明治大・鈴木聖人 ラストイヤーは箱根駅伝を勝ちきる「強さ」を主将の走りで見せたい
昨年の全日本大学駅伝で3位になった明治大学は、今年の箱根駅伝の優勝候補にも挙げられていた。しかし総合11位でシード権を逃した。「流れがいい時はいいけど、悪い時には悪い。流れを変える走りをしたかったんですけど、力んでしまい体が硬くなってしまって……」。今年の箱根駅伝で2年連続5区を走った鈴木聖人(きよと、3年、水城)は力なくつぶやいた。主将として迎えるラストイヤーは「強さ」も備えた走りを目指している。
悪い流れを立ちきれない弱さ
明治大は箱根駅伝後、10日間と例年よりも少し長いフリー期間を設けた。鈴木も地元・茨城に帰省してリフレッシュをしようとしたが、 胸のつかえが取れない。「全日本でうまくいって、周りの人からの注目もすごくあって、SNSでも『今年の明治はいい走りをしてくれるんじゃないか』という期待を感じていました。でもシードもとれず、安定した強さがなく、まだまだ弱い。箱根で活躍しないと全部否定されるような、ここで走れないと気持ちよく終われないなと思いました」。沸き起こる悔しさから、地元に帰ってからも練習を継続した。
2020年度のシーズンを振り返ると、新型コロナウイルスの影響で様々な大会が中止・延期になり、明治大としては5年ぶりに走る予定だった出雲駅伝も中止になった。全日本大学駅伝ではトップ争いを繰り広げ、アンカーの鈴木は青山学院大学の吉田圭太(4年、世羅)を抜き去り、3位でフィニッシュ。レース後の会見で山本佑樹監督は「箱根駅伝総合優勝」という目標を初めて公言し、これからのチームは「鈴木を中心に」という言葉を添えた。そこには鈴木を鼓舞(こぶ)し、ともにエース争いをしてきた小袖英人(4年、八戸学院光星)や手嶋杏丞(3年、宮崎日大)たちに刺激を与える狙いがあった。その山本監督の言葉に、鈴木は改めて信頼されていることを感じ、箱根駅伝への思いを強くした。
全日本大学駅伝の直後にあった記録会では、レースを走らなかった選手が5000mで続々と13分台を記録。10000mの記録保持者も15人に増え、層の厚さを見せつけた。鈴木は自身3度目の箱根駅伝を前にして、チームのために5区を走ると心に決めていた。前回大会で初めて5区を走り、順位を9位から5位に引き上げた。「他の選手に比べると少し上りに強いのかなとは思っていたんですけど、自分の中では山を上れるというイメージはなく、やってみたらやれたという感じです」。もし悪い流れの中で襷(たすき)を託されても、自分が流れを絶ちきってみせる。そう決意してレースに臨んだ。
1区を任されたのは全日本大学駅伝でも1区で力を示した児玉真輝(1年、鎌倉学園)。しかし想定外のスローペースから始まったレースに苦しみ、16位での襷リレーとなった。その後も流れは変わらず、鈴木は14位で襷を受け取った。前の走者が見えていたこともあり、自分が巻き返すという気持ちで走り始めたが、それが力みになってしまった。思うようにペースを刻めず、後ろからは城西大学と法政大学が迫る。後半から切り替えられたが順位は14位のまま、区間9位でレースを終えた。「レース前にけがをしてしまって、去年もそんな感じで、なかなか箱根駅伝に万全な状態で臨めていません。箱根駅伝に向けて調整ができていないあたり、自分の弱さを毎回感じています」
復路でも苦しい展開が続く中、8区の大保海士(4年、東海大福岡)が初めての箱根路で区間賞の走りを見せた。鈴木にとって大保は同じ寮部屋の先輩でもある。「大保さんは普段の生活を見ていても、真面目に毎日黙々と積み重ねているなという印象でした。力みをあまり見せないというか、自分の中にぶれない芯をもっていて、ジョグなんかも誰かとではなくひとりでやっていました。淡々と走れる強さ。悪い流れの中でも自分の力を発揮できたのは、この1年間の大保さんの成果なんだろうと思いました」。そうした先輩の走りを見て、改めて積み重ねの大切さを痛感させられた。
高3、明治の予選会敗退に「自分が明治を強くする」
鈴木は山本監督の指名で主将になった。鈴木は中学校でも高校でも主将を担ってきたが、「自分はあまり主将に向いていないと思う」と明かす。それでも明治大に入学してからは「自分がこれからの明治を強くする」という思いで走り続けきた。
鈴木が陸上を始めるきっかけになったのは2つ上の兄・鈴木正樹さんの存在だった。兄の背中を追って水城高校(茨城)に進み、初めての全国高校駅伝(都大路)では兄弟で襷をつないだ。しかし鈴木は区間38位に沈み、チームは13位だった。兄を笑顔で送り出せなかったという悔しさから、もっと強くなりたいと強く思うようになった。
