陸上・駅伝

特集:第97回箱根駅伝

明治大・小袖英人「誰にも負けたくない」という思いを胸に、最後の箱根駅伝で区間賞を

前回の箱根駅伝小袖(右)は1区を走り、区間10位だった。最後の箱根駅伝では1区でリベンジか、3区を希望している(撮影・安本夏望)

明治大学は1949(昭和24)年の第25回箱根駅伝を最後に、総合優勝から遠ざかっている。そんな中、山本佑樹監督は3位に入った今年11月1日の全日本大学駅伝直後の記者会見で、「次の箱根駅伝では総合優勝を目指す」と発表した。小袖英人(4年、八戸学院光星)は初めて山本監督が口にした「総合優勝」の言葉に少なからず驚いたが、それよりも「(全日本以上に)箱根ではもっと戦えるんじゃないか」と意欲を燃やしていた。

箱根駅伝優勝の先を見すえ 明治大学競走部が学生主体でギフティングに臨む狙い

先輩たちの力になれなかった悔しさをバネに

「チーム内で言えば誰にも負けたくないし、勝つためには他校のエースとも戦っていかないといけないなと思っています」。4年生として、そしてチームを牽引(けんいん)するひとりとして、小袖は強い思いでラストイヤーを戦っている。

大学4年間を振り返ると、悔しい思いをすることの方が多かった。1年生で挑んだ箱根駅伝予選会ではチーム最下位に沈み、明治大は13位で本戦出場を逃した。2年生で箱根駅伝デビューを飾るが、7区区間18位。「先輩たちがつくってくれた流れを止めてしまった」という後悔から3年生では結果を残すと心に誓った。

その3年生の時に関東インカレ10000mで29分10秒09をマークして8位入賞。同年の全日本大学駅伝では1区を走り、区間5位と今度は自分の走りで流れをもたらした。前回の箱根駅伝でも1区を任されている。大きな集団は15km過ぎまで続き、六郷橋のアップダウンで集団がばらけると小袖も先頭から後れ始めた。シード圏内を目指していた中での区間10位に悔しさが募ったが、阿部弘輝(現・住友電工)の7区区間新記録・区間賞という活躍もあり、チームは総合6位で5年ぶりにシード権を手にした。

3年生の時の全日本大学駅伝で小袖(14番)は1区を任され、区間5位で流れをつくった(撮影・安本夏望)

新チームに移行するにあたり、絶対的エースだった阿部が抜ける影響は大きく、だからこそ山本監督は「誰がエースなんだ!」と口にすることで、選手一人ひとりの意識改革を促してきた。「エースに近い存在として自分の名前が挙がることもあったので、多少プレッシャーはあったんですけど、そこまでそんなに気にすることなく、自分がやるべきことをやろうと考えてきました」と小袖は振り返る。

また4年生として、今度は自分がチームを支える番であることも意識してきた。主将となった前田舜平(4年、倉敷)は、小袖の目から見てもこの1年で大きく変わった選手だという。「チームのために厳しいことも言いますし、チームに言うからには自分がやらないといけないのでそういう行動をしていましたし、キャプテンになってから大きく変わったなと思っています」。自分は走りでチームを引っ張るとともに、積極的に下級生とコミュニケーションをとることを心がけてきた。

危機意識をもって夏合宿へ、全日本で見せた攻めの走り

しかし新型コロナウイルスの影響で4~6月はチーム練習ができず、様々な大会が中止・延期。多くの選手が帰省した中で小袖は寮に残ったが、先が見えない不安からモチベーションを保てず、「正直、その期間は気持ちが切れてしまった」と言う。6月末には選手たちが寮に戻り始め、全体練習が再開できるようになったが、気持ちが入っていなかった小袖は練習で後れてしまうこともあった。「このままだとチームは勝てないぞ!」と山本監督から檄(げき)を飛ばされ、ここからが勝負だと決心。夏合宿では補強トレーニングやクロスカントリーも取り入れ、疲労からフォームが崩れてしまう課題と向き合った。その成果が今秋の5000mで13分46秒56、10000mで28分29秒88という自己ベストに現れている。

夏合宿の最中にあった9月の日本インカレ5000mでは14分30秒96で最下位に沈んだが、11月の5000m記録会では13分46秒56と自己ベストを更新した(撮影・藤井みさ)

11月1日の全日本大学駅伝では2区を走り、ルーキー児玉真輝(鎌倉学園)からトップと8秒差での区間5位で襷(たすき)を託された。小袖は一時首位に立つ走りで積極的にレースをつくり、城西大学の菊地駿弥(4年、作新学院)に次いでの2位で手嶋杏丞(3年、宮崎日大)に襷リレー。「1区の児玉が先頭が見える位置でもってきてくれて、それで自分が前を追って次の走者に渡すだけでした。前を走る2チームの後ろにつこうかとも考えたんですけど、自分が引っ張って後ろを突き放そうと思い、前で勝負しました」。後半に菊地のペースに着いていけなかった悔しさはあるが、自分で仕掛けてレースをつくれたことは自信につながった。

また同期の大保海士(東海大福岡)が6区区間2位の力走を見せたことは、小袖の刺激にもなっている。大保は1年生の時に全日本大学駅伝を経験しているが、それ以降は学生駅伝から遠ざかっていた。「2年目、3年目に苦しんでいたのを見てきたので、4年目に結果を出したことは素直にうれしいですし、同じ学年の4年生が走れているということは自分のモチベーションになりましたし、自分ももっと頑張らないといけないという気持ちになりました」。全日本大学駅伝3位の立役者のひとりになった大保は、小袖や前田とともに箱根駅伝のエントリーメンバーに選ばれている。

全日本大学駅伝の第6中継所直前で大保(右)は東海大の長田と競りながら、一時は長田に先行してトップにも立った(撮影・朝日新聞社)

成長する過程を見せてくれた4年生

今年の明治大は“切磋琢磨(せっさたくま)”という言葉がよく似合う。「一人ひとりが目標に向かって努力しているのが見えるので、そういった部分でチーム内争いが激しいです。この人には負けないとかという気持ちを持っている選手が多く、その気持ちが結果にもつながっている選手も多いのかなと思っています」と話す小袖自身も、誰にも負けないという意識でこの1年を戦ってきた。

山本監督は全日本大学駅伝直後の記者会見で、「箱根駅伝総合優勝」という言葉とともに、「鈴木(聖人、3年、水城)を中心に」という発言もしているが、それは鈴木を鼓舞(こぶ)するため、そしてエース争いをしてきた小袖や手嶋たちに火をつけることも狙っていた。最後の箱根駅伝で小袖は前回走った1区か、コース的に自分の力を一番発揮できそうな3区を希望しているが、どの区間を任されても区間賞の走りでチームに貢献したいと考えている。

小袖たち4年生に対し、山本監督は「1年生の時からコツコツやってきて、4年生になって本当に力をつけたという選手が非常に多い」と話す。4年生が成長していく過程を見せてくれたことで、下級生たちは目指すべき姿を思い浮かべることができただろう。互いに競い合いながら力をつけてきた明治大は、全日本大学駅伝で得た自信を胸に、箱根駅伝で更なる高みを目指す。




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