陸上・駅伝

特集:第97回箱根駅伝

箱根駅伝優勝の先を見すえ 明治大学競走部が学生主体でギフティングに臨む狙い

11月の全日本大学駅伝で3位と力を示した明治大は、来年の箱根駅伝で総合優勝を目標にすえている(写真提供・明治大学体育会競走部)

1907(明治40)年創部の明治大学体育会競走部はその伝統を守り、「陸上競技部」ではなく「競走部」という表記を受け継いでいる。競走部(駅伝)は学内の強化指定部とされており、第100回の記念大会となる2024年1月の箱根駅伝で優勝すべく、山本佑樹駅伝監督の下で力を蓄えている。その競走部は12月23日、スポーツギフティングサービス「Unlim」の活用を始めたが、それはチャンピオンスポーツとしての挑戦に対する資金援助だけが狙いではない。

◆下の画像バナーよりギフティングサービス「Unlim」を通して寄付ができます。

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支え合い、競い合ってきた仲間と72年ぶりの箱根制覇へ

明治大は過去に7回、箱根駅伝で総合優勝をしているが、1949(昭和24)年の第25回大会を最後に総合優勝から遠ざかっている。山本駅伝監督は2017年、日本大学時代の師である西弘美さんが駅伝監督を務める明治大競走部に長距離コーチとして招聘(しょうへい)され、翌18年に駅伝監督へ就任した。「明治大学には個を強くするという理念があり、競走部でも同じように選手たちの自主性を重んじたコーチングをしていきたいと考えてきました」と山本駅伝監督は言う。同17年10月の箱根駅伝予選会では13位で本戦出場を逃したが、翌18年は予選会5位で本戦に復帰。総合17位で予選会にまわった。昨年度は予選会4位、本戦で総合6位となり、5年ぶりにシード権を獲得している。

前回の箱根駅伝、阿部(右)が7区区間新記録・区間賞の走りでチームを牽引し、明治大は総合6位をつかんだ(撮影・佐伯航平)

今年は新型コロナウイルスの影響で様々な大会が中止・延期となり、明治大も思うようにチーム練習ができない日々が続いた。その中でも選手たちは駅伝シーズンを見すえて練習を継続し、多くの選手が5000mや10000mで自己ベストを更新。11月1日の全日本大学駅伝で明治大は序盤から首位争いを展開し、“3強”を崩しての3位と力を示した。

「5位以内」を目標に掲げていたチームはこの結果に自信をつけ、レース直後の記者会見で山本駅伝監督は「次の箱根駅伝では総合優勝を目指す」と公言。選手たちは初めて山本駅伝監督から「総合優勝」という言葉を聞き、今年のチームを牽引(けんいん)してきた小袖英人(4年、八戸学院光星)も「監督が目指しているなら僕らも結果を出して応えたい」と覚悟を決めた。山本駅伝監督は言う。

「全日本は8区間なんですけど、本当は走らせたい選手が10人ちょっといたんです。だから10区間になる箱根になったらうちに分があるんじゃないかな、という直感がありました。全日本では確かに5位を目標にしていましたけど、レース前の選手の走りを見ていたら『もしかしたら3位はいくかな』という手応えがありました。そして選手たちは3位という非常に重みのある結果を出してくれましたから、次はもう優勝を目指すしかない。優勝を目指すと言わないといけないチームになったのかなと感じ、直感的にポンっと口から出てきました。今が伸びるタイミングだと思ったので、そういう大きな目標を掲げた方が選手も成長するんじゃないかなと思っています」

今年の全日本大学駅伝ではアンカーの鈴木が順位を上げての3位だった(撮影・朝日新聞社)

箱根駅伝では往路から熾烈(しれつ)な争いが予想されており、明治大としても直前まで選手たちの力を見極め、調子のいい選手を往路に投入し、復路で粘る走りを思い描いている。「アンカー勝負、ラストスパート勝負で優勝が決まるぐらいの感じで思っています」と山本駅伝監督は言い、選手一人ひとりを万全な状態にもっていく。箱根駅伝特有の特殊区間である山区間(5、6区)に対し、鈴木聖人(3年、水城)と前田舜平(4年、倉敷)という経験者がいるのはアドバンテージと言えるだろう。