高校生の時、進学先として最初に浮かんだのは兄がいる東京国際大学だった。「兄とまた一緒に走るのもいいな」と思う一方で、「大学では違うところに進んでライバルになるのもいいのかな」という気持ちもあったという。高2の時に高校の監督から明治大を進められてからは、後者に気持ちが傾いた。小さい時から明治大には駅伝強豪校というイメージがあり、中学時代に着ていたユニホームと同じ紫色なところにも親近感があった。高3になってすぐのタイミングで明治大への進学が決まり、インターハイ5000mで10位(日本人5位)、国体5000mでは4位(日本人3位)と結果を残し、11月の5000m記録会で13分56秒28をマーク。この記録は現在も茨城県高校記録になっている。
高3のこの年、明治大は箱根駅伝予選会で13位となり、本戦出場を逃した。思ってもいなかった現実に鈴木も一瞬は気落ちしたが、明治大には阿部弘輝(現・住友電工)のような強い先輩がいることも知っていたし、自分も1年生の時から走りでチームに貢献できるような選手になりたいと思うようになった。
後輩には出雲を走れない悔しい思いをさせたくない
明治大に進学する前の目標は「学生3大駅伝を走ること」。1年生の時から全日本大学駅伝や箱根駅伝を経験したことで、目標は「走る」から「結果を出す」へシフトしていった。また入学当初は「自分は実業団で競技を続けられるほどの選手なのか」を自分に問い続けていたところがあったが、2年生での丸亀ハーフで1時間1分56秒をマークしたことをきっかけに、卒業後の進路として実業団を明確に意識し始めた。
3年生になってすぐ、コロナの影響で練習が中断され、大会の中止・延期が相次いだ。その中で、昨年10月に行われた多摩川5大学対校5000mで13分56秒43と自身2度目となる13分台をマーク。しかしチーム内では6着だったこともあり、高3で13分56秒28を出した時のような喜びはなかった。その翌週にあった「トラックゲームズin TOKOROZAWA」では10000mに出走し、28分36秒16の自己ベストをたたき出した。対校戦のメンバーに選ばれなかったためサブユニホームでの出走だったが、チーム内トップでのゴールに気持ちが高ぶった。
ラストイヤーでも自己ベストを狙っているが、箱根駅伝での悔しさを抱えた今、それだけでは足りないと感じている。「確かに10000mの記録では(今年の箱根駅伝の)各区間の上位だった選手も明治にはいたのに、流れを変えるような強さが足りないと感じました。記録をもっていてもレースではトップでゴールできる選手は少ないです。そういう勝ちきる強さが必要だと思いました」。公式戦でも記録会でもトップになる。競り合った時にも最後に勝ちきる。力の差を見せつけられたとしても、がむしゃらになって最後まで諦めない。主将の自分がそんな走りを見せることでチームを変えていきたい。
今年2月上旬に幹部メンバーと定めた新シーズンの目標は「全日本大学駅伝で5位以内」「箱根駅伝で総合3位以内」。しかしこれはあくまでも現段階の目標であり、今後の選手たちの走りや結果を見て、上方修正していきたいと考えている。3月14日の学生ハーフは今の力を確認する絶好の機会だ。「ここで走るメンバーは箱根駅伝予選会にも関わってくる選手だと思うので、まずは今の力を出しきってほしい。一人ひとりが楽しんで、でも悔いのないレースをして、ここからまたチームを強くしていきたいです」
出雲駅伝には関東から箱根駅伝の上位10校しか出られない。結局、鈴木は最後まで出雲駅伝を走ることができなった。だからこそ、ラストイヤーは自分の走りでシード権を獲得し、後輩たちにひとつでも多くの舞台を残してあげたい。それが4年生としての鈴木の思いだ。
「誇らしい弟になりたいです」
鈴木が競技を続ける上で、大きな心残りがある。「兄貴に勝ち逃げされているんですよね」
前述の通り、鈴木は兄・正樹さんの背中を追ってここまで強くなった。しかし正樹さんは大学に入ってから故障をしてしまい、高校生だった時のように競い合うことができなくなった。正樹さんは大学で競技を引退し、今は一般就職をしている。
「僕の中ではライバルは兄貴なんで。兄貴が実業団に進んで、走りでプレッシャーをかけてくれたら、僕もまた兄貴のタイムを抜かしてやるって思えたんですが……。走りでお互いを刺激し合いたかったですし、弟としてやっぱり兄貴に勝ちたいですし、正直、まだ兄貴と一緒に走りたかったです。今はそれができないとしても、兄は周りから僕のことも言われているだろうから、『お前の弟すごいな!』と言われるような誇らしい弟になりたいです」
父も陸上をしていたが大学で引退し、妹も今は選手をやめてマネージャーをしている。家族の中で陸上を続けているのは自分だけだからこそ、自分が走ることで家族を喜ばせたいという思いもある。
最後の箱根駅伝を笑顔で終われるように。これまでの悔しさも糧にして、ここから「強い明治」をつくりあげていく。
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