陸上・駅伝

都道府県男子駅伝で長野県が連覇 アンカーの立教大学・上野裕一郎監督が歓喜のゴール

自身4回目のゴールテープを切るアンカーの上野監督(すべて撮影・藤井みさ)

天皇盃 第28回全国都道府県対抗男子駅伝競争大会

1月22日@平和記念公園前発着(広島)
優勝 長野県 2時間17分10秒(大会新)
2位 埼玉県 2時間17分35秒
3位 東京都 2時間18分20秒

3大会ぶりに開催された全国都道府県対抗男子駅伝は、長野県チームが2連覇を果たした。アンカーとして優勝のゴールテープを切ったのは、立教大学陸上部男子駅伝ブロックの上野裕一郎監督。上野は自身にとって6回目の優勝となった。

4区でトップに立ち、差を広げてゴールへ

昨年、一昨年は新型コロナウイルスの影響で中止となったこの大会。今年は2019年以来、3年ぶりに全国47都道府県から有力ランナーが集い、多くのファンも沿道に詰めかけた。

高校生区間の1区7.0kmは兵庫県の長嶋幸宝(そなた、西脇工高3年)と永原颯磨(佐久長聖高2年)のラスト勝負となり、ラストスパートで長嶋が永原に2秒先着。2人はともに区間記録を更新した。2区の中学生区間3.0kmは兵庫の新妻遼己(平岡中3年)が区間トップ。長野の猿田創汰(掘金中3年)は区間23位だったが、順位は3位と踏ん張った。続く3区の一般区間8.5kmでは京都チームの佐藤圭汰(駒澤大1年)がトップに立つ。長野の伊藤大志(早稲田大2年)は区間8位と粘り、トップとは20秒差の4位で襷(たすき)リレーとなった。

3区で粘りの走りを見せた伊藤

4区の高校生区間5.0kmでは山口竣平(佐久長聖高2年)が千葉の鈴木琉胤(八千代松陰高1年)とともに前を追い、兵庫を抜き去ると、先頭を走っていた京都に追いつき、同タイムながらトップで襷渡し。14分02秒と従来の区間記録を5秒更新した。長野の5区高校生区間8.5kmを担うのは、U20日本選手権5000m7位入賞の実力者、吉岡大翔(佐久長聖高3年)。前回優勝時も長野県チームのメンバーだった吉岡は、従来の区間記録を3秒更新する23分52秒でトップをキープ。2位で追う千葉との差を37秒に広げた。

6区中学生区間3.0kmの小林睦(富士見中3年)は区間3位の走りで順位をキープ。最終7区13.0kmには、2位と49秒の差をつけた状態で上野に託された。

前日の取材で、上野は「緊張もそんなにないです。自分の力ってわかっちゃってるから。(後続と)30秒離れて(襷を)もらえるとうれしいですね」と口にしていた。30秒を超える49秒の差をもらい、着実にペースを刻み、沿道からの歓声にも時折、手をあげて応えながら走った。ラスト500mを切り、ゴールが見えると左手、右手の順に「1」を高々とあげる。最後は右手で4、左手で2を作ってゴールテープを切った。

長野県が優勝するのはこれで9回目と最多を誇る。上野はそのうち6回もメンバーに名を連ね、ゴールテープを切るのは4回目だ。今回も37歳にして都道府県駅伝の主役となった。

佐久長聖高メンバー「準優勝と優勝の景色は違う」

長野県チームの監督を務めた佐久長聖高の高見澤勝監督は、「2年間中止が続いて悔しかったので、まずは開催してくれたことに感謝の気持ちがあります。選手たちも感謝の気持ちを持って走れたのではないかと思います。それが結果につながったと思っています」と率直な気持ちを口にする。そして「上野監督、いや選手ですね。彼の影響力は大きかったと思います」と上野の存在を評価した。

レース展開としては5区でトップに立ち、順位をキープして優勝へ、という流れを考えていたといい、「2区でいい流れができて、3区の伊藤大志が予想以上の走りをしてくれました。それが4区でトップに立てた要因ではないかなと思います」と話した。

