パリオリンピック内定の水泳飛込・榎本遼香(下) 東京大会後の苦悩、乗り越えた先に
水泳の飛込競技で、東京オリンピック5位入賞を果たした榎本遼香(はるか)選手が、今夏のパリオリンピック出場内定をつかんだ。昨年4月から地元・宇都宮市の栃木トヨタ自動車に所属。筑波大学大学院の博士後期課程に通いながら、オリンピック出場をつかんだ榎本選手に意気込みなどを聞いた。後半は、練習方法やパリオリンピックへの思い。
※最初の記事公開は2023年3月。パリオリンピック内定を受けて一部を修正しました。
ハイリスクハイリターンで挑戦する技を一つ持ちたい
――長所と、さらに伸ばしたいところはどこでしょうか。
飛び板の世界で、私は日本人の中では身長(165cm)が高いので、海外の選手に見劣りせずに、大きな演技をできる。自分の武器だと思っています。
さらに伸ばしたい部分は、演技が良くも悪くも安定型。ブレないんですが、やっぱりハイリスクハイリターンの競技なので、挑戦する技を一つ持ちたいですね。そこが今後の課題です。
――練習はどのようにしていますか?
昨年9月から今年1月ぐらいまでプールの練習を抑えて、体作りに重きをおきました。あんまり日本ではやられてないんですけど、(エクササイズの)ピラティストレーニングを取り入れ、陸上競技の友達にコーチを頼んでアップの仕方を教えてもらっています。自分で骨盤の動きを左右平等にしたり、下半身と上半身の動きを連動させたり、自分の飛込競技にいかしています。
今の時期はプールで練習しています。
すべての力を出したオリンピックのあとに待っていたもの
――この1年で自分が成長したところはどこでしょうか
オリンピックサイクルでずっと動いてきて、東京オリンピックに出るまでの努力が、まずすごくつらかったけど、楽しかった。
もう全部やらなかったことはないっていうぐらいの努力をしてきて、頑張った。でも、オリンピックの後にどういうことが待っているのかっていうのを知らなかったんです。
連続して、オリンピックに出る過程を知ったというか。やっぱりオリンピックまでがフォーカスされがちで、オリンピックのあとの向き合い方っていうのを、この1年間で知りましたね。
特につらかったのが昨年7月の世界水泳のころ。その世界水泳には海外の選手は、東京に出た人たちはあんまり出てなくて、別のいい選手が来ていた。
一方、日本はやっぱり結構固まってるので、東京に出場してきた人が出てきました。私はオリンピックで果たせなかった「決勝に残る」っていうことを目標に練習して、それが達成できました。でも、周りの人ははるかに上の成績をとっていた。パリを担う次世代の人たちだったので、自分はもしかしたらパリの流れに乗れてないじゃないかなっていう、目標を達成しているのに勝手に置いてけぼりな感覚になりました。
その時期は「もう私にはパリは目指せない」という感じで。本当にどうしようもなかったので、カウンセリングに行きました。
今がどん底だったら上がるしかないじゃん、って思えた
――どのように気持ちを持ち直したのでしょうか?
カウンセリングに行ったんですが、先生に「それでいいんですよ」って言われて。一回で満足しちゃいました。これが、自分をありのまま受け入れるっていうことなんだと。先生の「オリンピックに出た人たちは落ちる時間があるんです。だから4年間、間があくんです」っていう言葉が、ふっと自分の中に入りました。
現役を続けているほかの競技の人とも「やっぱりそうだよね。頑張れないサイクルもあるよね」と話ができ、「今がどん底だったら上がるしかないじゃん」って思えた。
それが今まだ頑張れてる理由かなと思うんです。今はどんどん上がっている段階ですかね。久々に練習してて悔しいし。できないことも楽しいし。久々に飛び込みが楽しいなって思える時間かもしれません。
キラキラした目の子どもたちに頑張るきっかけを
――新しい所属先の紹介と決意をお願いします。
所属先は栃木トヨタ自動車になります。本当に素敵なご縁です。ずっと地元の人に支えられてきた分、あと少しの競技人生かなって自分では思っているので、アスリートのうちにそんな地元に恩返ししたいっていう思いです。
地元に根付いたっていうところを大事にしています。 栃木トヨタ自動車と一緒にパリに向かって頑張っていけたらいいなと思ってます。本当にオリンピック終わってからたくさん講演会の話をいただいて、実際に子どもたちとあって、関わって。なんかあのキラキラした目を見たら、アスリートのうちにこの子たちに頑張るきっかけっていうのを、あげられたれたらなあっていうのがありました。
――パリのオリンピックに向けて
4月の選考会では、福岡の世界水泳の代表権をしっかり勝ち取ります。女子の枠は一つしかないんですけど、三上(紗也可、昨夏の世界選手権で銀)さんに食らいついていけるような演技をしたい。続いて7月の福岡での世界水泳は、地元のオリンピック予選っていうのは、なかなか本当にないこと。日本の選手だっていう強みも生かせるように、ファイナリストに残ってオリンピックの代表権を勝ち取りたい。
シンクロに関しては、まだどうなるかわからないところがあります。馬淵(優佳)さんと、ペアを結成してから日が浅いので、今は試合経験をたくさん積みたいと思っています。世界水泳に選ばれたら、世界を相手に自分たちがどこまで通用するのかを試してみたいです。
福岡では、久々の国際大会だと思うので、まずは肌で、私たちのシンクロの世界観っていうのを、感じられたらいいなって言うのがあります。
パリではオリンピックの全部をちゃんと見たい
――パリのオリンピックについての意気込みを
パリオリンピック、エンブレムが出てましたけど、めちゃくちゃかっこよくておしゃれで。東京じゃない国のオリンピックってどんな選手村なんだろう、どんなおもてなしというか準備があるんだろって、競技以外も楽しみです。
あとは有観客なので、どれほど緊張するんだろう。オリンピックってどんな圧力があるんだろうって。肌で感じて、もう全部をちゃんと見てみたい。
やっぱり行きたいですね。パリ、行きたいです。オリンピックの決勝に残ることが最大の目標です!
――最後に伝えたいことは
私は顔に出るタイプなので。笑ってる時の演技をたくさん見てほしい。いつも眉間(みけん)にしわが寄ってるんで、今年のテーマは笑顔です。つらい時こそ楽しめるように頑張ります。