陸上・駅伝

特集:第99回箱根駅伝

東海大学「ワンチーム」で挑む箱根駅伝 吉田響を欠き、5区は杉本将太のガッツに託す

「ワン-チーム」で挑む東海大学の選手たち(すべて撮影・浅野有美)

陸上は個人競技だ。「個」の力が全てと言えよう。ただ、駅伝はチームで戦う。

東海大は今年「ワンチーム」をスローガンに、4年生が中心になって結束を高めてきた。チーム力が引き出すさらなる個の力で、目標のシード権獲得以上の順位を目指す。

「全日本予選を絶対に落とすわけには」チームがまとまった瞬間

3年連続で区間賞を獲得した佐藤悠基(現・SGホールディングス)や、87回大会の2区で17人抜きを演じた村澤明伸(現・SGホールディングス)。

東海大学陸上競技部中長距離ブロックはこれまで、突出した「個」を輩出してきた。

第95回大会で総合初優勝を飾った時は、館澤亨次(現・DeNAアスレティックスエリート)、鬼塚翔太(現・メイクス)ら(いずれも当時3年)、高校時代から名を馳せた「黄金世代」のメンバーがいた。

だが、「黄金世代」が卒業すると、97回大会では総合5位と踏ん張ったものの、前回は11位に沈み、8年ぶりにシード権を逃した。

復活のためには何かを変えなければいけない――。チームの改革に乗り出したのが、主将の宇留田竜希(4年、伊賀白鳳)をはじめとする4年生だった。

「練習以外はそれぞれの自己管理に任されていたが、そこでの自由をはき違えた甘さ、これが結果に表れていると思った。チームとして私生活から厳しくしていこう、と提案した」

ところが、2、3年生がこれに反発する。陸上は個人競技。そこまで管理されたくない、というのが言い分だった。

「4月頃はチームの雰囲気は最悪でした」宇留田は振り返る。

バラバラだったベクトルがようやく同じ方向になったのは、6月に入ってから。「全日本」の予選会が迫った頃だ。

主務の千原蓮也(4年、綾部)は「全日本の予選は絶対に落とすわけにはいかないと、その危機感がチームを1つにしたのだと思います」と話す。

チームの改革を進めてきた宇留田主将

宇留田竜希「10区で前回のリベンジを」

全日本の予選会4位、箱根の予選会9位、全日本10位。ここまで思うようなレースはできていないが、宇留田は部員全員が今年のスローガンである「ワンチーム」になることが結果につながると信じている。

ただし、陸上は個人競技。大前提として各個人が力を発揮しなればならない。

宇留田はそのことを全日本で痛感させられた。入学以来、毎年けがに泣いたのもあり、今年の全日本が3大駅伝初出走。生まれ育った地元・三重に錦を飾る走りをしたい、と意気込んでいたが、6区で10位に終わった。

「悔しいですし、本当に申し訳ないと。僕がもう少し詰められたらシード権も取れていたので」

最初で最後となる箱根は10区を希望している。

前回、大手町のフィニッシュまであと1kmのところで順位を落とした。東海大にとっては苦い記憶がある区間だ。

「箱根も甘くはないとは思いますが、チームとして前回のリベンジとなる走りをしたい」それは全日本で悔しい思いをした自分へのリベンジにもなるはずだ。

下りは「勝手に足が動く」と話す川上

吉田響がまさかのエントリー漏れ

練習でも先頭に立ってチームを引っ張る4年生の中で、箱根の実績が1番なのは川上勇士(市立船橋)だ。2年時より特殊区間の6区を任されて5位、6位。2年連続で安定した成績を残している。

下りは「正直なところ、あまり得意ではないんです」と明かすが、「勝手に足が動く」と臆せず走れるメンタリティーがある。

実は5区を予定されていた吉田響(2年、東海大静岡翔洋)と「一緒に区間賞を取ろう」と約束をしていた。

吉田は前回、1年生ながら山上り区間で2位と好走した。しかし、体調不良で今回はエントリー漏れに。

川上は「吉田は同じ特殊区間を走った『同士』だと思っています。吉田の分まで、という気持ちはもちろんあります」。

5区は往路だけでなく、復路にも影響を及ぼす重要な区間だ。その5区で計算が立つ吉田を欠いた穴は決して小さくないだろう。

両角速監督が、箱根5区を走れる資質もあると、直々にスカウトした選手だ。箱根予選会でも、調子が良くなかった中でチームトップの26位と、力があるところを示した。

ネットもざわつかせた吉田のエントリー漏れ。チームの危機に、満を持して登場してきたのが4年生の杉本将太(東海大市原望洋)だ。前回、吉田のリザーブを務めた杉本は、昨年から5区を走るための準備をしてきた。

「吉田が体調不良になったのは、気の毒だと思うし、チームにとっても痛いが、僕個人としてはチャンスがめぐってきた、ととらえている」

5区を走る準備をしてきた杉本(中央)

5区は「ガッツのある」杉本将太に託される

杉本は3年連続で5区を走った2学年先輩の西田壮志(トヨタ自動車)に憧れ、箱根の5区を走るのを目標にしてきた。

もともと「無印」の選手だったが、地道に努力し、3年時の関東インカレ3000m障害で入賞(6位)。両角監督から成長を評価された。

5区への思いは強く、前回吉田を起用した両角監督に「なぜ自分ではないのか?」と抗議したことも。

しかし、吉田の実力をまざまざと見せられ、挫折感を味わった。それでも、山上りの練習が念願の箱根での出走もつながると、くさることなく、粘り強く練習を重ねてきた。

その姿を見てきた両角監督は杉本についてこう語る。

「ガッツのある選手。5区でもガッツを生かしてくれると思う。それとチーム全体をしっかり見ている。後輩にも慕われているようだし、チームにとってはなくてはならない存在、それは間違いない」

大学スポーツは4年生の姿勢がチームの姿になると言われる。

この1年、東海大は4年生を中心に「個」の力に頼ることなく、チームの結束を強くし、「個」のさらなる力を引き出そうと、取り組んできた。

箱根での目標はシード権の獲得。むろん、それは最低限の目標だ。「ワンチーム」になった東海大。下馬評以上の力を発揮しそうな気配がある。

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