陸上・駅伝

特集:第98回箱根駅伝

順大が箱根駅伝2位で15年ぶりのトップ3 金太郎あめ世代が見せた力、伝統を後輩へ

順天堂大は往路5位から追い上げ、総合2位をつかんだ(撮影・藤井みさ)

第98回箱根駅伝

1月2・3日@東京・大手町~箱根・芦ノ湖間往復の217.1km
順天堂大学
総合2位(往路5位、復路5位)

箱根駅伝で順天堂大学は往路5位、復路では6区・牧瀬圭斗(4年、白石)と8区・津田将希(4年、福岡大大濠)の2人の4年生が区間賞の走りで勢いづけ、総合2位と15年ぶりとなるトップ3に入った。アンカーを務めた近藤亮太(4年、島原)は「(入学する)もっと前に松枝博輝キャプテン(2016年卒、現富士通)が意識改革をして、自分たちが2年生の時の藤曲寛人キャプテン(現トヨタ九州)も『順天堂は優勝争いをするチーム』だと常々と言ってました。その意識が高まり、偶然ではなく必然的に上がってきました」と言い、伝統を受け継いできた4年生たちが奮起した。

順大・長門俊介監督「令和のクインテット」に、箱根駅伝優勝をめざす4年生の思い

往路は18位から5位へ

順天堂大の1区には長門俊介監督が「令和のクインテット」の1人として期待する平駿介(3年、白石)が担ったが、首位の中央大学と2分12秒差の18位で三浦龍司(2年、洛南)に襷(たすき)をつないだ。三浦自身は前回大会で走った1区(区間10位)でリベンジを目指していたが、長門俊介監督は「練習の段階で一番状態が良かった」という三浦を2区に起用。ただ昨年12月半ばに決めたこともあり、2区を走るだけの下準備はできていないと長門監督自身も感じていたという。

三浦(左)はチームのために2区を走った(撮影・北川直樹)

三浦は前に駿河台大学が見える中でのスタートとなり、すぐに追いつき、自分のペースを刻んだ。13km過ぎからの権太坂に苦しみ、最後は17位で襷リレー。区間11位の結果に「23kmは長かったですけど、それよりも上り坂で足りていないところが見えたので、更に磨きをかけていきたいです。期待に応えられなかったので自分の中でも悔しいけど、のびしろがあると捉えています」と前向きな姿勢を見せた。

3区は2年連続となった伊豫田達弥(3年、舟入)。11位から7位に順位を上げた前回同様、17位からシード圏内の10位に押し上げた。続く4区の石井一希(2年、八千代松陰)も区間2位の快走を見せ、7位で5区の四釜峻佑(3年、山形中央)へ流れをつないだ。

四釜は昨年5月の起伏のあるコースで競われた関東インカレ1部ハーフマラソンで日本人トップになり、夏場もクロスカントリーコースで上りを強化してきた。初の箱根路に「少し舞い上がってしまったのかもしれない」と四釜。11.7km地点の小涌園前のあたりから差し込みがあり、ペースを落としてやり過ごした。その後、中央大と東京国際大学を抜き去ったが最後の上りで足に違和感があった。下りに入ったところで足がつり始め、一度止まって足を伸ばした。持てる力を振り絞り、最後は5位でゴール。区間5位にも「素直に悔しさしかないです」と口にしたが、「3~4区の流れをつなげることはできたのかな」と復路の選手に託した。

牧瀬主将の区間賞で「俺が走ったからいけるでしょ」

6区には当日変更で牧瀬圭斗主将(4年、白石)が起用された。牧瀬自身は長門監督も学生時代に走った9区を希望し、優勝を引き寄せる走りを目指していた。走る区間が変わっても気持ちは同じ。スタートから一気に駆け抜け、17.0km地点の函嶺洞門で青山学院大学に次ぐ2位に出た。最後は駒澤大学に抜かれての3位で襷リレーとなったが、区間賞の走りで続く選手を勢いづけた。7区の西澤侑真(3年、浜松日体)は中盤に駒澤大を抜いてリードを保つ。終盤に失速して駒澤大に抜かれたが最後は粘り、1秒差での3位で襷をつないだ。

往路のスタートを務めた牧瀬主将(右)が区間賞の走りで勢いをつけた(撮影・佐伯航平)

8区の駒澤大はエース格の鈴木芽吹(2年、佐久長聖)。西澤から襷を託された津田はすぐに鈴木に追いつきしばらく併走したが、中盤、けが明けでレースに挑んだ鈴木のペースが落ちると津田は追い抜き、快走を続ける。3位に追い上げてきた中央大と2分55秒もの差をつけて9区の野村に襷をつないだ。

津田は前回大会では5区を走り、区間13位だった。その悔しさを忘れないよう、ナンバーカード(ゼッケン)をベッドの上に貼り、ラストイヤーにかけてきた。全日本駅伝では野村優作(3年、田辺工)とともに5区候補に挙がっていたが、出雲駅伝で苦しい走りになった野村を勇気づけるためにも、津田は自分の悔しさを押し隠して野村の背中を押した。最終的に野村が出走することになり、「その分、最後の箱根駅伝にかける思いは強くなりました」と津田は言う。

箱根駅伝の出走前、牧瀬から電話で「俺が走ったからいけるでしょ」と言われ、余計に燃えた。レース中は追い上げることだけを考えていたため、長門監督から区間賞ペースで走っていると知らされるまでは区間賞のことは頭になかったという。そんな津田の快走に、Twitter上では1字違いの「すだまさき」「菅田将暉」とともに「津田将希」がトレンド入り。前回大会でも話題になっていたことを受け、「今年は自分の名前も入れてやろうと思っていました」と津田。その通りの反響となった。

津田(左)は5区区間13位だった前回大会の悔しさも最後の箱根路にぶつけた(撮影・松永早弥香)

9区の野村は区間13位と苦しみながら2位をキープ。首位の青山学院大との差は7分56秒に広がったが、アンカーの近藤は最後まで「総合優勝」への気持ちを切らすことなく走りきった。15年ぶりとなるトップ3にも「走りながら悔しいなという思いがあったんですけど、この2位はこれからの順天堂に大きな意味をもたらしてくれると思う」と続く後輩たちに思いを託した。

津田「4年生全員で戦ってきました」

今年の4年生に対し、長門監督は選手たちの奮起を期待し、3年生だった夏合宿で「お前たちの世代は金太郎あめだ」という言葉を投げかけたという。特徴がなく、1人が良ければみんな良く、1人が悪ければみんな悪い。その悔しさを4年生たちは胸に刻み、日々の練習から努力を重ねてきた。

アンカーの近藤(左)を牧瀬(中央)らが笑顔で迎え入れた(撮影・藤井みさ)

箱根駅伝を走った4年生は復路の3人だけだが、津田は「エントリーから外れた選手もサポートしてくれて、4年生全員で戦ってきました」と強調する。そんな4年生に対し、長門監督は「金太郎あめのイメージを払拭したいと彼らは常々言っていました。彼らの努力が今の土台になっていると思う」と最後にたたえた。

箱根駅伝で11回の優勝を誇る名門。4年生たちが受け継いだ順天堂大学の伝統は、また後輩たちへと続く。

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