昨年の明治大には阿部弘輝(現・住友電工)という絶対的なエースがいた。新チームに移行するにあたり、山本駅伝監督は「エースは誰だ!」とあえて言葉にすることで選手たちを奮い立たせてきた。そんな今年の明治大に対し、「チームワーク、1~4年生が非常に仲が良くて互いに切磋琢磨(せっさたくま)できる環境が今のチームの強さであり、魅力だと思っています」と山本駅伝監督は話す。

住環境を整え、競技と生活をひとつなぎに

冒頭の通り、明治大競走部はスポーツギフティング「Unlim」を通じて一般から資金援助を受け、箱根駅伝をはじめとした大会で「強い明治」を示したいと考えている。得た資金の用途として、4人部屋の寮を改修することなどを構想。けが予防のためのトレーニングルームを完備し、コロナ禍でオンライン授業が続く中でも勉強に集中できる空間も設けるなど、学生たちの能力をもっと引き出すために、安心して継続できる環境整備を計画している。

競走部の園原健弘監督は、学生に高い競技レベルを求めるのであれば、練習での目標と寮生活での目標を同じ軸で考える必要があると認識している。「現在の好調は佑樹駅伝監督の手腕によるところが大きいです。佑樹駅伝監督は『与えられた環境の中で結果を出し続ける』と言ってくれていますけど、彼の能力をもっと引き出すためにも、持続できるような組織に変えていきたい」と考え、スポーツギフティングへ前向きに取り組む決断をした。

山本駅伝監督はひとりのエースに頼ることなく、それぞれの個性を生かしたエースを全員に求めてきた(写真提供・明治大学体育会競走部)

また、箱根駅伝で結果を出すことが競走部内の他ブロックにとって刺激となり、その結果、他ブロックでも競技力が上がるという相乗効果も狙っている。「これをもっと大きな枠組みで、スポーツ界や大学にも還元したい」と園原監督は言い、明治大競走部の行動をきっかけにして、新しい価値創造につなげていければと考えている。

応援されるチームとして学生自身が考えて行動

また園原監督は、大学からの強化費や、OB会や校友会からの寄付とは違い、広く一般から資金援助を受けることそのものに対しても意義深さを感じている。様々な人たちからの応援は学生たちの力になり、自信になる。そしてよりよい自分、よりよいチームを目指したいという原動力になる。「どんな情報を出せば自分たちの価値を伝えられるのか、どうすれば学生主体の組織で取り組んでいることを共感してもらえるのか、自分たちが考える価値はみんなが求めていることなのか。正負の評価があるだろうけど、多くのファンのみなさまと関わって、しっかり受け止めて、ファンを増やせるようにしてほしい」と園原監督は期待し、「Unlim」での取り組みは競走部の学生自身に任せる予定だ。

駅伝主務の飯田晃大(4年、浜松日体)はスポーツギフティングに対して、「大学でスポーツマーケティングを学んでいる選手も多く在籍していますし、それを実践できるチャンスでもあると思っています。学生自身がしっかり運営していき、全日本大学駅伝や箱根駅伝で優勝という目標を掲げているチームの力にもつなげていきたいです」と意欲を示している。現在、競走部はTwitterやFacebook、Instagram、Youtubeなどと様々な情報発信ツールをもっている。そうしたツールも活用し、今後も競走部の活動を積極的に発信していく。

「(駅伝で)常に3位以内に顔を出して、明治大学は強いという認識の下で学生にはやってもらいたい。競走部に所属している重みを感じながら学生生活を送り、社会に出る、といういいサイクルをつくりたい」と山本駅伝監督(写真提供・明治大学体育会競走部)

明治大は2024年に箱根駅伝総合優勝を目指して強化を続けてきたが、それよりも早いスピードでチームは力をつけている。そして来年1月、山本駅伝監督も選手たちも総合優勝への思いを胸に、箱根路に挑む。「その次の大会でも3位以内にいるようなチームをつくっていきたいですし、全日本大学駅伝においても全日本タイトルは絶対とりたい」と山本駅伝監督は今後を見すえている。応援を力に変え、「強い明治」を体現していく。




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