主務の曽波祐我(ゆうが、4年、洛南)は「西澤は1年生の時から、『自分たちの代では箱根で総合優勝したい』と言い続けてきた。それが僕ら4年生はもちろん、チーム全体がそこに向かう力になっています」と話す。

長門監督も西澤のリーダーシップを高く評価している。

「気持ちを前面に出し、自分への厳しさを周りにも発信できる。3年時に選手間から主将に推された時も、年によっては私が保留にするケースもあるんですが、やはり西澤かと、全く異論はなかったです」

「総合優勝」めざし練習する順天堂大のメンバー(写真提供・順天堂大学陸上競技部)

難病・箱根で苦い思いした兄…様々な思い胸に

もっとも、順風満帆だったかというとそうではない。

2年秋ごろから便に血が混じるようになり、3年夏に難病指定の潰瘍(かいよう)性大腸炎を発症。

陸上界では今年6月、男子100mの元日本記録保持者で、今年6月に休養を表明した桐生祥秀も、同じ潰瘍性大腸炎を患っていることを明らかにしている。

1か月ほどで症状はおさまったものの、けがも重なり、走れない日々が続いた。

3年時の箱根駅伝出場は「箱根だけは走る」と、強い思いでつかんだものだった。今も薬を飲み続けているという。

西澤が陸上競技を始めたのは6歳年上の兄・卓弥の影響だ。

卓弥も順天堂大の選手として4年連続で箱根を走った。2年時は7区で4位と好走したものの、総合6位となった4年時は1区で12位。

最後の箱根では、最終学年で悔しさを味わった兄への思いも胸に走るつもりだ。

一方で、過去3大会の結果(1年時から9位、10位、7位)には納得していない。

「特に2年生の時は気持ちが空回りしましたし……」

走りたいのは過去3回の経験がある復路だ。

「今年1年距離を積んだので、(復路のエース区間である)9区にも10区にも対応できるかと。どこでも任された区間を全うするつもりですが、10区でゴールテープを切りたい気持ちもあります」

意気込みを語った西澤(左)、三浦(中央)、四釜(撮影・上原伸一)

「元祖・山の神」から「5区の極意」伝授され

「適材適所」の強みを生かせる筆頭格が、5区を予定されている四釜峻佑(4年、山形中央)だ。

昨年、箱根初出場で5区を任された四釜は区間5位と好走。総合2位への流れを作った。

長門監督は「山上りに対する恐怖心がなく、上りでも平地でも走りが変わらない。70分を切ったら『山の神』と呼ばれるが、四釜にはその力がある」と評す。

その期待から長門監督は昨年、順天堂大の同期で、「元祖・山の神」の今井正人(トヨタ自動車九州)に依頼し、四釜に「5区の極意」を伝授してもらった。

「今井さんからは『自分がヒーローになると思って走るといいよ』とアドバイスをいただきました」(四釜)

だが、1時間9分30秒を目指した中、1時間11分44秒という結果に。実際に走ってみると「箱根の山」は想定以上に厳しく、難しい区間だった。

「(11.74km地点の)小涌園からの本格的な上り、実はここまでが重要です。僕は初の箱根だったので、ふわふわした状態で、オーバーペースになってしまった。小涌園までを自分のペースを保って走れた選手が上位に入れる。それが身を持ってわかりました」

前回大会の経験と反省を生かし、目標タイムは70分30秒に設定。今度は地に足をつけて走るつもりだ。

長門監督は「こちらの期待が負担になったところもあるので、今回は肩に力が入らないように本番を迎えさせたい」としながらも、5区は重要区間と位置付けている。

「(2強の呼び声がある)駒澤大学と青山学院大学に主導権を渡さないためには自信がある往路がポイントになる。往路を固めてくると予想される國學院大學と中央大学もそう考えていると思います。

5区でタイム差をつけるのは難しいが、優位な形で2日目を迎えられる走りをしてくれたら。そう思っています」

四釜は悔しい経験も糧にする。

全日本では最終区の8区で区間3位と力走したが、前を走る青学大にあと1秒、わずか1秒及ばず、順天堂大は総合4位にとどまった。

「目の前でゴールされる。あんな思いはもうしたくないです」

目標としていた学生3大駅伝の「三冠」は達成できなかった。しかし、「最後の1つは絶対に譲れない。最後は笑って終わりたい」と西澤はチーム全員の決意を代弁する。

07年の第83大会以来となる12回目の優勝へ。キーワードは「経験の力」と「適材適所が生む力」になりそうだ。

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