陸上・駅伝

特集:第99回箱根駅伝

青山学院大学・宮坂大器主将 エントリーメンバーに入れなかった後、仲間に伝えた言葉

壮行会でマイクを手に、箱根駅伝の目標を語る青山学院大の宮坂(撮影・井上翔太)

青山学院大学の主将・宮坂大器(4年、埼玉栄)は、連覇をめざす第99回箱根駅伝のチームエントリーメンバー16人に入ることができなかった。12月15日にあった壮行会とメディア向けの共同取材で心境を語った。

「レギュラーを自ら取ってほしい」と全日本初出走

「今年は残念ながら、自分の力が及ばず、16人のメンバーに入ることができませんでした。ただ、ここまで一緒にやってこられた仲間が16人、4年生も多く選ばれて、自分自身本当に感謝しているので、(レース)当日はしっかりとサポートに回って、優勝の力となれるように努めていきたい」。青山キャンパスで行われた壮行会で、原晋監督から選手の決意表明のためにマイクを渡されると、宮坂は気丈に語った。

原監督は壮行会で、主将をエントリーできなかったのは今回が初めてのことだったと明かした。「我々のチームは、身体能力が高いからキャプテンに選ばれるというものでは、ございません。彼はチームを支える裏方として、またときには先頭に立ってチームを引っ張ってくれました。彼のためにも、選ばれた16人はしっかりと箱根路を駆け抜けてくれるものだと確信しております」

原監督が「今回で走れなかったら箱根がない。レギュラーの座を自ら取ってほしい」と位置づけて宮坂をエントリーしたのが、今季の全日本大学駅伝だった。

3区に襷(たすき)が渡った時点で13位と出遅れたものの、7区を任されたエース・近藤幸太郎(4年、豊川工)の猛烈な追い上げで2位まで順位を押し上げ、アンカーの8区で受け取ったのが、宮坂だった。トップの駒澤大学とは2分27秒差をあけられていたが、後続の國學院大學とは51秒、順天堂大学とは1分17秒の差があった。ここでともに主力の國學院大・伊地知賢造(3年、松山)、順天堂大・四釜峻佑(4年、山形中央)に追いつかれてしまった。四釜にはラストスパートに競り勝って3位でフィニッシュしたものの、個人としては区間10位だった。

今季の全日本が最初で最後の駅伝出走となった(撮影・長島一浩)

「自分がしょげるのは誰も求めていない」

チームエントリーから外れると聞かされた際、宮坂は「実際に直近の成績も悪かったので、悔しいです。届かなかったな、残念だなというのは率直な感情です」と素直に受け止めた。一方で、すぐに気持ちも切り替わった。「でも、4年間を通して自分自身は成長できましたし、走れないからといって、自分がしょげるのは誰も求めていない。『走力』では直接、箱根駅伝優勝に貢献できなくなってしまいましたけど、走る選手を最大限、バックアップしていけるように、チーム全体を鼓舞していけるように徹底するだけです」

青山学院大には、13人の4年生選手がいる。原監督は4年生が4年間、誰ひとりとして脱落しなかったことを誇りにしている。「1年生のときは、練習についていくことすらしんどい中で、苦労と思わずして頑張ってきた選手たちが、1月2、3日に輝かしく登場します」。今回のエントリーには13選手中、9人が入っている。

襷を手に、記念撮影の準備に入る

ボーダーラインにいる選手たちの難しさ

10時間43分42秒――。前回の大会記録更新は驚異的だった。ただ原監督は、現在のチームについても「仮に同じ気象条件ならば、それ以上の力がついてきている」と絶大な自信を持っている。最大のライバルは、出雲駅伝と全日本大学駅伝を制し、目標に掲げる「三冠」に王手をかけている駒澤大学だ。

宮坂は全日本で駒澤大に敗れた後、全体ミーティングで選手たちに伝えた。「選手層が厚い分、(出走できるか)ボーダー(ライン)にいる選手が、走りたいがゆえに、練習で出力しすぎてしまうというところに、難しさがある。駅伝の枠を『つかみ取る』というのではなく、つかみ取った上でしっかり『他の大学と戦う』という意識を持って。練習はアピールの場じゃない」

自身がボーダーラインにいるからこその言葉でもあった。「走れていないときは、練習で『動きよく走れるぞ』というところを見せる意識があって、それだと先を見越せていないんです。多少練習で苦しんで、離されたとしても、本番から逆算していかないといけない」。これには同じ4年の西川魁星(市立太田)も、「いつも監督がおっしゃるのは、『戦うのはチーム内ではなく、チーム外の人たち』ということです」。前回は当日変更のために出走はならなかった西久保遼(鳥栖工)も「昨年12月のきつい練習に少し身構えてしまって、そこにピークが来てしまい、箱根に向けて状態が上がらなかった」と続けて発言。層の厚いチームならではの悩みも垣間見えた。

箱根駅伝が終わるまで、主将としての役割は終わらない

最強世代の呼び声も高い同学年で、3大駅伝未出走ながら主将になった宮坂。4年間で走った駅伝は、今年の全日本だけとなった。しかしまだ個人としては、2022年末に行われる学内TTが控えている。「そこで少しでも自信を取り戻せる走りをして、箱根駅伝を走るメンバーを少しでも勇気づけられるように、責務をしっかり果たすということで、残りの期間は過ごそうと決めました」。今回の箱根駅伝で連覇をめざせる唯一のチームの主将として果たすべき役割は、まだ残っている。

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