陸上・駅伝

特集:第98回箱根駅伝

明治大・山本佑樹監督、箱根駅伝は堅実に総合5位以内を 古豪復活の礎を築く

明治大は今シーズン、鈴木駅伝主将(右)が中心となって「強さ」を求め、春から結果を出してきた(撮影・嶋田達也)

明治大学は10月の箱根駅伝予選会で2位の中央大学に4分16秒の大差をつけて1位となり、その2週間後にあった全日本大学駅伝では7位でシード権を獲得。ハーフマラソンを走ってほどなくのレースで、かつ一時は3位でレースを進められたことは自信となり、「気持ち的には充実した思いで箱根駅伝に向かっています」と山本佑樹駅伝監督は言う。学生たちが掲げた箱根駅伝の目標は「総合5位以内」。背伸びをした目標ではなく堅実に、自分たちの力を出し切れたら到達できる目標だと考えている。

箱根駅伝優勝の先を見すえ 明治大学競走部が学生主体でギフティングに臨む狙い

速さだけでなく強さを

「総合優勝」を目指して挑んだ前回の箱根駅伝では往路から流れを作れず、総合11位に甘んじた。総合10位でシード権を獲得した東京国際大学とは26秒差だった。鈴木聖人駅伝主将(きよと、4年、水城)は「速さだけでなく強さが必要で、そのためにトラックシーズンから勝ちきる走りをしなければいけない」と誰よりも強く感じ、日々の練習から言葉と走りで仲間たちに意識付けをしてきた。

その結果は5月の関東インカレ(2部)に現れた。鈴木は5000mで5位、10000mで4位と2種目入賞。10000mには手嶋杏丞駅伝副将(きょうすけ、4年、宮崎日大)も出走して7位に入り、5000mには富田峻平(3年、八千代松陰)も8位に入るなど、両種目で2人が入賞を果たした。ハーフマラソンでも小澤大輝(3年、韮山)が5位につけるなど長距離種目でも多数の入賞者が出たことで、明治大は1部復帰をつかんだ。また6月の日本選手権5000mに鈴木と手嶋が出場。鈴木は12位、手嶋は19位という結果ではあったが、東京オリンピック最終選考となった舞台を経験できたことは大きな収穫だった。

関東インカレでは鈴木(44番)ら複数の選手が入賞を果たした(撮影・藤井みさ)

9月に行われた日本インカレは10月の箱根駅伝予選会に備えるために回避。箱根駅伝予選会では加藤大誠(3年、鹿児島実業)の9位(日本人2位)を筆頭に7人までが30位以内に入るなど、明治大の強さを見せつけた。2週間後にあった全日本大学駅伝は、箱根駅伝予選会後に右足のアキレス腱(けん)に痛みが出た鈴木がエース区間を外れ、春のけがから復帰して箱根駅伝予選会で18位につけた櫛田佳希(3年、学法石川)が臀(でん)部の肉離れで出場を回避するなど、不安要素がある中でのレースではあった。それでも前述の通り7位に入り、3位だった前回大会に続いてシード権を獲得。連戦となったが、それぞれでしっかりと結果を出した。

3年生は「いい意味で自己主張が強い」

山本駅伝監督は箱根駅伝のチームエントリーを候補選手22人の中から16人に絞って選出したという。「選手層が薄いと誰を拾い上げるかになるけど、今回は誰を落とすかだったので、選ばれない選手のことを考えるときつい思いをしましたけど、選手層に厚みが出た証拠ではあるかと思います」

16人中、4年生が5人、3年生が7人、2年生が2人、1年生が2人と3年生が主軸となっているが、「鈴木がキャプテンとしてチームを引っ張ると同時に、4年生が鈴木を支えようという雰囲気があり、4年生あってのチームだなと思っています」と山本駅伝監督は強調する。特に3年生は「いい意味で自己主張が強い選手が多い」と山本駅伝監督は言い、4年生がうまくまとめることで3年生も日々の練習から思い切った走りができていると見ている。

1年生の時から2区を任されてきた加藤(左)に対し、山本駅伝監督は「いい意味で目立ちたがり屋」だと言う(撮影・藤井みさ)

