陸上・駅伝

特集:駆け抜けた4years.2023

青山学院大・中倉啓敦 けがから復調し「寮長は4年の箱根を走れない」ジンクス破った

中倉は安定感のある走りとラストスパートが持ち味(撮影・青山スポーツ新聞編集局)

青山学院大学の中倉啓敦(4年、愛知)は、3年連続で箱根駅伝のゴールテープを切った。2年目は4位、3年目は優勝、4年目は3位と、歓喜のフィニッシュも悔しいフィニッシュも味わった。ラストイヤーはけがや体の不調に苦しんだが、大学で競技を引退する中倉は箱根に懸ける思いが誰よりも強かった。

短距離から陸上を始め、箱根に憧れて長距離へ

中倉は小学校のかけっこで負けなしだったといい、陸上を始めたきっかけは短距離だった。親の勧めで地域のマラソン大会に出たとき、良い順位が取れたことを機に、長距離にも興味を持ち始めたという。名古屋市立神の倉中学校時代は800mで全国中学総体4位入賞、愛知高校時代は1500mで全国高校総体8位入賞と、スピードランナーとして中距離で活躍していた。中学生の頃に見た箱根駅伝に憧れて距離を伸ばしていくと、練習した分結果がついてくる長距離に魅力を感じたと振り返る。

時折見せる笑顔が素敵だ(左が中倉、右は近藤幸太郎、撮影・青山スポーツ新聞編集局)

青山学院大に入学して1年目は、第98回関東インカレ1500mで7位入賞を果たしたが、3大駅伝には出場できなかった。毎年夏ごろまでは大会で思うような結果が出なかったという中倉は、4年間で一度も出雲駅伝と全日本大学駅伝に出場していない。しかし箱根駅伝シーズンになると徐々に調子が上がってきて、2年目からは10区で出走した。初出場となった2年時は、東洋大学の清野太雅(現4年、喜多方)と競り合ったが及ばず、区間4位。チームも総合4位に終わった。翌年、王座奪還を成し遂げた際にはチームに大きく貢献した。アンカーの中倉が襷(たすき)を受け取った時点で、2位の順天堂大学とは7分56秒差。攻めの走りで区間新記録を樹立し、2位との差を10分51秒まで広げた。

第98回箱根駅伝は、中倉の快走もあり青学大が完全優勝を成し遂げた(撮影・朝日新聞社)

けがや体の不調に苦しんだラストイヤー

大学ラストイヤーは7月頃から、左目が白い膜に覆われたような感覚があり、視力がほとんどないくらいまで落ちた。10月頃までジョギングはしていたが、力をつけるようなポイント練習は1回もできなかった。青学大には「寮長は4年目で箱根に出走できない」というジンクスがある。寮長だった中倉は、走れない時期にこのジンクスが何度も頭をよぎったという。11月に行われた第36回宮古サーモン・ハーフマラソンで復調の兆しを見せ、約2週間後のMARCH対抗戦でも好タイムを残した。宮古ハーフの1週間前までけがをしていて、走れるか分からない状況だったが、なんとか箱根に向けて間に合わせることができた。

箱根シーズンになると調子が上がってきた(右手前が中倉、撮影・青山スポーツ新聞編集局)

中倉の箱根出走はかなり濃厚かと思われたが、10区での起用が決まったのは1月2日の往路が終わった数時間後だった。中倉の他にもう一人候補がいたため、結局どっちが走るのかというモヤモヤがありながら準備はしていた。復路で青学大は一時、8位まで順位を落としたが、9区の岸本大紀が5人抜きの快走を見せて3位に浮上。鶴見中継所で待機していた中倉は「アンカーで競り合って走りたくなかったので、岸本ナイスと思った。序盤で追いついていたので、ここからまだ半分あれば後ろも離してきてくれるかなと思って、一安心しながら見ていた」という。

岸本が5人を抜いてから、中倉はレースプランを頭の中で修正した。単独走になると考え、前半は逃げるために早めに入り、後半は余裕を持って走ろうとイメージした。しかし、思いのほか前半がきつくなってしまい、後半は思っていた以上に走れなかった。自分が卒業した後の来年、10区を走りそうなメンバーを勝手に予想し、小原響(3年、仙台二華)と鈴木竜太朗(3年、豊川)に給水を頼んだ。2人からは「最後悔いなく走ってください」と背中を押され、原晋監督が乗る監督車からもラスト1km手前で「最後後輩に良い姿を見せて終わろう」と声を掛けてもらい、力を振り絞った。前年に打ち立てた自身の区間記録を超えることはできなかったが、そのまま3位を守り切った。

「長かったけどようやく終わったなあ」

前述のジンクスを破った中倉は「うれしい。来年以降の寮長に希望を持たせられたかな」と笑顔で話す。4年間を振り返るとつらいことのほうが多かったが、箱根駅伝優勝という一つの大きな目標に向かって、同期やチームメートと切磋琢磨(せっさたくま)してきたことは楽しかったし、良い経験だったと感じている。実業団という選択肢も考えなかったわけではないが、もう陸上はいいかなという思いのほうが強かったという。陸上人生を振り返って「長かったけどようやく終わったなあ」と話す中倉の表情はすがすがしかった。これで競技は一区切り。新たな道に進む中倉にエールを送りたい。

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