陸上・駅伝

特集:第99回箱根駅伝

早稲田大学・エース井川龍人、主将鈴木創士 「二枚看板」で挑む箱根駅伝総合5位以内

往路3位以内・総合5位以内をめざす早稲田大の選手たち(撮影・すべて小野哲史)

今年度の早稲田大学は、ひと味違う――。

そんな雰囲気が漂っている。12月17日に埼玉県所沢市の所沢キャンパスで公開練習と合同取材が行われ、6月に就任した花田勝彦駅伝監督とエントリーされた16人の選手たちが、箱根駅伝に懸ける思いを語った。

前回大会は、力のある選手をそろえて優勝を目指したものの、まさかの13位に沈み、3年ぶりにシード権を失った。

あれから1年、巻き返しを誓ってチーム力を高めてきた今回は、優勝を見据えながらの「往路3位以内と総合5位以内」を目標に掲げる。

6月に就任した花田勝彦監督

新監督「チームが100%の力を出せばシード権はとれる」

前回大会は10000m27分台の3人を含め、エントリー選手上位10人の10000m平均タイムが28分34秒38で、出場全チーム中3番手だった。そんなチームが優勝争いに加わるどころか、シード権にも届かなかった。

当時GMOインターネットグループで指揮を執っていた花田監督は、「トラックのタイムは素晴らしいですが、そういう選手たちが駅伝や大事な試合であまり走れていない印象を持っていました。(前回の箱根は)そこまで悪い結果になるとは思っていませんでしたが、うまくかみ合わなかったのかなと」と母校の苦戦を憂えていた。

一方で、6月に駅伝監督に就任すると、「可能性を感じる選手はたくさんいたので、彼らが期待に応えられるような選手に育てないといけない」とチームの明るい未来を感じたという。だからこそ力強く言い切った。

「チームとして100%に近い力を出せれば、間違いなくシード権はとれると思いますし、周りの状況によっては、順位が一つずつ上がって十分に上を狙えるチャンスはある。まずはチームの力をしっかり出し切ることを本番で達成できるようにやっていきたいです」

駅伝主将の鈴木創士(4年、浜松日体)は、「自分たちに足りないところは何なのかを考え、泥臭くやっていこうということで、従来とは違った1年になりました。すごいつらい思いというか、地道なことをやってきました」と話す。

その成果が4位通過を果たした10月の予選会と、その3週間後に6位でフィニッシュした全日本大学駅伝だった。

予選会では鈴木の転倒や山口智規(1年、学法石川)が終盤に過呼吸で立ち止まるなど、いくつかのアクシデントが重なった。

全日本も区間2桁順位を3人も出し、6区では3位から8位に大きく後退。そうした苦境をチーム全員で乗り切ったあたりは、速いけれど強さが足りなかったチームに、確かな強さが備わってきた何よりの証と言っていいだろう。

井川龍人(左)と主将の鈴木創士

自覚芽生えた井川・背中で引っ張る鈴木

エースの井川龍人(4年、九州学院)と鈴木。1年から箱根に出場してきた2人がチームの柱になる。

井川は昨年4月に10000mで27分59秒74をマークし、一躍、学生トップランナーの1人に名乗りをあげた。

しかし、前回の箱根は「練習が積めていなかった」と1区で16位。もちろん、駅伝の結果は誰か1人が責任を負うものではないが、井川の出遅れが後続の選手に影響したのは間違いなかった。

「27分ランナー」と見られることが重荷だったのではないか。そして、それは今年度も続いているのではないか。そうした疑念を井川はさらりと否定する。

「去年、27分台を出した時は故障明けで、1カ月半ぐらいしか練習できていない中、出てしまったというのが本当のところです。なぜ出せたのかも正直わかっていません。でも、今年は実力で27分台を出したいと思ってやってきて、結局、実現はできませんでしたが、力はついてきたと思っています」

