箱根駅伝、明治大はシード奪還ならず 「古豪ではなく強豪に」後輩へ引き継ぐ思い
第99回箱根駅伝でシード権奪還を目指していた明治大学。1区の富田峻平(4年、八千代松陰)、7区の杉彩文海(さふみ、3年、鳥栖工業)が区間賞を獲得するも、11時間1分37秒で総合12位となり、3年連続でシード権獲得を逃した。「古豪ではなく強豪の明治に」。その目標達成は後輩たちに託された。
富田峻平の1区区間賞、成長の証し
前回大会は往路17位、復路3位で総合14位に終わった反省から、今大会は往路、特に1~3区に重点を置いた。スタートにはエースの富田を配置した。
1区はオープン参加の関東学生連合の新田颯(育英大学4年、千原台)が飛び出した。牽制(けんせい)し合う第2集団にいた富田は19km手前で抜け出した。残り1kmで新田をかわし、1時間2分44秒で区間賞を獲得した。
自身3回目の箱根駅伝だった。「ちょうど1年前、7区2位という自信が自分を成長させてくれた」と富田は振り返る。「厳しい中でいいペースで走り切ったことが自信になり、それと同時に卒業する先輩の代わりに自分が頑張っていなかいといけないと自覚したレースだった」と言う。
もともとレースを引っ張るのは苦手。富田にとっては自分自身への「チャレンジ」だった。そして1年かけて克服してきた。日頃のポイント練習では最高学年として後輩たちを引っ張り、大会でも積極的に前に出てレースを引っ張った。経験を増やすことで技術面もメンタル面も鍛えられた。関東インカレの5000m7位、10000m5位のダブル入賞、予選会のチーム1位と着実に成果を積み上げ、箱根駅伝につなげた。
初めての箱根駅伝は9区10位でふがいなかった。次は7区2位でいい走りができたが区間賞をとれず悔しかった。最後は重要な1区を任され区間賞を獲得した。
「自分がしっかり走って流れをつくるという自分の役割を果たせた。すがすがしい。うれしい気持ちでいっぱいです」
積極的にレースを仕掛けて獲得した区間賞は富田の成長の証しだった。
杉彩文海が区間賞でシード圏内に
各チームのエースが争う2区では主将の小澤大輝(4年、韮山)が踏ん張り、13位で襷(たすき)を渡した。3区の森下翔太(1年、世羅)は区間4位で順位を7位に上げる快走。4区はけがで走れない櫛田佳希(4年、学法石川)に代わり尾﨑健斗(2年、浜松商業)が、5区は全国高校駅伝優勝経験がある吉川響(1年、世羅)を起用したが力を発揮できず、往路は5時間31分29秒の12位だった。10位の創価大学とは2分14秒差で、シード権奪還へ復路に望みをつないだ。
翌日の復路は、序盤で下級生が勢いをつけた。6区は堀颯介(1年、仙台育英)が区間8位と力走。7区で杉が猛追し、2km手前で東洋大学の佐藤真優(3年、東洋大牛久)を抜き、17km過ぎで東京国際大学の山岸柊斗(2年、仙台育英)をとらえた。「7区を任された以上、自分が縮こまってもしかたがない。攻めの走りを意識した」と杉。1時間2分43秒の区間賞の走りでシード圏内の10位に押し上げた。
8区は1、2年次に2区、3年次に9区を経験している主力の加藤大誠(4年、鹿児島実業)が流れを引き継ぎ、区間8位で9位まで浮上した。だが9区の下條乃將(4年、東京実業)が区間17位と失速。鶴見中継所の時点で10位の城西大と1分20秒差の12位で、アンカーの漆畑瑠人(4年、鹿児島城西)に襷が渡った。
「万年補欠」の漆畑瑠人、最初で最後の箱根
漆畑は3大駅伝初出走。「万年補欠」と自虐する。鹿児島から上京し明治大に入ったものの、エントリーされても出番なし。区間エントリーが発表される度に親や高校の恩師に報告するのがつらかった。「このまま走れないんじゃないか」と不安に駆られ、くさりかけたこともあった。それでも実業団で陸上を続けることをモチベーションに練習をコツコツ続けてきた。
最初で最後の箱根駅伝は本人もビックリのアンカーでの起用だった。気持ちは高ぶったが、目標達成への責任は重く、甘くもなかった。都心のビル風に体が冷え、速度を上げられなかった。苦しい表情で懸命に走り切り、区間18位でゴールした。それから1時間ほど体が動かなかった。
復路は5時間30分8秒で13位、総合12位となり、全日本大学駅伝に続いて目標のシード権を逃した。
漆畑の心にはうれしさより悔しさが強く刻まれた。「(自分と同じように補欠で悩んでいる選手がいたら)あきらめない気持ちは持ってほしい。そして箱根を走るのが目的ではなく、走って結果を出すことを目標にしてほしい」と語る。卒業後は安川電機に進み、この悔しさを晴らすつもりだ。
4年生が築き上げた土台で新しい明治を
実力者をそろえながら大会でかみ合わずもどかしさが続く明治大。主力だった4年は卒業するが、1、2年と箱根を走った児玉真輝(3年、鎌倉学園)や今回3区で健闘した森下、山登りを経験した吉川、山下りで力を見せた堀、7区で区間賞を獲得した杉など期待の後輩たちがいる。
主将の小澤は「新しく出てきた芽を大切に、新しいチームだと思って頑張ってほしい。少しでも自分がやってきたことが、新しい明治の土台になり、後輩たちが成長してくれたら」と先を見つめる。
小澤は普段の生活や練習に向き合う姿勢を大事にしてチームの土台づくりをしてきた。さらに「目標シート」を提案し、選手たちに毎月の目標と達成度、思いなどを記録してもらうようにした。目標が明確化されると行動も明確化され、それが競技力の向上につながると考えた。「明治が古豪ではなく強豪と言われる日がくれば自分がやってきたことに価値が出てくると思う」
新チームを引っ張る一人となる杉は「(チームは)昨年、一昨年より成長していると実感している。4年生が築き上げた土台、距離を伸ばす練習や起伏のある練習は継続して、その上でハーフでの勝負強い走りをやっていけたたらと思います」と決意を新たにした。
古豪ではなく強豪の明治に。その思いは後輩たちが引き継いでいく。