陸上・駅伝

特集:第99回箱根駅伝

東洋大学は箱根駅伝3位以内めざす エース不在も酒井俊幸監督「ピンチをチャンスに」

会見で意気込む見せる東洋大学の選手たち。左から梅崎、石田、前田、柏、酒井監督(写真提供・いずれも東洋大学)

10月の出雲駅伝では9位、11月の全日本大学駅伝でも8位。いずれも序盤から出遅れて、上位争いに加わることはできなかった。2年連続して2区を走り、区間4位、5位と好走してきたエースの松山和希(3年、学法石川)が登録メンバーを外れるなど、東洋大学の台所事情は厳しい。

それでも、2009年の初優勝以来、総合3位以内に入れなかったのは2大会のみ。前回大会は全日本で10位と沈みながらも、箱根では総合4位に食い込んだ。東洋大の酒井俊幸監督は、チーム一丸となって総合3位以内を目指すことを誓う。

「松山がいないのは大きな戦力ダウンになりますが、みんな覚悟はできています。エースの穴は1人で埋められない。総力戦でこの難局を乗り越えれば、大きな力になる。往路は総合優勝を狙う他大学に食らいつき、復路で追い上げていきたい。ピンチをチャンスにします」

集団で走る東洋大学の選手たち

頭角をあらわしてきたメンバーたち

出雲、全日本で出走しなかったメンバーたちも台頭してきた。10月に10000mでチーム内トップとなる28分36秒36と自己ベストを更新した熊崎貴哉(3年、高山西)は、その筆頭格だ。

小林亮太(2年、豊川)も9月に5000mで13分55秒81と自己記録を出すなど、スピードを生かした走りでアピールしている。ともに箱根の出走経験はないが、練習から好調を維持。酒井監督は新戦力として期待を寄せている。

「昨年には(メンバーに)いなかった選手たち。2人が加わったのは大きいです」

全日本大学駅伝7区を走る梅崎(写真提供・東洋大学)

奮起期待される梅崎蓮「チームの流れをつくる」

そして、指揮官が名指しで奮起を促すのは、伊勢路のエース区間を走ったコンビだ。

全日本で7区を任された梅崎蓮(2年、宇和島東)は、自身2度目となる大舞台に向けて、落ち着いて準備を進めている。前回の箱根は7区で出走したが、緊張のあまり思うように走れずに区間11位。いまはしっかり地に足がついている。

1年前の悔しさを糧に長い距離に対応するためにスタミナを強化し、後半の粘りも出てきた。もう同じ失敗は繰り返すつもりはない。往路の重要区間での出走も予想される99回大会は胸を張って、スタートラインに立つ。

「任された区間で最大限、自分の力を発揮します。チームの流れをつくるような走りをしたいです」

全日本大学駅伝で8区を走る柏

カギを握る柏優吾「後半に盛り返せるのが僕の強み」

全日本で8区のアンカーを務めた柏優吾(3年、豊川)もカギを握る一人だ。8月の北海道マラソンでは日本人最高位の2位でフィニッシュし、大きな自信をつけた。

来年10月に開催されるパリオリンピック代表選考レースのマラソン・グランドチャンピオンシップ(MGC)の出場権を獲得。ロードでの強さは言わずもがなだろう。

入学4年目して主力の一人に成長した苦労人は、箱根に並々ならぬ思いを持つ。前回は当日のメンバー変更で9区での出場がかなわずサポート役へ。今大会こそ同じ9区での出場を希望し、気持ちを高ぶらせる。

「最初で最後の箱根はチームに貢献する走りをしたい。体がきつくなる後半でも一定のペースを刻んで粘って、盛り返せるのが僕の強みです。42.195kmを経験したことで、気持ちのアドバンテージがあるのかなと。箱根の距離はマラソンの半分くらい。心に『余裕度』があります」

全日本大学駅伝で2区を走る石田

次代を担う逸材・石田洸介「先輩に負けない走りを」

チームの柱として酒井監督から名前を挙げられた2人の近くで、ふつふつと闘志を燃やしていたのは、5000mの元高校記録保持者である石田洸介(2年、東農大二)。

前年度は出雲5区、全日本4区でともに区間賞を獲得して脚光を浴びたものの、箱根では無念のメンバー落ち。給水係に回った悔しさは、いまでも忘れていないという。

「1年時は自分の感覚だけで走っていた。前回の箱根は積み上げてきたものがなかったけれど、今回はしっかり練習を重ねてきました。自信を持っています」

春先はモチベーションを落とし、夏場も苦しんだが、酒井監督と4年生たちから活を入れられて、気持ちを引き締め直した。10月の出雲路は3区で区間9位、11月の伊勢路は2区で区間9位。ポテンシャルを存分に発揮できなかったことが発奮材料となっている。目の前の練習に力を注ぎ、壁を乗り越えてきた自負がある。箱根路では各大学の主力が集う往路での名誉挽回(ばんかい)を誓う。

「エース区間の2区を走った先輩(相澤晃、現・旭化成)は、東洋大から世界に羽ばたいています。僕も世界を目指しているので、2区を走りたい。前回予定していた4区であれば、区間新を目指します」

東洋大の次代を担う逸材として注目されてきた男はプライドをのぞかせる。

「ライバルは、これまで『花の2区』で好走してきた松山さんです。先輩に負けないような走りをしなければ、エースを名乗れませんから」

全日本大学駅伝で4区を走る前田

前田義弘主将「酒井監督に恩返しを」

大黒柱が不在のなか、それぞれが目標から逆算して練習に取り組んでいる。主将の前田義弘(4年、東洋大牛久)は、意欲にあふれる雰囲気をひしひしと感じていた。

「チームの士気は上がっています。一人ひとりが自覚を持って走りたいです」

自身4度目となる箱根路。高速化する箱根駅伝に備えて、スピード練習にも力を入れてきた。設定タイムを5秒くらい上げ、追い込んできたという。3年時は9区で区間5位、2年時は3区で区間8位、1年時は8区で区間6位。往路でも復路でも安定した走りを見せており、区間にこだわりは見せない。

「どの区間でも走る準備はできています。酒井監督に恩返しがしたい」

鉄紺の伝統ある襷(たすき)をかけ、最後まで持ち前の気持ちを前面に押し出す走りを貫くつもりだ。

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