その言葉通り、5月の日本選手権10000m(28分23秒16で学生2位)と関東インカレ10000m(28分44秒82で2位)、6月のホクレン・ディスタンスチャレンジ20周年記念大会10000m(28分15秒95)と、高いレベルで安定した走りを披露した。

駅伝シーズンに入っても、箱根予選会で1時間2分39秒の個人9位と快走し、全日本ではエース区間の2区で四つ順位を上げた。そうした数々の好結果は、「エースは自分」という自覚が原動力になっている。

今年の全日本大学駅伝で2区を走った井川(撮影・長島一浩)

逆に鈴木は、駅伝で外さない安定感が群を抜いている。1年時は7区で区間2位、前々回は4区で区間3位、前回は7区で区間5位。ただ、今年度は駅伝主将として悩める日々を過ごしてきた。

「とくに2月や3月頃は監督不在の期間が続き、早稲田はどうなってしまうんだろうと不安と戦わないといけない場面が多かったです」

でも、自分たちは前に進むしかない。「『この経験は絶対、将来に生きる』と自分の中でマインドハックするようにしていました」と振り返り、「背中で引っ張りなさい」という花田監督の指示を忠実に守りながら夏を乗り切った。

予選会(1時間3分07秒で17位)後、鈴木は故障もあって全日本を回避したが、箱根を約2週間後に控え、「調子は良くもなく悪くもなく」と良い意味で冷静に自己分析ができている。ここから徐々に調子を上げていくはずだ。

集団で走る早稲田大の選手たち

目標達成のために「3区が終わった時点で先頭争いに」

目標達成のために、花田監督は「3区が終わった時点で先頭争いに近いところにいないといけない」と考えている。

明確な区間配置の構想は明かさなかったが、10000mとハーフマラソンでチーム最速タイムを持つ井川の起用については、「彼の特性を生かしてどこに使うかがキーになる」と語る。

井川自身は「エースとしては2区を走らないといけない」という思いと、「1年生の時にハイペースでスタートして失敗した3区で借りを返したい」という二つの思いがある。

「正直、上りがそこまで得意ではないので、本番までに攻略できたら2区で勝負したいです。自分の持ち味を生かせるのは3区。往路で3位以内を目指すには前半が大事になるので、どんな順位で来ても、良かったらさらに良い運びに、悪かったら良くなるように順位を押し上げる走りがしたいです」

花田監督は「今回は2年生以下の下級生が多くエントリーされ、次世代のエースもいるので、その兼ね合いも見ながら起用を考えたい」と話す。

石塚陽士(2年、早稲田実)は「今まで安定感のある走りを重視してきましたが、今回の駅伝では爆発力のある攻めた走りをしたい」と意気込む。山口智規(1年、学法石川)も「競ったら負けない自分らしい走りをして、一つでも上の順位を目指して頑張りたい」。彼らの2区抜擢(ばってき)もあるかもしれない。

「山に関しては経験者になると思う。上りも下りも良い形で準備できている」(花田監督)ということから、5区は伊藤大志(2年、佐久長聖)か諸冨湧(3年、洛南)で、6区は北村光(3年、樹徳)か。全日本でアンカーを務めた前回9区の佐藤航希(3年、宮崎日大)に対する指揮官の信頼も厚い。

全日本のゴール後、チームメートから出迎えられる佐藤(撮影・長島一浩)

鈴木は希望区間は特にないという。

「予選会や全日本で花田監督の予想がすごく当たることを感じたので、本戦でも監督に任された区間を全うするだけです。区間上位で走ることができた過去3回の経験から、楽しんで走らないと良い結果は出ないと感じています」

その鈴木が1区や4区に入れば、チームはより盤石になるが、いずれにしても1区に誰が入り、どんな走りをできるかが目標達成のカギを握っている。

前回のような悔しさは二度と味わいたくない。新体制で臨む名門ワセダが、決死の覚悟で99回大会のスタートラインに立つ。

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