加藤は箱根駅伝の過去2大会で2区を務めてきた実力者だが、今年はうまくかみ合わない時期が続いたため、夏には一度、AチームからBチームに移って強化をしてきた。悔しさも力に変え、箱根駅伝予選会では9位でチーム内トップ。しかし全日本大学駅伝ではアンカーの8区で区間15位と苦しみ、順位を4位から7位に下げてしまった。レース後、「2戦連続でやるということを夏から言われてて備えてきたはずなのに、それを達成できなかったことは非常に悔しい」とこぼしたが、その悔しさも箱根駅伝にぶつけるつもりだ。また初の学生駅伝を目指す小澤、けがから復帰した櫛田も、箱根駅伝に向けて万全の準備を進めている。

ダブルエースの鈴木と手嶋

「総合5位以内」の目標に向け、山本駅伝監督は1区から首位争いをするレース展開を思い描いている。昨シーズン、明治大の1区は全日本大学駅伝でも箱根駅伝でも児玉真輝(2年、鎌倉学園)が務めてきた。しかし今年の全日本大学駅伝では手嶋が1区を走り、トップと16秒差での8位で襷(たすき)をつなぎ、児玉は2区区間2位で好走している。「手嶋には箱根の1区もイメージして全日本で配置しました。その一方で、児玉は昨年よりも遥かに力をつけているので、もう1回リベンジさせたいなという気持ちもあります」と山本駅伝監督は言う。箱根駅伝の1区は、前回はスローペースだったが、前々回は高速レースだったこともあり、今大会がどのような展開になるのか見えないが、「どのような展開になっても力を発揮できるエース格」を1区に据える予定だ。

全日本大学駅伝では1区を手嶋(左)が、2区を児玉が担い、流れを作った(撮影・岩下毅)

箱根駅伝で1つのポイントとなるのが山区間の5区・6区だが、5区は過去2大会で鈴木が走っていることもあり、「ちょっと安心というか、落ち着いて考えられる区間」だと山本駅伝監督は捉えている。ただ鈴木には平地の区間で勝負させたいという思いもある。下條乃將(だいすけ、3年、東京実業)が11月の激坂最速王決定戦男子登り13.5kmで7位(学生6位)につけて5区候補に名乗りを上げたことは、明治大が思い描くレースプランにも大きく影響しそうだ。

中距離ランナーの佐久間が最初で最後の箱根路へ

その一方で、山本駅伝監督が「不安な部分はある」と話すのが6区だ。過去3大会は前駅伝主将の前田舜平が担ってきたため、チーム内には経験者がいない。しかし、佐久間秀徳(4年、國學院久我山)や杉本龍陽(りゅうき、3年、札幌日大)、漆畑瑠人(うるしばた・りゅうと、3年、鹿児島城西)などスピードのある選手が地力をつけてきたことで、6区の見通しも立ってきたという。

中距離ランナーの佐久間は7月に1500mで3分39秒91(日本学生歴代9位)をマークした後、箱根駅伝を目指して長距離にシフトし、手嶋とともに駅伝副将に就任。箱根駅伝予選会のメンバーには入らなかったが、11月14日の世田谷246ハーフマラソンでは初のハーフマラソンながら1時間04分01秒でチーム内トップの15位につけ、11月23日のMARCH対抗戦(10000m)では29分15秒39の自己ベストをマーク。「連戦で結果を出し、20kmの距離にも十分対応できる力がついてきた」と山本駅伝監督も評価している。最初で最後となる箱根駅伝にかける佐久間の思いは強い。

佐久間は中距離を専門にしてきたが、箱根駅伝への憧れをもって明治大に進んだ選手だ(撮影・松永早弥香)

例年であれば山本駅伝監督は往路の順位を想定した上でレースに臨んでいるが、今年の全日本大学駅伝で各校の力が拮抗(きっこう)していることを肌で感じ、順位よりも首位とのタイム差を重視している。「もし往路を終えた時点で10、11位であったとしても、タイム差が少なければ復路での巻き返しは十分可能だと思うんです」。前の走者が見えるという意味では首位と1分以内、遅くとも2分以内で往路を終えられればと考えている。

明治大は古豪復活への思いを胸に、2024年の100回記念大会で総合優勝を目指してチームを強化している。これから続く世代のためにも、明治大の強さを示したい。

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