順天堂大・長門俊介監督「3位以内でないといけない」、箱根駅伝に向け伊勢路で勝負
「学生駅伝三冠」を目標に掲げる順天堂大学。5月の関東インカレでは、昨年の男子1部長距離5種目(1500m、5000m、10000m、ハーフマラソン、3000mSC)で41得点に対し、19得点にとどまった。だが長門俊介監督は「5000m(三浦龍司、3年、洛南)と10000m(伊豫田達弥、4年、舟入)で優勝していますし、経験させたいメンバーを各種目に入れていた中で好材料もありましたので、あまりネガティブではないです」と言い切る。
西澤主将、教育実習で原点に立返る
1年生の時から「主将になる」と公言してきた西澤侑真(4年、浜松日体)が、主将になって最初に言ったのが「学生駅伝三冠」だった。日々の練習でも遅れる選手には厳しく声がけをし、言うからには誰よりも自分に厳しくしてきた。だが、関東インカレのハーフマラソンでは11位となり、「陸上部の副将でもあるのに、不甲斐ない結果に終わってしまった」と悔しさをかみしめた。
その直後に母校である浜松日体高校(静岡)に教育実習へ。後輩たちとともに走る中で、自分が高校生だった時の気持ちを思い出し、何より、後輩たちの「頑張ってください」「応援しています」という言葉に勇気をもらった。その後の記録会で5000mで14分08秒26、10000mで28分45秒39とともに自己ベストをマーク。最後の駅伝シーズンに向け、夏合宿では週200km以上を基準にして質の高い練習を積んでいる。
主将が背中を見せながらチームは夏合宿に臨んだが、チーム内には夏前に体調を崩した選手もいたため、7月30日から実施した一次合宿は足並みをそろえる期間に定め、あえて強度を落としたメニューも加えた。練習中は選手たちが互いに声をかけ合いながら雰囲気を高めたが、一度、練習が終われば長門監督も交えて楽しそうな声が聞こえてくる。「長門監督から僕たちに絡んでくれるので話しかけやすいですし、特に4年生の代は仲がいいのが特長だと思う」と主務の曽波祐我(そなみ・ゆうが、4年、洛南)は明かす。
令和のクインテットは「今は撤回します」
学生たちが掲げた「学生駅伝三冠」だが、長門監督は「確かに戦力がそろってはいますが、それでもなかなか大変だと思います。チャンスがあれば狙いたいけど、正直、そこまでの選手層ではないと思う」と厳しめの評価をしている。それと同時に、昨シーズンに長門監督が期待を込めて言葉にした「令和のクインテット」に対し、「今は撤回します」と口にした。
2003年頃、駒澤大学との“紫紺対決”を演じた「クインテット(入船満/岩水嘉孝/奥田真一郎/野口英盛/坂井隆則)」に長門監督も憧れた1人だ。トラックでも駅伝でも、それぞれの強みを出せる世代になってほしいと期待し、長門監督は当時3年生だった伊豫田達弥(舟入)、四釜峻佑(山形中央)、平駿介(白石)、西澤、野村優作(田辺工)の名前を挙げた。彼らが最上級生になった今、あえてその言葉を撤回したのも期待の裏返しだ。「それぞれの個性がしっかり生きていた世代だったと思いますので、個性を生かして、個性に対してこだわりをもって彼らが輝いてくれたら、その時こそ『クインテット』と言えるかも」と、ここからの成長を待ちわびている。
順天堂大は昨シーズン、出雲駅伝10位、全日本大学駅伝3位、箱根駅伝2位だった。長門監督が掲げる最終的な目標は箱根駅伝優勝。その上で、出雲駅伝でも全日本大学駅伝でも「3位以内でないといけない」と言い切った。
三浦が世界陸上で感じた世界との差
今シーズンのチームにおいて、三浦の存在はもちろん大きい。7月にアメリカ・オレゴン州ユージンで開催された世界陸上に現役の大学生として出場。三浦は3000mSC予選で8分21秒80の5着だった。各組3着までが順位で決勝に進出、残る6人はタイム順だったが、三浦は前とはわずか0.74秒差での7番目で予選敗退となった。長門監督は「これが世界のレベル。東京オリンピック(7位)の時のようにとんとん拍子にはいかないんだよ、ということが学びの一つだと思う。それを踏まえて今後、どう進めるかを考えていかないといけない。今後は海外遠征も経験させたいので、トラックからロードへの移行は少し遅らせる予定です」と言った。三浦自身、改めて世界で戦うために何が必要かを考えるきっかけになったようだ。
一次合宿には三浦も初日から参加。練習は仲間と別メニューになることも多いが、「自分が練習を引っ張るなど、チームに果たせる役割は多くないのかもですが、自分が結果を出すことで刺激を与えられたらいい」と三浦は言う。実際、世界を見据えて挑む姿はチームメートの刺激になっており、長門監督は「三浦がレベルの高い結果を出したり、彼自身が世界との差を肌で感じたりする中で、他の学生たちが見ている目線も、それまでよりも高いところに変わってきたと思います」と変化を実感している。
全日本は「勝負する」布陣に
昨シーズンを振り返ると、出雲駅伝では伊豫田が1区を走ったが、全日本大学駅伝と箱根駅伝では平が1区を務めている。その前の2020年は出雲駅伝が中止になり、全日本大学駅伝と箱根駅伝は三浦が1区だった。今シーズンも平や三浦が1区候補に挙がるだろうが、長門監督は「1区を任せられる選手はそんなに多くないと思いますが、別の選手が出てきたら彼らを他に回せるので、1区を狙うような学生が出てくれるといいなと思っています」と若い力に期待を寄せる。
実際、この秋にブレイクが期待できる下級生も出てきているという。服部壮馬(2年、洛南)は昨年の出雲駅伝では4区区間14位と苦しみ、全日本大学駅伝と箱根駅伝ではメンバーから漏れたが、「昨シーズンのメンバーと同様のことができていたので、特に箱根は当然、メンバーに加わってくると思う」と長門監督は言う。また、浅井皓貴(こうき、2年、豊川)は昨年の全日本大学駅伝の直前に10000mで28分45秒31と初の28分台をマークしたが、ケガで学生駅伝デビューを逃した。その分、2年目にかける思いは強く、今シーズンは順調に調子を上げている。
特に全日本大学駅伝では、距離の長い7区(17.6km)とアンカーの8区(19.7km)に誰を配置するかも大事なポイントになる。昨年はアンカーを四釜が務め、順位を5位から3位に上げた。昨年まで選手選定は「その距離をその時期に走りきれる選手」だったが、今年は「勝負する」という意味で主力クラスの選手を7区、8区に置きたいと長門監督は考えており、全日本大学駅伝でも“優勝”を見据えた“3位以内”という気持ちが伝わった。
西澤も主将としてチームを見た時に、足りないところがあると実感している。「仲がいいチームは大事だけど、厳しさもあるチームにしたい。それが前半シーズンのタイムが、結果が出ないことにつながっていたと思う」。一人ひとりが個を磨き、全員の力でチームを押し上げる。この世代だからこその輝きを放てるように。