区間記録更新にも満足しない吉岡

今回出場した高校生は全員が区間記録を更新。山口は一般カテゴリーも含めた全選手の中から優秀選手賞を、吉岡はジュニアA優秀選手賞を受賞した。3人はそれぞれが12月の都大路(全国高校駅伝)で準優勝となったことに触れ、永原は「優勝と準優勝では景色が違う」、山口は「1位と2位の差を体験することができた」、吉岡は「前回自分が体験した日本一の景色を見せてあげたかった」と話した。しかし山口は「区間新は取れたけど14分02秒で、13分台を目指していたので詰めの甘さを感じた」、吉岡も「差は広げられたけどタイムは設定より遅かった」と反省も口にし、さらなる向上心をのぞかせた。

高見澤監督から「予想以上の走り」と評価された伊藤もまた、佐久長聖高の出身で、高見澤監督の教え子でもある。「強豪の一員として走って優勝するという、貴重な経験をさせてもらいました」。個人的には上野が持っている3区区間記録の23分47秒を目指していたが、1秒届かなかった。「最後、並走していた篠原くん(倖太朗、千葉県チーム、駒澤大2年)に負けてしまったことが一番悔いが残ります。順位も一つ落としてしまい、最低限の走りでした。うれしいけどしっかり反省して次につなげたいと思います」

アンカー上野裕一郎「チームの勝利を徹底しようと切り替えられた」

上野は競技者としてこのレースに臨むにあたり、65kgあった体重を62kgまで絞ったという。正確には「食事も特別気をつけたりしているわけではないけど、レースだなと思ったら絞れてきた」と話す。自分がこれ以上成長する感覚はないといい、自らの力の最上限で、できる限りのパフォーマンスを出したいとも口にしていた。目標タイムを問われると「自分が大学1年のときに優勝した37分56秒ぐらい」だと答えていた。

今回のタイムは38分11秒で区間12位。「大きな差で渡してもらって助かりました。『差が開いた』と聞いた時に、(自分の)区間タイムを取るか、チームを取るかと考えて、チームの勝利を徹底し、自分のタイムは二の次だと思いました。そこで切り替えたので優勝できたと思います」。純粋な競技者として臨んでいた時は自分のことに特化することが多かったが、指導者という立場になっていろいろな考えを持てるようになったと口にする。「力のない37歳を選んでくれた長野県の方に感謝です」

通算6回の優勝は「ほとんどが後輩に助けられて優勝できた」といい、この駅伝を「いろんなカテゴリーの中で一致団結できる、将来が見えるような駅伝だと思います」と話す。同郷のトップランナーから中高生が刺激をもらえることも、この駅伝の醍醐味のひとつだ。「(6回も優勝できて)こんなに幸せなことはないです。次にチャンスがあるのは吉岡くんなので、どんどんいってほしいです」と実力ある後輩の活躍にも期待を寄せた。

「チーム長野」の強固な関係が強さにつながっている

長野県チームの強さについて、上野は中学、高校でのしっかりとした選手育成、さらに大学、社会人になってからの連携がしっかりしていることを挙げる。「一人ひとりが大きな目標を持って都道府県に臨んできています。それから関係者が長野県の優勝を目指してサポートしてくれている。『チーム長野』でやれているからこそ強いのだと思います」といい、高見澤監督も「チームとしての団結力は他にはないものだと思います」と話す。今回も若い力と経験のあるベテランが融合し、がっちりと頂点をつかみとれたことがそれを証明している。

レースに出場するにあたり、立教大の選手たちは監督でもある上野を明るく送り出してくれたという。「監督が走っててもなんとも思わないというか……。これが立教のスタイルなんですよ。『監督が出るからテレビでレース見ようか』ぐらいの感じだと思います」とあくまで自然体だ。月曜日からは「上野選手」から「上野監督」に戻り、広島近辺で勧誘活動をしてからチームのもとへ帰るという。「へなちょこな選手」「力のない選手」と謙遜するが、「日本一速い監督」はまだまだ選手としての実力も健在だと見せてくれた大会となった。

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